愛知県豊川市千両町
道路橋
新佐奈川橋は、総合評価落札方式における設計・施工一括方式として発注した上下部一体の高速道路橋である。入札段階では事業者案を示さず、道路種別、幾何構造、地形図、用地範囲、工事延長等を付与するのみで、構造形式を始めスパン割、使用材料等については施工者側が自由に設定可能とした。
本橋は、与条件より日本有数の高橋脚橋梁になると想定され、架橋地点には希少種であるナガレホトケドジョウの存在が確認されていたことから、高橋脚橋梁に対する構造成立性の確保のほか、環境への影響を最小限に抑えることが求められた。
採用した構造形式は、橋長約700m、最大スパン142mで、新東名路線で最大となる橋脚高89mを有するPRC6径間連続ラーメン箱桁橋である。橋脚配置においては、現地に生息するサシバ等の猛禽類の飛翔空間に配慮すると共に、交差する県道利用者からの景観性を考慮して決定した。
橋脚には従来構造に対して橋脚断面を小さくできるSuper-RC構造を適用した。上部工への高強度コンクリートの適用と合わせて、部材断面縮小による重量軽減効果により橋脚・基礎への負担を減らし、更なる橋脚のスリム化を図った。
景観上の配慮として、橋脚は中央にスリットを入れた八角形断面とし、陰影効果によってよりスレンダーに見せて高橋脚の美しさを強調すると共に、スリットを主桁側面まで延長し、橋脚毎に桁高の異なる主桁に秩序とリズム感を与えている。
事前に行った自然環境調査によると、前述した希少種のほか現地休耕田などは猛禽類の餌場になっていた。これらの豊かな自然環境の保護を目的に、基礎構築にあたっては竹割り型土留め工法を積極的に採用し、ヤード造成では森林伐採範囲を一部に限定するなど、地形改変面積を最低限に留めた。また、上部工での最大8橋脚同時張出架設等の取組みを行った結果、約300日の工程短縮を達成し、現地環境への影響低減と早期復旧を実現した。
谷地部を跨ぐ高橋脚の高架橋は、一般に適切な支間割りが計画されれば、概ねダイナミックな構造美が約束されるものの、どれも同じ印象となりがちである。その中で新佐奈川橋は、すっきりと垢抜けた印象が漂う。その理由は、①桁の連続性を阻害する、排水・検査路・防止柵・標識柱などの「橋梁付属物」をさり気なく目立たせない配慮が徹底されたこと、②上部工と橋脚に「高強度材料」を用いて全体をスリム化したこと、③目立つ「橋脚」に、八角形断面およびそれを補完するスリットを用いて個性を付加したこと、④竹割型土留めを用いた深礎による「地形改変」の最小化や、上下線位置を無理に揃えない環境・景観・構造のバランス感覚に優れた「支間割り」を選定したこと、が挙げられよう。
本橋の主な視点場は直下を通過する県道であり、橋梁から500m程度まで近接しないと全貌は眺められない。設計者は橋から500~150mの県道視点で上下線の橋脚配置を整えたと言うが、実際には散見する近隣集落や4km手前の県道からも、上下線でずれる橋脚と変断面桁によるπ型形態が目立っている。控えめな存在となる等断面桁の採用や橋脚スリットの天端処理に審査会で異論も出たが、デザインビルドの制約の中で橋梁デザインの定石を貫いた優れた作品である。(高楊)
豊川ICから県道を車で向かうと、山間部を水平に渡るロングスパンの桁を支える高橋脚が見え隠れしながら、新佐奈川橋がみえてくる。遠景では山間部にT字状の橋梁に見えるが、近づくにつれ高橋脚に支えられた2本の橋梁による新佐奈川橋の全容があらわれる。梁と高橋脚の伸びやかでダイナミックなコンクリート橋と山間部の緑との対比がみせる、遠景から近景へと移動に伴う景観変化の美しさに感動を覚えた。この橋の美しさは、猛禽類の飛翔空間を配慮し、景観を考慮したロングスパンによる橋脚配置と、橋脚毎に桁高が異なる主桁の中央にスリットを入れた八角形断面の高橋脚によるものである。この美しさを創り出すために高強度材料を用いて構造のスリム化を図り、構造物の面積の最小化したことが特筆される。また、架橋地点には、希少種の存在や猛禽類のえさ場など、豊かな自然環境の保護を目的に、竹割り型土留め工法の基礎構築を採用している。自然環境と人工の構造物との共存を目指し、自然環境への影響をできる限り抑え、構造物の景観上の面積を最小化する秩序化のデザインと、山間部景観を活かし、造形と工法により量感を軽減した橋梁が織りなす時間軸上の個性化のデザインとが融合した優れた作品である。(森田)