選考委員による総評

総評2016

  • 佐々木 葉
    早稲田大学理工学部社会環境工学科 教授
    景観・デザイン委員会 デザイン賞選考小委員会委員長
    土木発の「パブリック」の議論へ
    デザイン賞16年目。8代目の委員長を仰せつかった。その初年、第1回の15件に次ぐ14件もの作品が授賞対象となった。歓ばしい限りである。応募件数は18件。ハードルを決して下げていないことは、作品をご覧いただければご了解いただけるはずである。先ずもって応募いただいた皆様、デザイン賞を応援してくださる皆様に心より御礼申し上げる。
    今年はすべての応募作品を審査委員が実見した。北へ南へ、猛暑の中、大雨の中、全国を飛び回った委員から報告される作品の全景から細部まで、そこに展開されていた人々の活動や痕跡、作品を取り巻く広域のロケーション、そして足を運んだ目利きの委員が現場で全身で受け止めた感覚と読み取った価値。その熱い情報と応募資料をもとに重ねられた議論は、延々8時間に及んだ。しかしそこにはネガティヴな言葉がほとんどなかった。レベルの低いものを処理するために頭を使うことは無く、優れているからこそ気になる課題のあれこれを含め、未来へつながるわくわくする議論がつづいた。誠に幸せな時間であった。その議論から、ここでは特に二つの点についてご報告したい。

    公共性とは
    まずは公共性について。過去の授賞作品においても何度か論点となっている公共性は、パブリックアクセス、つまり誰でもが自由にそこを使うことができるか、としてとらえられることが多かったと思う。今回の授賞作品のサンデンフォレストは私企業の敷地内であるが見学会や一般公開によってパブリックアクセスは確認された。しかしそういった狭い意味ではなく、この広大な敷地が自然再生に傾注した方法によって開発され、豊かな環境が赤木山麓に創造されたこと、そのこと自体が充分に公共性が高いと私たちは判断した。あるいはジョンソンタウンにおいては、強い思い入れをもった人たちの存在によって、もしかしたら普通のマンション群に転換していたかもしれない都市の場所性が継承された。これはやはり公共的な意義が大きい、と。つまり土木学会デザイン賞が讃えたいデザインとは、当該敷地の利用者を超えて、より高次の環境や都市性の創造に貢献した作品であるということに、我々審査委員は作品を通して気づくことができたのである。
    その向こうの風景
    次いで、作品の範囲外にある優れた風景を掘り出す、ひき立てる、決してそこなわないためのデザインの大切さを私たちは強く実感した。白糸ノ滝、宍道湖、福島潟というすばらしい風景に臨んでつくられた構造物は、もしそれが別の形であったなら、という想像の、あるいは今は見えない過去の状態と比較をしたときに、その仕事のすばらしさ、チャレンジ性に深く思い至る。そしてすなおに、「ありがとう」という言葉が口をついてでるのである。作意がなく、それ自体が意識の前面にのぼることのない作品たちが支え、引き出してくるその向こうの風景の美しさ。ここにおいても土木学会デザイン賞が讃えたいデザインのかたちが浮き彫りになった。

    土木デザインの未来への示唆
    もちろんその他にも、構造物としてのデザインの密度、地域を巻き込んでの粘り強い努力、小さくとも生み出すことのできる価値、造形の完成度によらずあふれる愛。こうした作品が放つメッセージを私たち委員は審査を通じて受け取ることができた。
    悩ましかったのは、授賞作品の賞の種別の決定と選外という判定を下すことである。作品ごとに種別が異なる価値の評価を超えて、賞の審査は、将来への展開、今後の土木デザインの規範性の提示という責任を負う。そのためには、背景や事情を離れてクールに作品を見つめなければならない。2016年という時間断面で提示されたデザインの成果を、未来への評価軸に位置づけた結果が最終的な審査結果とご理解いただきたい。
    パブリックスペースへの社会的関心が高まっている昨今、内容もサイズもバラエティに富んだそれぞれの授賞作品から、またこの賞を通じて見いだされたデザインの評価観点から、土木発の「パブリック」の議論が世に広がっていくことを強く願っている。
  • 忽那 裕樹
    株式会社E-DESIGN代表取締役
    立命館大学客員教授
    人が関わる風景へ
    土木事業は、常に多くの関係者の協働の成果となって社会に提供される。ゆえにデザインを評価する視点も多様である。このような機会に何が評価されるのかを議論し伝達することを、デザインだと位置づけて共有し、新たな地平を見出していきたい。
    今回、評価されたのは、事業の種別によらず、協働のあり方が良好であり、結果、意味のある場所を提供できているものだったのではないか。地域問題を様々な関係者と共有できたもの、発注者の想いと提案されたアイディアがフェアに評価されたもの。施工時におけるデザイン監理や完成時以降の市民参画の仕組みがあるもの。各局面での開かれた議論と実践が、功を奏していると思われる。様々な要素が絡み合う土木デザイン環境において、計画の方針や展開が一部の人間で進められることは避けたい。多様な主体の参画なくして、公共性を獲得し、次世代に引き継ぐ地域環境を創出することができないことを、今回の評価された事業は物語っている。プロセスに関わる人々が多いほど、歴史文化を踏まえ、社会の制度やしくみを改善でき、時間が蓄積される環境となると信じたい。これを統合することが土木の技術であり、デザインなのである。
    今回、応募された作品を見て回った。まちの縁側として機能している河川や、まちの賑わいのベースとなる道空間、我々の生活を支えるインフラ施設など、どれもプロセスに時間をかけて結晶した素晴らしい場所となっていた。今後それらを育んでいくのは、その場所を使いこなしていく地域の人々の力である。その活動を支える舞台を提供している誇りをもち、そのアイディアを活かしていく仕組みづくりを今後も考え続けたい。人が関わる風景へ向けてのチャレンジを続けたいと思えた審査会。審査員、運営の幹事の皆様、そして、作品応募をしていただいたすべての方々に感謝いたします。
  • 須田 武憲
    株式会社GK設計 代表取締役
    JUDI 都市環境デザイン会議 理事
    場所のチカラ
    今年の審査を終えて感じたのは、「その場所が持つ固有のチカラ」や「その場所の本来的なチカラ」、「その場所が新たに生み出したチカラ」など、「場所のチカラ」という価値の素晴らしさである。
    それは本年度の最優秀賞のひとつ、白糸ノ滝 滝つぼ周辺環境整備にも見られる。白糸の滝自体は確かに自然景観として美しいことには間違いないが、それを毀損させていた要素を丁寧に取り除き、さらに滝を最も美しく見せる視点場を創出することによって「その場所の持つ固有のチカラ」を取り戻し、引き出したということが非常に高い評価につながった。
    また、優秀賞に選ばれた新川千本桜沿川地区とサンデンフォレストは、どちらも長い間、かえりみられる事がなかった場所を、ひとつは護岸改修と親水整備、ひとつは近自然工法による生態系ネットワークの構築という手法によって、それぞれが環境の再生に成功した。結果として「その場所の本来的なチカラ」によって多くの人々に恩恵を与えている現在の姿を高く評価したい。
    一方、社会資本整備への投資減退の時代にあって、時と共に深化し更新できる時間的概念を持つデザイン視点が不可欠となってきた。奨励賞を受賞したジョンソンタウンは、オーナーや設計者の街に対する愛情と、そこに住む人々の街への働きかけという情熱によって、普通ならばマンションかショッピングモールになってしまいそうな立地の街並みが、奇跡のように生き続け、情報を発信し続けている。これはまさに「その場所が新たに生み出したチカラ」によるものだ。
    各賞作品の場所に立ち、対象を目の当たりにし「場所のチカラ」を肌で感じ、空間を評価する土木学会デザイン賞の審査のあり方が必然であることを改めて感じた次第である。
  • 髙楊 裕幸
    大日本コンサルタント株式会社 
    技術統括部 企画管理部長
    引き算のデザイン、成長のデザイン
    去年に比べ倍増となった14件の授賞に係われたことは、実見の楽しさや大変さに比例して喜びも大きい。今年は台風の当たり年で、選考委員は皆個別に、天気や人出、行程を勘案し現場に足を運んだ。今年も構造物や建築、交通・街路や河川、広場や造成など、幅広い種別のデザイン作品に出合うことができた。役得に感謝である。
    私は、橋や道路を「つくる」仕事に長年携わり、環境や景観に配慮した構造物のデザインを専門としてきた。振り返れば、制約条件の再考→構造形式の選定あるいは創出→シルエットからディテールデザインの洗練作業をセットで捉え、予備設計でもディテールまで、詳細設計でも制約条件の再考から提案を心掛けてきた。今回授賞作品の内、デザイン上の大きな制約を逆手にとって、居心地の良い空間提案を行ったログロード代官山と、構造形式からディテールデザイン、施工監理までトータルにデザインをやり切った天神川水門に強く共感した。
    私は“物をつくり新しい景観をつくる”積極的なデザインや、“景観を引き立てる物をつくる”協調のデザインを数多く手がけ、“物をつくらないことで景観を守る”遺すデザインも含め「つくるデザイン」の範疇で仕事をしてきた。一方、白糸ノ滝滝つぼ周辺環境整備では“物を削除し本来の景観を掘り起す”「引き算のデザイン」や、上西郷川の“仕掛けをつくりあるべき景観を育てる”「成長のデザイン」、天神川水門の“景観を損なわないための物づくり”消去のデザイン(「つくるデザイン」の範疇)など、私にとって経験の少ない景観・デザイン概念の作品に数多く出合った。「つくる」以上に、多くの人々と協働が不可欠な「引き算や成長のデザイン」が、既に大きな潮流であることを確認する選考となった。
  • 武田 光史
    武田光史建築デザイン事務所 代表
    人のいる風景の素晴らしさ
    本年度の応募作品は駅舎や商業施設など、建築が景観形成の重要な要素となるものが多く見られた。都市景観の場合、審査対象が街路デザインであっても、その背景となる建物との関係や、建物がもたらす景観的影響は無視出来ないほど大きい。街路デザインが優れていても、建物との間に生活や商業などの豊かな展開が見られない場合、重要な何かが欠落しているように感じてしまう。もう一つ景観に大きな影響を及ぼすのは、人々の存在だろう。人が居るのと居ないのでは、まるっきり空間の印象が異なる。河川や橋梁や都市広場など、そこを利用し集う人々を目にするとき、その場所が地域の人々に愛されている証だと思い、僕たちは大きな安堵と満ち足りた気持を味わい、評価の一基準としているのだと思う。そこで実見の日程は、極力人が居そうな時間帯や週末を選んだ。その中でログロード代官山は、都市の裏側だった軌道跡を表側に変換し、人々が集まり楽しむ場として、全く新しい街の景観を創出したことが高く評価された。
    本年度は最優秀作品が四点あるが、天神川水門と上西郷川 里川の再生の二点は、前者の「目立たない」ことを目指すデザイン、後者の完成後には「見えない」区画整理事業に切り込むことで獲得し得た景観、と言う点で特筆に値する。勿論、どんなプロジェクトも市民とのワークショップなど、結果的には見えない多大な労力が払われているのは承知の上だが、上西郷川 里川の再生ほど「見えない仕事」が物理的景観に決定的な違いをもたらす、と言う例を知らない。モニュメンタルでヒロイックな造形物も景観の大切なランドマークになるけれど、「目立たない」ことや「見えない」ことの重要さを改めて認識させられた。
  • 吉村 伸一
    (株)吉村伸一流域計画室 代表取締役
    評価の物差し
    構造物のデザイン及び周辺環境との調和という点では、最優秀賞の太田川大橋と天神川水門、白糸の滝つぼ周辺環境整備は、ぬきんでて優秀だった。一方、同じく最優秀賞の上西郷川は、「造形デザイン」の新しい概念を提起した点が特筆される。それは「川自らがつくり変化する造形のデザイン」であり、もう一つは「市民が使いながらつくり続ける造形のデザイン」である。変化し続ける川の本質と向き合った技術思想であり、川と市民の関わりの再生という社会的取り組みとしてのデザインである。奨励賞の月浜第一水門は、門柱を空洞化することによって、通常表に出る上屋や管理用通路、油圧装置を全て門柱内に納めている。非常にすっきりとした形に仕上がっており、北上川という広大な水景から浮き上がることなく、しかし、土木構造物の力強さをも感じさせる。あの津波に耐えたことと合わせて、定式化された水門構造を乗り越えたデザインとして高く評価したい。
    社会制度や仕組みのデザインという点で、糸貫川清流平和公園の水辺をあげておきたい。河川管理者は岐阜県、公園管理者は北方町である。このプロジェクトでは、日頃河川管理者とのつきあいがある岐阜大学と土木研究所自然共生研究センターが、調整の役割を担った。水理解析による護岸の必要性判定など、研究・専門機関ならではの調整が光っている。
    地域の生活・文化の創造という点では、ログロード代官山とジョンソンタウンが印象に残った。ログロード代官山は、「緑のパブリックスペースをつくってにぎわいを生み出す」という発想と、それを空間の形として実現したデザイン力もまた素晴らしい。ジョンソンタウンは、老朽化した「進駐軍ハウス」を改修保全し、新たな「家づくり+まちづくり」につなげている。そこに住む人と訪れる人が共存できるまちづくりという点で興味深い。
  • 吉村 純一
    多摩美術大学環境デザイン学科 教授/
    設計組織プレイスメディアパートナー
    もし、違う手法で作ったら?
    去年にひきつづき審査を勤めさせて頂く。去年はランドスケープと土木におけるデザインがどのように異なるのか、共通しているか?に私の興味はあった。評価の軸は「必然性」「持続性」「独創性」に置いた。そして、結果、目指すものには違いが無いと感じた。
    今年の審査においては、この3つに「もし、違う手法で作ったら?」というの視点を加えてそれぞれの仕事と対面した。福島潟、天神川水門、サンデンフォレストなど、もしも違う解き方をしていたら、将来に渡ってずっと悔いを残すものになっていたかもしれないことを思うと、土木が必要とされるデザインの力は風景にとって非常に重要なものであると言わざるを得ない。
    土木デザインは川や堤防、水門など自然の力が直接影響を与える場所でその真価を問われる。何キロにも及ぶ堤防や、川の護岸はそのスケールの大きさからも風景に大きな影響を及ぼす。素材の選択においても10年20年ではびくともせず、風雨に耐えてエイジングを重ねることのできる素材の使い方が求められる。新川千本桜沿川の仕事など、土木的スケールでありながら、造園的技術が巧みに組み込まれており、場所の要請に応じて素材が自ら乞うような使い方をしている。今年の審査ではあらためて土木デザインの持つ大きな力と可能性を感じさせられた。
    土木だからこそできる大きなスケールの風景をつくり出す仕事には、われわれランドスケープアーキテクトはなかなか参画できてこなかった。
    人と場所とそこで求められる機能を丁寧に作り込んでいくこと、ランドスケープデザインも土木デザインも目指すところは同じであろう。まだ見えていない可能性に向けてランドスケープアーキテクトとして土木的仕事にも積極的に関わっていきたい。