静岡県富士宮市宮町1-1 富士山本宮浅間大社内
広場
富士宮市の中心部に位置する富士山本宮浅間大社は、2013年に世界遺産登録された「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産の一部であり、神田川ふれあい広場はその浅間大社の境内に位置する。富士山の世界遺産登録を契機として、富士宮市は浅間大社周辺を「富士山信仰の歴史文化を感じるまちづくり」のコアエリアとして定めるとともに、老朽化が進んでいたふれあい広場をまちづくりの起点として改修することを決定した。
本広場の改修にあたっては、1)荘厳な境内の一部としての静謐な存在感を持ちつつ、地域の催しの際には露店が集まる賑わいの場所としても利用されるような、「日常と非日常をつなぐ広場とする」こと、2)世界遺産の一部にふさわしく、美しい富士山の姿と生活を支える湧水の価値を顕在化させ、「地域の暮らしを感じられる場とする」ことをコンセプトとしている。
敷地が世界遺産区域内であることから、大きな改変が認められにくい状況であったが、文化庁との協議により必要な掘削や空間改変に関する許可を得て、空間整備を実現させた。神田川の湧水を引き込んだ親水池とそれを包みこむ芝生の築山、および催事の可能な土系舗装による広場というシンプルな空間構成であるが、広場の形態や施設配置は、富士山への眺望や浅間大社との位置関係、参拝客の動線等を丁寧に読み込みデザインされた。築山や親水池、景石といった庭園的なボキャブラリーを用いることで、大社や社叢との調和を与えつつ、地場ヒノキを用いた四阿やコンクリートの歩経路など現代的な意匠も組み込み、既存の親水護岸との一体感にも留意。完成後には高校生からお年寄りまで多様な人が憩い賑わう広場となった。日暮れ後には篝火のような柱が特徴的な四阿のあかりや、親水池に映り込む既存の桜のライトアップなどが美しい夜景を作り出し、夜も人が集まる地域の新しい「名所」となっている。
富士山の伏流水からなる湧玉池から神田川沿いを歩くと、その水を利用した親水池に、木々が映り込み、築山が背後の境内の気配を引き込んでいる風景に出会う。小さな子供たちが戯れる姿、それを眺める高齢の参拝者が佇んでいる。境内の静謐さを保ちつつ、賑わいの場所として機能させる難易度の高い要請の中で、人々の姿と共に風景が記憶される心地の良い場所を提供している。惜しむらくは、イベント広場と芝生広場の一体性が欠けていること。築山から続く地形操作等で連続性をより担保でき得たであろう。樹木を丁寧に保全し、それらに包まれる広場を周辺環境と呼応させ、見通しの悪さや暗い印象を払拭したことは素晴らしい。現況の樹木群と水路や園路のスケール感にズレがあることや、土舗装部の雨水処理に目詰まり等の不安があることには一考の余地もあろう。ヒューマンスケールの四阿などと、雄大な富士山に包まれる風景に、悠久の時間と対話しながら生活の景が育まれていく期待感があることを高く評価したい。(忽那)
※掲載写真撮影者はNorihito Yamauchi