選考結果について

優秀賞

近自然コンセプトによるサンデンフォレスト・赤城事業所の敷地造成Site preparation of Sanden Forest and Akagi Factory by nature-friendly concept

群馬県前橋市
機械製造・物流加工工場、実験・製品開発施設

1997年、企業が環境に取り組むことが当たり前とはいえなかった時代に、サンデンは「環境と産業の矛盾なき共存」を目指し、21世紀に通用する環境共存型の工場を構想、群馬県・赤城山の南麓に「サンデンフォレスト・赤城事業所」を計画し、設計を開始した。
開発前の敷地は管理が行き届かず荒廃した森林と畑地、養鶏場の跡地等だった。この64haの敷地において、事業所の開発を通じ美しい自然環境を取り戻せるよう、約半分を森林として整備、残る半分を工場用地として計画した。
この際、民間で初めて大規模な土地造成に「近自然工法」を導入した。同工法は、生態系が自らの回復力で復元できるよう、人間の手でその最初の段階(=地形や水循環等の物理的環境)を保全し整える視点に特徴がある。1990年前後にスイス・ドイツから国内に紹介されたが、河川分野を除き国内実績は少なかった。
同工法の導入により、できるだけ広い工場用地を確保する従来の経済的な視点に加え、生態系にとって重要な環境要素を重点的に保全・回復する視点を持った。重点区域「緑の骨格」に定めた2本の沢沿いでは、造成地盤の配置を見直して大規模なコンクリート壁設置を回避したほか、洪水調整池の平常時水域や堰堤の下流面に丁寧な造成・緑化により生物の生息空間創出を促した。沢筋以外でも全般に、地域種による森林育成、元地形に応じてうねる形状の法面や空石積の歩道等に取り組んだ。
敷地内には周遊散策路を設け、社員や市民の環境活動にフィールドを提供、現在では赤城山周辺地域の自然体験・環境教育活動の連携を担う中核的な施設へと成長してきた。
現在、敷地内の生物種数は開発以前と同等以上に回復(施設・道路等が敷地の50%を占めるにも関わらず)し当初目標を達している。さらに、石積で整備した沢筋にはゲンジボタル(100匹以上の群舞)が、間伐した林内にはキンランやエビネが進入するなど、一部で期待を超える効果も見られている。

《主な関係者》
○牛久保 雅美(サンデン株式会社 社長(当時)、サンデンホールディングス株式会社 会長(現在))/事業理念の策定、関係者組織の構築・指揮
○C.W.ニコル(一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団 理事長)/環境配慮方針の立案、自然体験フィールドとしての活用方針立案
○福留 脩文(株式会社 西日本科学技術研究所 (当時))/近自然コンセプト立案、堰堤前面及び遊歩道の石積イメージ立案
○芳之内 祐司(株式会社 西日本科学技術研究所 )/近自然コンセプト立案、緑化方針、調整池ビオトープイメージ立案
○西山 穏(株式会社 西日本科学技術研究所 )/近自然コンセプト立案、堰堤前面及び遊歩道の石積イメージ立案
○山下 英治(鹿島建設株式会社 現場所長(当時))/コンセプトを現場で実現する設計・施工の全体管理及び調整
○山路 隆雄(佐田建設株式会社 現場副所長(当時))/コンセプトを現場で実現する設計・施工の全体管理及び調整
○竹内 公一(鹿島建設株式会社 現場工事課長(当時)、関東支店鹿島新日鐵住金工事事務所 所長(現在))/コンセプトを現場で実現する設計・施工の計画、運営
《主な関係組織》
○サンデンホールディングス株式会社/デザイン理念の決定、デザイン組織の決定
○一般財団法人 C.W.ニコル アファンの森財団/環境配慮方針の立案、自然体験フィールドとしての活用方針立案
○株式会社 西日本科学技術研究所/デザインコンセプト立案、コンセプト導入に係る成形状及び構造の変更提案、緑化・石積イメージ立案、石積施工
○鹿島建設株式会社/デザインイメージ実現に係る開発申請・詳細設計・施工段階での実施検討
○佐田建設株式会社/デザインイメージ実現に係る施工段階での実施検討
《設計期間》
1997年10月~2002年2月
《施工期間》
2000年3月~2002年2月
《事業費》
土木工事費 67億円(土地・建築を含む総事業費:310億円)
《事業概要》
敷地・事業所規模
 総面積:641,000㎡(建物延べ床面積:128,600㎡)
  工場用地:220,000㎡、道路・駐車場:92,000㎡、森林・調整池:329,000㎡
 従業員数:1,000名 
立地環境
 赤城山南麓の標高約400~480mに位置する
 南北約1.5km、東西約1kmの斜面地、周囲は主に山林。
事業実施前の状況
 用地は、手入れされなくなった植林地、大規模な養鶏場の鶏舎跡、牧草地、農地等であり、自然環境としては総じて劣化していた。
 敷地の東西辺を南流する沢筋にのみ、落葉広葉樹を主体とした二次林が形成され、本来の自然環境に近い状況が見られた。
主要施設(主要事業)
 カーエアコン、飲料自動販売機、冷蔵ショーケースをはじめとした機械製品の実験・開発及び製造・集配施設。
 併せて、事業所開業後、サンデンホールディングス株式会社の企業CSRの主要な拠点施設の一つとなっている。
《事業者》
サンデンホールディングス株式会社
《設計者》
鹿島建設 株式会社
(設計協力者)
株式会社 西日本科学技術研究所
一般財団法人 C.W.ニコル アファンの森財団
《施工者》
鹿島建設/佐田建設 JV
(施工協力者)
株式会社 西日本科学技術研究所

講評

 対象地は赤城山南麓の広やかな傾斜地にあり、遠く前橋市の市街地を望む雄大なランドスケープが広がっている。ラダー状に配置された造成森林帯は、自然遷移に任せて旺盛に樹林を形成しており、調整池はビオトープとして機能するよう、水面近くの造成高低差に配慮が見られた。近自然工法の水路は整備後14年で早くもかなり馴染んでおり、ステップアンドプールの設えも良い。
 さて、本来自由に入ることができない民間敷地の事業であるにも関わらず、優秀賞の受賞作品として選定した訳だが、その審査過程での議論について触れたい。本作品は手入れの放棄された農地や養鶏場跡といった、いわば荒地であった場所に新たな宅盤と工場を分節して建設することによって、ネットワーク状の生態軸を設定し、それを基軸として周辺環境を含めた広大な自然環境を再生した。我々はこうした取り組み自体が不特定多数のアクセシビリティの有無といったレベルに留まらない、大いなる公共性を持っている判断した。本賞の公共性の捉え方に一石を投じる重要な作品であると評価するとともに、受賞が今後の更なる自然環境の保全・再生や環境教育への取り組みの向上に資するものになれば幸いである。(須田)

 森の教室に着くと、養鶏場の匂いと二頭のヤギが迎えてくれた。田園の中の敷地は周囲を樹林に囲まれた別世界であった。実見当日は地元のバスツアーのみなさんとお会いし、自由に入ることはできないまでも、広く地域に開かれた施設であることが感じ取られた。
 土留めが必要な場所には、コンクリート擁壁ではなく造成中に現場で出てきた石を活用していると聞く。重機も十分に使えない場所によくこれほどの石を積み上げたものである。山間地での畑や山道の伝統的な作り方と同等の合理的手法によって自然の回復を進めている。その一方で、回遊式庭園をも彷彿とさせられる非常に巧みな造園的匂い=人工も感じさせられた。
大擁壁、大造成を回避し、地形に添わせた自然に優しい造成手法や、近自然工法などの考え方に、ひとつの企業がこれほどに取り組んでいること、その結果、赤城山南麓に自然再生を図る森が存在し続けられていることが、大きなスケールでの公共性を獲得しているとして高く評価された。
 これからも、長い時間をかけて、自然本来の姿を回復、森を再生させていく中で、それらを社員始め、地域の人々がより敏感に感じることのできる仕掛けや仕組みを増やしていくことが望まれる。(吉村(純))


※掲載写真撮影者は左から1・2枚目がサンデンホールディングス株式会社、3・6枚目が芳之内祐司、4・5枚目が西山穏