東京都中央区月島三丁目31番先 ~ 中央区勝どき一丁目5番先
橋梁及び接続道路
西仲橋は、東京都中央区の月島川に架かる橋長約40mの鋼単純合成床版橋である。もんじゃ焼きで有名な西仲橋商店街と勝どき駅を結ぶ街路に位置し、桜並木の美しい月島川に架かることから、規模は小さいが地域における重要度の高い橋である。そのため区は、昭和30年代に造られた旧橋の架け替えにあたり、西仲橋景観意匠検討委員会を立ち上げ、設計チームとともに、橋および周辺空間の一体的な整備に取り組んだ。
デザインコンセプトは、開発により急速に風景が変貌している月島・勝どき地区の現状を踏まえ、地域の歴史を継承し、地区の新たな核となる川・まち空間の創出を目指し、①地区の歴史や文化の継承、②月島川の魅力と水辺への回遊性の向上、③佇みたくなる空間の創出とした。
設計にあたっては、全体としてシンプルながら、繊細で温かみのあるデザインを目指した。なお、工事開始後に景観検討が始まったため、当初設計の上部工の重量を超えない範囲での検討と、桁側面に配置予定の添架物への景観配慮が求められた。こうした条件を逆に活かし、橋側面に繊細な表情を生む縦格子の桁カバーを配置し、内部から照らすことで橋自体が柔らかく光る夜景も演出し、時間帯によって異なる表情を見せる橋を実現した。
また、手触りの良い素材による高欄、遠くから橋の存在を確認できる照明柱、居心地の良い橋詰広場などトータルなデザインを実現した。さらに、旧橋の木杭や石積護岸をベンチや擁壁に再利用し、旧橋や地域の歴史も可視化している。
施工段階でも、区の担当者と設計チームが密に連絡をとり、色彩や照明を現地で確認するなど、細やかな検討を重ねたことが、質の高い空間整備に結実したと考えている。
橋上で桜の撮影をする人や川沿いで花見をする人、ビール片手に友と語らう人や釣りを楽しむ人など、日常的に利用される場になっており、将来的には川とまちが一体となった地域の居場所へと展開していくことを期待している。
軽い。見通しが良い。丁寧。上質。これらの、もしかすると意識されていない印象が、この橋を渡る人々にウキウキした気分をもたらしている。キャンバーも含めた橋全体のディメンジョンも気分を晴れやかにする。橋を見ることを目的にした目には、なるほど、ここまで、そうかそうか、と納得する箇所ばかりであるが、橋を渡る人には、実に自然にストレスなく、渡り、たたずみ、景色を眺める気持ちの良い場所となっているのであろう。大都会の小さな、しかし何十年も使われ延べ何万人が通る橋は、やはりこうあってほしい。日本の社会資本整備のスタンダートは何かを考えさせる。もちろん誰にでもできるデザインではない。使い心地とおさまりと場所への気遣いというアーバンデザインの定石を追求しているという意味でスタンダードである。その考え方を素材と形をもった実物に仕上げるまでの思考と手間を許容する体制が必要である。その認識を社会に広めることもデザインの力である。この西仲橋の成果を次のクライアントとデザイナー、ものつくりに関わる人々の背中を次々と押す力にしていこう。それは時とともに補修や改修が求められ続けるインフラのトータルなデザイン力にも繋がるはずである。(佐々木)
通称・月島もんじゃストリートの終点延長に架かる西仲橋は、勝どきに暮らす新旧住民の生活道路であると同時に、江戸の味を満喫する多くの観光客に昼夜を問わず利用される。桜並木が有名な月島川は、ボート係留・遊歩道・釣り人など生活感が溢れる。約100m隣の月島橋からは、本橋を通過する車や人の足元までが透けて見える。この雑多で昼夜人々が行き交う都市空間に、透過性の高いシンプルで温かみのある本橋の空間は貴重である。都市のど真ん中の小規模橋梁はどれも、周辺施設の更新等をも見据えた都市デザインの先導空間として、これくらいデザインを頑張って欲しい。
本橋の景観検討は、工事開始後に始められた。すなわち形式変更や荷重増は出来ない制約下でのデザインである。諦めないことが重要である。水道管を桁側面に抱く条件から、縦断勾配や桁配置に微修正を加え、昼の質感と夜景を意識した桁カバーの積極活用を決める。極めてスレンダーなシルエットを際立たせる、地覆と高欄及び歩車分離柵と照明柱のデザイン、また人が主役となる抑制の効いた歩行空間は、公共施設を扱うプロの仕事である。歴史や文化の継承、地域の魅力向上など、盛り沢山の想いを統合し丁寧にまとめ上げた点も見逃せない。(高楊)