群馬県利根郡川場村萩室385
道の駅
田園プラザは、1980年代以降、徐々に増加する来村者の受け入れ、そして、最寄りの沼田市に依存していた村民の生活サービス需要への対応も視野におきながら、産業の活性化や産業興しを指向するタウンセンターとして整備するものであった(構想が持ち上がった1990年代の初めには、道の駅制度は存在せず、道の駅としての展開は96年以降)。
具体的には、構想段階から四半世紀を超える取り組みの中で、若干、路線調整や変更を図りながら、村内外の人々の休息、団らん、風景探勝、ピクニック、飲食、買い物などの交流の場として定着している。
当初は、山間の”行き止まり”で、強力な観光資源のない、そして、12時間交通量が2千台余りの県道(主要地方道)沿線立地で、観光客誘致や、通行車両の立ち寄り利用はあまり期待できなかったので、これらの条件を克服するために、他所にない田園のアメニティと魅力的な地域特産品づくりにかけて、長期にわたって取り組んできた。
具体的な空間づくりに関しては、このような立地条件下では短時間の立ち寄り利用が一日に何回も回転するような状況は考えられないので、長い時間の滞留を目指す目的地となるような魅力ある空間づくりを指向した。
すなわち、敷地の北側の平坦地や緩斜地に、景色や環境を探勝しながら散歩し、そこここで休憩したり、立ち寄ったりするような周回・集合・離散広場を設けた。
広場の中には、80年代に取り組んでいたホープ計画(建設省の地域住宅計画)に沿って、伝統的な農家建築の五十(ごとう、5間×10間)規模とファサードを基調とした案内、飲食、各種売店、特産品工房などの施設を独立棟の形で、そして、東側と北側の車道と駐車場を視覚的に遮断するとともに、囲繞感を演出すべく、広場を囲むように屈折させながら線形に配置した(芝生地は、当初見込んだ年間500千人の3倍以上の来客を迎えて、養生が追いつかないために、ここ数年、集散密度の高い地区は人工芝に転換している)。
広場は、アメニティとやすらぎ感を醸成するために、緑陰樹の介在する芝生とし、景観の核として、集落用水の注ぐ池を設けている。中央部分に木橋が架かっていて、水辺を水鳥が遊泳したり、くつろぐ様子は、来訪者の視線を集めている。
広場の背後は、元採草地だった比較的緩やかな斜面がブルーベリーの丘、他は既存の造林地となっている。
なお、ブルーベリーの丘は、村の新たな特産作物のショーケースで、無料で入園し、その場で賞味できるということで、その時期(6月下旬~7月下旬)は多くの人を迎えている。
道の駅というとドライブの途中にちょっと立ち寄るところというイメージがある。しかし、この道の駅は、人口3500人ほどの山村の、行き止まりのような場所にある。そこに年間150万人もの人が訪れるという。
敷地は5haと広い。農産物直売所やミート工房、レストランなど複数の建物が分散して配置され、建物群に囲まれる形で中央広場がある。来訪者はこの広場を中心に建物群を回遊し、ショッピングや飲食を楽しむ。持参したものや買い求めたものを広場のテラス席や木陰で食べ、くつろぐ。建物の庇付縁側にも木製ベンチが置かれ、一休みできる。所々に授乳室がある。来訪者への心遣いが感じられ、全体がくつろげる空間になっているのがよい。平日の昼から夕方まで観察したが、来訪者が途切れることはなかった。グループやファミリーも多い。残念なのは人工芝だ。養生が追いつかないという理由は分かるが、天然芝にこだわってほしいと思う。この地の自然や風景、新鮮な物産、つまりホンモノが原点なのだから。(吉村伸)
※掲載写真撮影者は左から1・3枚目が三条印刷株式会社