北海道上川郡和寒町~北海道上川郡剣淵町
高速道路
現地の開けた谷に臨む自然豊かで緩やかな丘陵傾斜地は、北海道らしい特徴的な地形であり、日本の高速道路のお手本であるドイツアウトバーン沿線の地形を彷彿とさせる。
この美しい地形条件を活かした「北海道らしい美しい高速道路」をつくるという理念のもと、また「与えられた地形や樹木の改変を最小限にとどめ、ミティゲーションを実践することが道路の防災面を向上させ、事業費削減につながる」という信念のもとに、景観検討委員会によって地形に調和した線形計画が検討され、修正設計が実施された。
検討会では、自然豊かで緩やかな丘陵傾斜地を活かし、上下線分離外側2車線とし、暫定供用開始時の地形との調和と経済性に意を払った計画がなされた。そして、計画・設計から施工まで一貫して計画意図が継承されたことで、景観的配慮と経済性の両立を実現した。
検討にあたっては、徹底した現地踏査による地域認識と景観資源の発掘から始まり、地形に準拠して馴染んた平面・縦断線形を採用し、平面・高低分離を行った。その線形に対し、切土法面の緩勾配造成とラウンディング手法の採用、人工構造物の削減を行っている。当然、既存林のある区間ではその取り込みのために広幅員中央分離帯を積極的に活用している。
これら景観検討における重要な観点は、特別のことを考えるのではなく、これまでに実施されてきた道路計画において提案されてきた手法・技術をことごとく俎上に載せて、現地に適用すると効果的であるものを確実に実践に移したことである。例えば、上下線の高低分離は道路の中央線が2本引かれるため、しかもその2本を相互にチェックしなければならないために、通常の線形設計の倍以上の手間がかかる。その手間隙を惜しまず、果敢に検討し実現したことである。
道路はこれまでに蓄積してきた叡智をもって真っ当に造れば必ずや美しいものとなり、地域の景観に馴染むようになる。そのことを実証した事例である。
道路デザインにおいては著名な事例である。竣工後15年を経ての応募に感謝する。応募資料に記された設計者自らの言葉が、この事例の意義と価値を端的に示している。いくつか引用したい。
「特別のことを考えるのではなく、これまでに実施されてきた道路計画において提案されてきた手法・技術をことごとく俎上に載せて、現地に適用すると効果的であるものを確実に実践に移した」。「与えられた地形や樹木の改変を最小限にとどめ、ミティゲーションを実践することが道路の防災面を向上させ、事業費削減につながる」。「実践には、道路が立地する地域の特性熟知や技術の適用を判断する優れた技術力が欠かせない」。
セオリーは明快だ。それを適用する技術と手間暇がなぜ多くの道路には投入されないのか。そう問うているかのようだ。
さて実際に走ってみればとても快適で楽しい。高速道路とは思えないような優しさ。構造物の印象が残らず、緑と空に包まれる。あのドイツトウヒだけでなく中央分離帯に点在する独立樹が視線を柔らかく受けとめる。一言でいえばストレスがない。それは利用者だけでなく、地形や植生、工事についてもいえる。手足を縛ったような厳しい条件下で何とか構造物をつくるマゾヒスティックな技術志向の対極にある。現地を見る目と手間を惜しまぬプロの仕事によって実現した本作品であるが、関係者が故人となられたり、当時の組織が解散するなど、道路デザインの王道を継承する場は今や多くはない。この受賞を機にこの作品のメッセージが一人でも多くの人の胸に刻まれることを願う。(佐々木)
修正設計は1996〜97年。2003年に供用を開始してから15年という時間が経過してからの応募。関係者のこの仕事に対する強い思いが伝わってくる。
断面や線形を修正前と実施の図面で比較すると、景観検討による修正が為されないままに施工されなくて本当によかった!と思わされる。
修正しなかった時の風景を想像しながら、出来あがった道路を走行中に感じた印象を挙げる。
平面・高低分離を行うことによって、①上り下り双方において、対向車の存在が消されたのであろうこと。②下り車線においては、左側の風景の広がりが格段に向上されたのであろうこと。③上り車線においては、植生の改変を最小限にとどめるために広く取られた中央分離帯に樹林が保存されたこと。また、切土を最小限に抑えて残された既存の樹林によって、あたかも高原のドライブウェイのようなストレスのない高速道路に変えたこと。
いずれも、緻密な現場踏査と植生調査による、既存植生と景観への適切な評価に依るものに他ならない。設計者の風景への思い、あるべき姿の追求=いまそこにあるものへの敬意と責任感がなければ到底実現できなかった仕事のように思う。「道路はこれまでに蓄積されてきた叡智をもって『真っ当に造れば』必ずや美しいものとなり、地域の景観に馴染むようになる」作品概要の文である。
『真っ当に造る』ための手間隙を惜しまない線形や断面の検討とそれに伴う修正が、このような風景を顕現させたことを考えると、ランドスケープアーキテクトとして、この仕事に羨望の眼差しを送らざるを得ない。(吉村)