選考結果について

奨励賞

ジョンソンタウンJohnson Town

埼玉県入間市
住居、商店

戦後、進駐軍ハウスを建設し賃貸運営してきた磯野商会は、荒廃、スラム化、高齢化した当地区に関して、建築家である渡辺治に相談した。「進駐軍ハウス」という文化遺産を改修、保全し文化的で魅力的な町並みを形成し、元の自由で創造的で、家族を大切にする気風を持つコミュニティをつくっていきたい、という方向は両者(磯野と渡辺)で共通していた。
この地区を再生するにあたって「将来の標準になる住宅」、「進駐軍のDNAを受け継ぐ」ということを強く意識し、家族と暮らしながら理想的な職場にもなる福祉のまちづくり+いえづくり=「安心安全タウン」の形成を目標とした。
その実現のために、地区内と家の中をバリアフリー、居住者の意思で自由に内装や設備に手を加えられる床暖房(平成ハウス)などを標準とすることとした。
両者は二人三脚で、約10年間にわたり老朽化した進駐軍ハウスの改修、保全、戦前の将校住宅を進駐軍ハウスのDNAを継承する現代の進駐軍ハウスとして「平成ハウス」を設計・建築し、建物の再配置や街路、広場の新設、デザインコード(屋根勾配、色、ボリュームなど)の指針の作成、使用規定の作成、看板などの指針の作成、インフラ(上下水道、街路や広場の整備、電柱の移設、雨水浸透、セキュリティ)の整備、植樹の整備、コインパーキングを設け地区内への侵入を禁止、文化人の誘致、地域イベントの運営(ワンデーマーケット)、コミュニティへの活動支援(バザールやイベント)などを行ってきた。
この10年で、米軍ハウス24棟を改修・保全し、米軍ハウスのDNAを持つ平成ハウス35棟を新築し、日本家屋(将校の家)4棟も改修・保全され、130世帯、約210人が住まうと同時に、障害者、高齢者、外国人、文化人が交流しながら家族と楽しく住み、子育てをし、文化活動を行う活気あふれるまちになった。
また、地区内にはこだわったお店が50以上も増え、観光地化し文化財として見直されるまでに至った。

《主な関係者》
○渡辺 治(渡辺治建築都市設計事務所)/建築設計(基本設計、設備設計、実施設計、詳細納まり)、設計監理、まちの設計提案(街路計画、全体の建物配置、路地の計画など)、改修の方針提案、全体計画・デザインの監修
○磯野 達雄(株式会社 磯野商会、社長)/事業の発注、まちの運営、設計への意見、改修の検討・仕様の決定、外構の計画、植栽の具体的な計画、事業の監修
○斉藤 美幸(渡辺治建築都市設計事務所(当時)、リズムデザイン=モヴ(現在))/建築設計(実施設計、確認申請)、設計監理、まちの設計、電信柱の移動の監修
○大澤 裕美(渡辺治建築都市設計事務所(当時)、用工舎(現在))/建築設計(実施設計、確認申請)、設計監理
○渡辺 麻美(渡辺治建築都市設計事務所)/建築設計(実施設計、確認申請)、設計監理
○磯野 章雄(株式会社 磯野商会)/発注、運営、改修、外構整備(磯野達雄社長の補佐役)
○前 亜里紗(渡辺治建築都市設計事務所(当時)、松尾工務店(現在))/建築設計(実施設計、確認申請)設計監理
○白石 浩二(株式会社 磯野商会)/改修計画(改修の仕様、デザインなどのスケッチ作成)、施工管理
《主な関係組織》
○株式会社 磯野商会/事業の発注、運営、改修、外構整備
○渡辺治建築都市設計事務所/建築設計、街路設計、まちの計画
《設計期間》
2002年~2016年現在
《施工期間》
2004年~2016年現在
《事業費》
約5億円
《事業概要》
面積:まちの面積:約2.6ha(約8,000坪)
建物 79棟:米軍ハウス24棟、平成ハウス35棟、日本家屋(戦前の将校住宅)4棟、アパート6棟(セキスイハイムM1:将来に残すべき近代建築docomomoに指定されている)
約150世帯 210人
立地環境:埼玉県入間市(人口約15万人)にある、西武池袋線入間市駅、徒歩18分、地区の南側に接して、大きな「富士見公園」がある
主要施設 航空自衛隊入間基地(旧米軍ジョンソン基地)
公園2(10,000坪、30,000坪)
小学校4、中学校3、高校3
《事業者》
株式会社 磯野商会
《設計者》
渡辺治建築都市設計事務所
(設計協力者)
吉沢建設、波多野建築、他
《施工者》
磯野商会、渡辺治建築都市設計事務所
(磯野商会は地元大工を雇い改修などを行い、設計事務所は床暖房工事などをセルフで施工)

講評

 第一印象は芳しくなかった。国道463号線側は駐車場などの空地も多く、スプロールした郊外型の商業施設のように見えたからだ。しかしジョンソンタウンの中に分け入って行くと、木造平屋の多い独特のスケール感と路地などが、居心地の良い空間を形成している。専用住戸でも商業施設でも、生活や商行為が町に滲みだし、公共空間に曖昧な領域を形成していて、条例や規約などで強くコントロールされたフォーマルな町では味わえない、良い意味での『ゆる~ぃ』に由来するカジュアルさが魅力となっている。ともすれば乱雑になりそうなところを踏みとどまっているのは、ここに住む人達が趣味や価値観を共有しているからだろう。管理者や簡素な建物の許容力がそれを可能としていることも重要な要因である。マンション開発などより遥かに採算性は低いと思われるが、旧米軍住宅地としての歴史的な景観や『場所性の保存』は、充分に公共性の高い事業であると評価された。(武田)


※掲載写真撮影者は左から1・3~6枚目が森田城士、2枚目が渡辺治