広島県福山市今町3番1号~船町8番22号
商店街アーケード
現代社会において人口推移と地方経済の行末、また大店法緩和、市域拡大、ネット社会などにより県庁所在地にある商店街は賑わいを維持しているように感じるが、そうでない地域の商店街アーケードは往々にして疲弊している。このような時代背景の中、これは江戸時代から400年以上続く広島県福山市本通・船町商店街の30年前につくられたアーケードの改修プロジェクトである。以前から商店街内では「天蓋上部にある高圧線の電柱をなくして地中化する」「同時にアーケードも取ってしまえば町並みがきれいになるのではないか」という議題が挙がっていたが、最終的には電線地中化の目処は立たず今後アーケードを残すべきかどうか、そして商店街存続の可能性を含めての相談からプロジェクトはスタートした。そこで単に改修するのではなく、かつての商店主たちの希望が込められたアーケードの記憶を継承しながら、商店街ならではの風景を新たに再創造することを考えた。具体的には軒を連ねる商店街の連帯感を新たな形式で生み出すため、天蓋部分は撤去。既存の柱を活かしながらステンレスワイヤーを架け渡し、自然あふれる樹木の下で“歩く喜び”を感じられる公園的なストリートスケープへ生まれ変わらせた。また、商店主が学びながら植栽を維持管理していくグリーンパトロール隊なる仕組みも提案し持続可能な環境を構築した。これはパブリックに働きかけながら、商店街ならではの風景と歴史を受け継ぎ、新たに次代への希望が込められた建築的かつ土木的実践である。
商店街組合だけでなく福山市の行政、その他多くの方々を巻き込みながら一緒につくりあげたこのプロジェクトは、ハードを整備すれば何かが変わるという幻想を抱かず、ひとりひとりの街を思う気持ちと行動が持続可能な状況や仕組みを生み出せるということを証明している。一朝一夕では生まれない、人と人との関わりの中に次代へつなげていくバトンがあると信じている。
地方都市に多く見られる薄汚れたアクリルの屋根と薄暗いシャッターが並ぶアーケード商店街は町の中心地にとっては大きな問題となる。高度成長期やバブルの時代のようなアーケード商店街は今の町のニーズにあっていない。たとえ、アクリルを綺麗な新しいものにかけ変えたところで賑やかな商店街がよみがえるのは難しい。この船町商店街は福山を本拠地とする建築家と共に、新しい商店街を模索している。
古いアクリルの屋根を取り払った結果、明るい「とおり」が現れた。この屋根の変わりにステンレスワイヤーが6cmピッチでたれ膜よりも軽く薄い天蓋となり、日光を遮ることなくこの道の特別感、連続感を出している。既存の残った柱周りには、樹木や草花が植えられ、また店舗ごとにその面積やしつらえが違うことで均質ではない奥行きのある緑の通りを生み出している。
この結果、この通りは人の暮らしの場である住宅のスケール感により近い通りになっている。新しい「人の暮らしに向き合う」商店街として秀逸なプロジェクトだと思う。今後、新たな店舗などの展開が起こってくるのか、どのような進化が起きてくるかを期待したい。(東)
JR福山駅南口から東方向を線路伝いに5分程度歩くと、路面舗装が変化し明るさを感じさせる交差点にたどり着く。この交差点を北側に折れたところから、緑豊かな光が降り注ぐ「とおり町Street Garden」がはじまる。この通りは、江戸時代から続く商店街の30年前につくられたアーケードの改修プロジェクトである。商店街は、電線の地中化とアーケードの撤去を検討していたが、地中化が難しくなり、アーケード撤去の再検討からプロジェクトがスタートした。アーケードを撤去した後でも、軒を連ねる商店街の連帯感を新たな形で生み出すために、既存の柱を活用してアーケードの記憶を継承するステンレスワイヤーによるレースのような天蓋を設えることとなった。そして通りには、沿道の各店舗前に高木と低木、下草を組み合わせた植栽帯を配し、通りに散策する楽しみと潤いを与えている。約450mの「とおり町Street Garden」は、ステンレスワイヤーによる天蓋が、上部の電線等の存在を軽減しながら商店街の連続性に秩序を与え、歩車共存道となっている通りの植栽と舗装が織りなすシーケンシャルな個性的な風景を生み出している。このプロジェクトは、アーケードが課題となっている商店街再生のモデルとなるデザインとして高く評価できる。(森田)
※掲載写真撮影者はKoji Fujii/Nacasa&Partners.Inc