デザインとはこれまであまり縁のない世界にいたが、川の専門家ということで、期せずして土木デザイン賞の選考委員という貴重な機会を得た3年間だった。審査ではいつも、土木デザインとは何か、ということを考えさせられる日々であった。土木デザインの特徴を考えると「オープンデザイン」という言葉が浮かぶ。自動車や建築物といったデザインと比較するとデザインの輪郭があいまいで、広く開かれている。オープンさには「空間的」「時間的」「社会的」の3つが存在している。「空間的なオープンデザイン」は、ある種の結界を張ることによって、その空間を特別なものにしつつ、その場所自体は開放的で外に対して開かれているようなデザインである。これだけのことで、こんなに変わるのかという驚きがある。「時間的なオープンデザイン」は、自然相手のように時間的な変化が大きいデザインである。特に川はその変化が激しく、ある意味デザインすること自体難しく、自然との共同作業(design with nature)にならざるを得ない。自然を読む力、あるいは読めなかったゆえの偶然性も作用するデザインである。「関係性のオープンデザイン」は、地域社会との関係性(しくみ)も含めてデザインするものである。ここまで来ると「編集力」に近いものかもしれないが、その中核に施設などのデザインがあり、関係性を触媒する。特に近年、まちづくりなど「しくみ」のデザインの比重が大きくなっている。
今年もそのような土木デザインならではの多様なオープンデザインに触れることができた。いっしょに楽しんでいただければ幸いである。
今年度は総数19件のご応募を頂いた。8月1日に行われた第一次書類審査によって総数19のうち、15件が第二次審査対象として選定され、一作品に対し複数の審査委員が現地に赴く実見期間に入った。10月24日に行われた第二次審査会では、各委員からの実見報告をもとに約9時間に及ぶ議論が行われ、最終選考の結果、最優秀賞2件、優秀賞8件、奨励賞2件が決定した。
今年度においても、やはり永遠のテーマともいうべき「土木デザインとは何か。何をどのように評価すべきか」について、各審査委員から忌憚のない意見が出され、熱い議論となった。以下、審査のなかで挙がっていた主要な論点を総評として報告したい。
第一点目は、周辺エリアとの関連性からみた評価の是非である。応募された作品が周囲といかに繋がり、あるいは周辺エリアへの影響や河川、道路といった連続して形成されるインフラ・システムの中でどのような価値を持つのか、丁寧に推し量る議論となった。本賞では作品の審査範囲を明確にして頂く決まりがあるが、審査範囲の実見後、上述した周辺との有機的な関係性や波及効果の可能性について意見が分かれる作品も少なからずあった。範囲内の完成度に加え、周辺エリアとの調和や及ぼされるインパクトは、豊かな公共性が求められる土木デザインの重要項目といえよう。
第二点目は、その完成度の高さと実現に至るまでの取り組み、労力についてである。デザイン賞なのだから、当然、応募された作品の技術と造形の卓越した点はどこにあるのか、作品毎に吟味する審査が行われたことは言うまでもない。その実現に至るまでの様々な困難をどのようにクリアしていったのか、関係者の創意工夫がデザイナーの心意気として伝わってくる作品が多かった。一方で全体的なフォルムの美しさに加え、それが地域の風景のなかでいかに佇み、住民の自慢したくなるようなランドマークになり得ているかも実見時の重要な報告事項となった。規模の大きい傾向にある土木のデザインにおいては圧迫感等が問題視されることも多く、解決を図るディテールへの拘りや工夫の徹底さに脱帽の思いを抱かせる作品もみられた。
第三点目は、デザインのモチーフとなった歴史のとらえ方である。その土地固有の歴史や文化を理解し、継承を目指す土木デザインの方向性に異を唱える人は少ないだろう。しかし、大都市などの変化し続ける場所において、新たな利用や価値を生み出そうとする土木デザインの現場では、上記歴史や文化をどのように捉え、洗練されたデザインとして昇華させられるか、極めて難しい作業といえる。審査委員間でも見解や評価の分かれる作品がいくつかあり、表層にとどまらないデザインへの履歴・歴史の活かし方について、白熱した議論が展開された。
以上の論点を含め、後述される講評からも、受賞した12作品が優れた功績を有し、高く評価されたことがお分かり頂けるだろう。受賞された関係者の方々に対し、心より祝意と敬意を表したい。すべての審査を終え、改めて冒頭の問いに対して思うことを述べ、総評を閉じたい。それは土木が、時代の変化に対応できるよう積極的な変化を模索するとともに、逆に変わってはいけないもの・ことを追求し続けることの大切さである。これまでもこれからも、安全安心は勿論、暮らしの豊かさを提供し、自分たちが住む地域への誇りと愛着を促し、いつしか人生の幸せを実感してもらえる、その舞台づくりこそ、土木デザインが担うべき変わらない役割と言えまいか。