選考委員による総評

総評2023

  • 柴田 久
    福岡大学工学部社会デザイン工学科 教授
    景観・デザイン委員会 デザイン賞選考小委員会 委員長
    スケールとタイミングとインパクト
     夏の平均気温が過去最高の暑さだった2023年度、委員長としては、コロナ禍の終息を迎え、本格的に通常モードの審査が遂行できたことを嬉しく思う一年であった。まずは、惜しくも選外となった作品を含め、ご応募いただいたすべての皆様ならびに本賞に協賛いただいた団体各位に心より感謝を申し上げたい。今年度は総数20件のご応募を頂き、7月31日の第一次書類審査によって総数20のうち16件が第二次審査対象として選定、一作品に対し複数の審査委員が現地に赴く実見期間に入った。その後、10月21日に行われた第二次審査会にて、各委員の実見報告をもとに約9時間に及ぶ議論が行われ、最終選考の結果、最優秀賞3件、優秀賞6件、奨励賞3件が決定した。
     今年度の率直な感想として、昨年よりも応募作品の多様さが進み、審査委員間の評価や見解の違いが、より際立った印象がある。授賞か否か、および各賞の選定作品は、上記実見報告を踏まえた投票とその結果をもとにした合議によって最終決定される(無論、委員自らが関係する作品には無投票かつ議論にも入れない)。今年度は特に土木デザインの範疇とは何かを考えさせられる作品が多く、技術と造形、時間の蓄積、豊かな公共性など、評価すべき項目とその重要さについて忌憚のない意見が交わされた。以下、審査のなかで挙がっていた論点を総評として報告したい。
     まずは、作品のスケールに対する評価である。土木のデザインは大規模かつ広範囲で連続性の高いものが多い。故に境界となる箇所をいかに繋げ(もしくは終わらせ)、周囲との関係性や一体性をどのように担保しているか、いくつかの作品で重要な評価視点となった。これは決して規模や範囲が大きければ大きいほど、広ければ広いほど良いという意味では無い。作品の達成度や成果の優れている点を評価するうえで、応募された土木デザインの対象範囲が適切かつ十分かどうか、示された範囲と同時に、範囲外に対するデザイン上の認識はいかなるものか、丁寧に推し量る議論が展開されたように思う。
    次に、作品の利用に関する評価のタイミングである。言うまでも無く、土木デザインは機能性や公共施設としての役割を持ち、使われて初めて評価の俎上にのぼる。作品の応募時期が供用開始から1年以上とされていることも同じ文脈と捉えられるが、いくつかの作品に対して、使われ方や利用価値を評価するには時期尚早ではないかとの意見が挙がっていた。これは実見時に作品の直近で利用価値を高めることが予想される実施中の関連事業の存在に気づかされたものである。作品の持つ公共的な利用の高さを応募時点で評価してよいものか、後により高く豊かな公共性を持つ作品として評価されるべきではないか、本賞の審査が実見によって丁寧に進められるからこそ浮上する論点ともいえる。長期間の利用が想定され、一過性でない、いわゆる時代に耐えうる評価が求められる土木デザインの宿命といえるかもしれない。
    最後に、作品の供用開始によって与えられた地域へのインパクトである。土木デザインの評価は造形的な良質さもさることながら、作品が供用されたことによる当該地域への好影響も重要な成果といえる。衰退し、あるいは消極的にしか捉えられなかった地域のイメージを変え、さらにはそこに暮らす人々の動線や活動自体をより豊かなものに導く土木デザインの功績は評価されて然るべきだろう。それは物理的なデザインだけでなく、設計プロセスや運用上の工夫点、仕組みといったソフトに関わる成果も同様であり、他地域に向けた手本として有用な知見といえる。
    最優秀賞を受賞した石巻市街地における旧北上川の復興かわまちづくり、花畑広場、さいき城山桜ホール・大手前地区は、以上の論点を含め、卓越した作品として高く評価されたものである。個別の言及は後述される講評に譲るが、優秀賞は勿論、奨励賞を受賞した作品のどれも優れた土木デザインの功績と評され、心からの敬意を表したい。おそらく来年度も今年度と同様の暑い日々となるだろうが、それにもまして、熱い議論を呼び起こす多種多様な土木デザインに出会えることを祈念し、皆様からの積極的なご応募をお待ちしたい。
  • 泉英明
    有限会社ハートビートプラン 代表取締役
    担い手と対象範囲
    今年も素晴らしいプロジェクトに出会えて、応募者の皆様に感謝します。今回の議論で印象深く感じたのは、土木デザインの担い手について、対象範囲についての2点だった。
    担い手については、応募はこれまでの行政が整備し管理する公共の空間に、民間主体で、時には官民連携で自ら収益事業をしつつ空間を地域や来街者に開いているプロジェクトも加わった。それらは、不特定多数の人達を受け入れる公共的な空間であり、周辺地域に大きなインパクトを与えていた。完全にオープンでなくゲーティッドな部分を持つ公共性の評価、収益事業の成立が必須となる施設の質の評価など、行政と異なる整備運営主体だからこその議論があったが、空間や施設の質の追求とコストを抑え事業性を高めるという相反することを両立している故に実現されている。覚悟を持つ事業主体が時間軸に耐えられる事業やスキームを内包し、市民の豊かな暮らしや風景づくりに寄与する、新たな担い手がこれから生まれてくる予感がした。
    対象範囲については、プロセスの中でポイントとなった全体俯瞰と個別積み上げの両面性が議論された。ひとつは全体を俯瞰したエリアの個性のとらえ方や創造的アイディア、デザインや意思決定の枠組みなど、もうひとつは個々の技術や専門性から積み上げていくディテールや地道な関係者の参画、実態に合わせた運用など。これらの両面が周到にデザインされているプロジェクトが高く評価され、一方応募に際しての構成員の役割や推しのポイントとの整合がわかりにくいものもあった。対象範囲の内容が複合化することに対応して、審査する側も分野横断の発想を持ち適切な情報収集を行い、応募者の皆さんに対して敬意をもって取り組みたい。
  • 篠沢健太
    工学院大学建築学部まちづくり学科 教授
    絡まりをほぐす
    委員2年目も、ランドスケープデザインと関わりの深い多くの作品と出会った。建築に寄り添う広場、橋梁足元に広がる公園、公園とつながりつつまちの新しい側面を開く交通施設、そしてまち全体と大地のつながりを扱う計画…。応募作品から、土木デザインとランドスケープの多様で幅広い関わり方を見せていただいた。
    一方、審査に際して「判断に悩む」作品も多かった。カタチを決めた背景、社会、経済などの関係が複雑化し、デザインの判断に深く関わるようになってきたことを感じる。カタチのみでは土木デザインを議論できないケースは増加していると感じる。
    作り手もまた作品について深く洞察して、過程を振り返り、場合によっては議論が変化した転換点も明示する必要があるのかもしれない(もちろん、中には経緯を明らかにできない事情もあるが…)。
    明らかにしておくべきことが資料に記載されていなかったり、プロジェクトの「切り取り方」が残念な結果に結びついた作品もあった。形が実現していても生み出した意図や工夫を伝え切れない場合、「デザインの持続性」は果たして保てるだろうか?ケーキでいえば、苺だけクリームだけを食べるのでなく、フォークを縦に入れ、スポンジまで一緒に味わいたい。この状況は、「スポンジ」に相当するであろう自然や大地を扱うランドスケープ分野にとっては、関係性に関与する好機とも捉えられる。土台のスポンジは打たれた杭をどう支え、礎を築きつつ、どう根付かせていくか?取り組み方によってランドスケープは、さまざまな関係性の絡まりを「解きほぐし」新たな関係性を生み、つなげ、広げる可能性がある、と私は信じている。
    今年も多くの優れた作品と向き合いつつ、学ばせていただいたことに感謝したい。
  • 栃澤麻利
    株式会社SALHAUS 建築家
    公共性とは何か、デザインとは何か
    今年度より審査委員を拝命し、若輩者ながら審査をさせていただいた。私は日々、建築設計に携わっており、土木の領域からは少し離れたところで活動している。1年目である今年は、外の視点だからこそ見えるものを発見し、評価することが私の役目ではないかと思い、審査に臨んだ。
    審査を始めてまず驚いたのは、審査対象となる作品の多様性である。土木の領域は建築よりもはるかに広域で、橋梁、街路、河川、広場、まちづくりなど、用途もスケールも多岐に渡る。各分野が抱える課題への取り組みや技術的な革新は、私にはどれも新鮮で、審査の過程は学びの多いものであった。それらは専門外の私が同列に評価し、優劣をつけられるようなものではない。しかし、どんなスケールのものでも、最後には「人」との関係がうまれ、既存の「まち」や「風景」との関係が構築される。これは、建築と同じであり、最後の着地点に「建築」と「土木」の領域区分はないのではないかと思った。私は、たとえ小さな個人住宅だとしても、そこにある「公共的なるもの」に目を向けたいと考えている。門扉の前の樹木1本が、小さな軒下が、様々な人や生物の居場所となり、風景の拠り所になる。私は今回の審査を通して、建築よりはるかにスケールの大きい土木の領域においても、作品単体のデザインを超えたところにヒューマンスケールの「公共性」を獲得することができるのか、ということを考えていたように思う。土木のデザインが獲得しうる「公共性」とは何か、審査を通して感じた問いを来年ももう少し考えてみたいと思う。
    最後に、他の領域の専門家である審査委員の方々と議論できたことは、私にとっては大変貴重な経験となった。この場を借りて皆様にお礼を申し上げたい。
  • 中村圭吾
    公益財団法人リバーフロント研究所 主席研究員
    ソーシャルデザインの力
    土木学会のデザイン賞は、土木と言う分野がもつ公共性のために、土木デザインとは何か?ということがいつも問われる。今回の選考においても、このことが議論となった。土木デザインの特徴は、施設のデザインが公共に作用するとともに、まちづくりなどの大きなソーシャルデザインがその施設やその周辺の空間に作用する。極めて相互作用的なデザインであるために、ソーシャルデザインを評価するのか、公共性を有するその施設を評価するのか、あるいはそのどちらに重点を置くかによってその評価は大きく異なってくる。さらに応募者の活動範囲や応募範囲を超えたソーシャルデザイン(やマスタープラン)が存在するときに、その応募内容の素晴らしさは応募者の成果なのか、それともその活動範囲を超えたソーシャルデザインの成果なのか。この分離は意外と難しく、いつも選考委員を悩ませる。最近は特に、公共性を有する施設のデザインだけでなく、ソーシャルデザインを含めた応募が増えてきている。これは、全国でまちづくりや地域づくりに取り組む団体が多く、その中で、優れた施設デザインを拠点として、事業を展開している好事例が増えていることの裏返しでもあるであろう。土木デザインにおけるソーシャルデザインの力が大きくなってきているのである。ソーシャルデザインはいわばソフトなデザインであり、究極は国土計画や政策デザインも含むであろう。しかし、これらを土木デザインと言うのは行き過ぎであり、やはり公共性を有した施設とソーシャルデザインが相互に作用しているものくらいまでの範囲にすべきであろう。土木デザインとは何か?という選考委員の苦悶はこれからも続きそうである。
  • 星野 裕司
    熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター 教授
    棚から下ろして
    3年目の審査が終わった。この3年で応募いただいた作品数は70、そのうち、山奥から東京のど真ん中まで、13作品を実見させていただいた。河川、ダム、橋梁、広場、公園、建築など、公共空間に関わるほぼ全てのジャンルを体験させていただいたのではないだろうか。それにしても、なんという多様さだろう。過去2年と比較して今年は、活発な市民活動を基軸としながら、一つの建築が周辺のランドスケープと一体的に整備されることによって、地域に大きく貢献する作品が多かったように思う。おそらく、土木・建築・ランドスケープという職能の一体化、あるいは、以前から述べられていた協働が一般化してきたことの現れだと思う。それらが、いわゆる建築作品としてではなく評価されるのは、建築単体が果たすべき機能を超えて、豊かな余白ともいうべき、地域の人々にとっての活動の器となっていることである。その上で仮に、土木学会デザイン賞としてそれらの試みに優劣をつけるとすれば、交通などを含めたインフラ、すなわち様々な施設や活動を規定する条件にまで踏み込んで計画・デザインしているということになる。一方、いわゆる土木施設へも授賞できたことは、土木デザインを専門としている私にとっても嬉しいことであった。特に、長久手市の公園は、こういう計画・デザインを、みんなやって欲しいなという点で、土木のデザインのスタンダードが向上してきたことを実感させてくれた。最後に、自分のことは棚に上げなくてはいけない審査員という立場は、本当にしんどい。この3年間で深く勉強させていただいた。応募された皆様に、本当に感謝したい。これからはまた、棚に上げたものをもう一度下ろして、目の前の事柄に真摯に取り組んでいきたい。
  • 松井 幹雄
    大日本ダイヤコンサルタント株式会社 執行役員 技術統括部 副統括部長
    事業マインドは首尾一貫しているか
    今年も様々なジャンルからの応募が有り、土木デザインの価値の源泉を、選考基準の原点に戻って自問自答しながらの審議となった。そして、自分なりの価値判断の根元にあると感じたのが、事業マインドは何であるか?であった。加えて、それが首尾一貫して、造形の力強さや洗練度に繋がっているか、あるいは幸せを感じる方向に風景を変化させたか、という観点からの観察姿勢になった。価値判断の比重が、造形の完成度に加えて、それを目指した事業マインドの価値について吟味する度合いが増えていった。結果として、事業マインドの強い案件は造形の出来に難があっても評価することとなり、一方、反対の状況も出てきた。個人の見解であるが、最優秀、優秀、奨励の各賞を分けた要因は、事業マインドの首尾一貫性と造形の出来具合のかけ算結果に比例したと理解している。
    マインドの重要性は、例えば、今年のグッドデザイン賞で掲げられた審査テーマ「アウトカムがあるデザイン」で意識された、デザインを生み出すプロセスや、創造の根底にある様々な哲学や挑戦を読み解くこと、に通じるし、企業経営者に認知が拡がっている「社会に対してどのような存在意義を出して、どのように貢献するのか」を掲げるパーパス経営にも通じる、実に今日的な視座だと認識する。
    任期3年の選考委員は今期で終わるけれど、社会が大きく変化していく状況を感じとれて、貴重な経験をさせていただいた。これからもマインドの価値は増していくと思う。本賞に応募を予定している皆様は、この重要性を認識して応募書類に反映されるようお願いして、講評を終えます。3年間、ありがとうございました。