茨城県日立市
自由通路及び駅周辺地区デザイン
日立市中心市街地活性化区域の東端に位置する日立駅は、東西の市街地が鉄道で分断されていたために、市街地の連続性・一体性確保やユニバーサルデザインの誰もが使いやすい駅への改良、そして「まちの顔」としてとしての魅力ある景観づくり、交流起点や結節点としての機能強化を図り、ふるさとを感じる日立の顔として誇れる都市拠点を形成するため、日立駅自由通路及び橋上駅舎を整備して、これを核とした駅周辺整備の戦略的なシビックデザインプロジェクトを進めた。
日立駅自由通路と橋上駅舎は、周辺環境になじむよう高さを低く抑え、平面的に広がりながら、自由通路東西口の公共施設や駅前広場へと繋がり、一体的なまとまりを作り上げている。建物全面は透明な上下2辺支持(MJG金物併用)のガラススクリーンに覆われ、至るところから海やまちを眺めることができる開放的な空間である。自由通路東口先端からは眼下に太平洋の大パノラマが広がる。
地域特性や周辺環境の調和を図りながら、市民が誇れる優れた空間とするために、デザイン提案競技を実施して「デザイン監修者」を選定し、東西の交通広場、都市計画道路、自転車駐輪場、東西の市民交流プラザ、駅前民間施設にいたるまでデザインの指導・調整を図り、各事業において設計から工事まで関わることにより、景観的にも連続性があり一体感のあるデザインを実現している。
JR東日本では、建築家とのコラボ事例はあるが、市側が選定した建築家によるデザインの調整等を行った事例は、JR東日本管内では初めてである。デザイン調整は、施工者、工事監理者をチームに加え、工事完了に至るまで継続的に行われ、一貫したデザイン思想を実現した。
プラットホームからエスカレーターでコンコースに上がると、開放的な全面ガラススクリーン越しにいきなり水平線のパノラマ景観が出迎えてくれる。水平線は駅舎のどこにいても見る事ができ、海を望める場所に位置する駅であることを最大限に生かした計画であることが実感できた。また床や天井の材料と仕上げが絶妙で、床には空の気配が、天井には海の気配が映り込み、屋内でありながら自然の中に浮遊しているような不思議な身体感覚を呼び起こさせる。中央口駅前広場に面するファサードはボリューム感のある庇を連続させることで、駅出口、商業施設、トイレ、駐輪場など、異なる機能及び意匠を繋げ、整序感を感じさせる。
自由通路や駅舎という土木構築物を、高度な建築的手法で昇華させたすばらしい作品であるが、本来であれば一体的な空間デザインであるべき駅前広場が、そこまで到達していないのではないかという課題も指摘された。(須田)
※掲載写真撮影者は左から1・5枚目が妹島和世建築設計事務所、2~4・6枚目が日立市