広島県広島市
車道橋および歩道橋
太田川大橋は、広島市の湾岸部に位置する広島南道路のうち、太田川放水路の最下流部に架かる6径間の鋼・コンクリート複合アーチ橋(橋長412m)である。本橋と西部高架橋(計320m)の基本デザインは、広島市が2009年度に実施した国際コンペ「広島南道路太田川放水路橋りょうデザイン提案競技(選考委員長:篠原修東京大学名誉教授)」により最優秀案に選定されたものであり、提出した株式会社エイト日本技術開発(協力者:EAU・空間工学研究所・二井昭佳)が引き続き、詳細設計とデザイン監理を担当した。
本橋のデザインは、瀬戸内特有の伸びやかな風景が広がる架橋地点の特徴を踏まえ、「水の都ひろしま」にふさわしい、人々の記憶に残る故郷の新しい風景の創出を目指し、①雄大な厳島を今まで以上に引き立て、共に故郷の風景として定着していく橋、②地域の人々が渡りやすく眺めを楽しめる歩道、③将来の延伸も視野に入れた太田川大橋から西部高架橋までのトータルデザインの3つのコンセプトに取り組んだものである。
設計にあたっては橋梁全体から細部に至るまで、造形と構造とを両立させるよう一体的に検討を行った。厳島に連なる2連のアーチは、構造的にも連続させることで、風景に調和するシルエットと高い維持管理性を、橋梁本体の途中から分離した添架歩道は4種類の支持構造を使い分け、瀬戸内海の開放的な眺めと歩きやすい勾配を実現している。また様々な表情を生み出す逆台形のブレースドリブのアーチ主構や、桁下を通る歩行者のために橋梁本体に設けた楕円形の開口部、瀬戸内海を眺めながら佇める橋上広場と橋詰広場など、様々なスケールの模型を用いて丁寧に検討した結果が空間に結実できたと考えている。
竣工して2年が経過した現在、通学する学生や散歩する地域の人たちの姿を多く見かける。本橋が両岸の地域を心理的にも結びあわせるきっかけとなり、この美しい風景の地が市民の居場所になることを願う。
左岸飛行場の空域制限、本橋を挟んで上下流に建設予定の国道橋の橋脚位置、国道橋建設後に撤去予定の歩道計画など、本橋特有の稀有な制約条件に対して、当地だからこそ実現可能な計画・デザインを発案し、個々の部材ディテールまで完成度高く洗練し実現させた点が「最優勝賞」に相応しいと判断された。
橋梁形式は、上流の庚牛橋から背景として見える厳島のシルエットを意識して、その形と規模を決めたと説明にあるが、その評価は意見が分かれる。しかし、一般に美しくまとめることが難しい “河川内での異種形式の接続”や“下路橋の偶数径間”に対して、主構造アーチを単弦構造とし、桁橋とアーチ橋の補剛桁を同一外観とすることで違和感なく収めている。また、延伸区間の高架橋は、連続性に配慮した定石通りのお手本デザインである。
アーチ基部の滑らかなフィンバックや、太さバランスに配慮したブレースドリブアーチ、桁下面を歩道がくぐる部分の楕円形の開口などのディテールは、前例や計算優先の形ではなく、設計者の意図が反映された形態で美しい。
最大の特徴である歩道の動線、構造・空間のデザインは、従来にない楽しく印象的な体験を創出している。しかし、この歩道は将来取り外される前提があり、現在の素晴らしい橋梁デザインが変更される可能性がある。利用勝手の悪い橋詰広場も、この歩道が恒久的であれば違う結論があったと推察する。将来、国道橋を建設するなら、本橋の関係者に仕事を任せるか、異なる位置に架橋した方が良い。そう思わせるほど、本橋デザインは完結している。(髙楊)
この3年間で実見した橋梁では最も興味深く、眺めても歩いても、楽しい橋だった。上流の庚午橋から移動しながら眺めると、太田川大橋の2連アーチが厳島や安芸小富士のシルエットとリンクして面白い風景を創り出している。曇天の日の実見だったが、右岸の堤防上の歩道から近づいて行くと、車道橋と薄くて軽やかな歩道橋のPC床板のライトグレー、歩道を支持するブラケットや吊りケーブルや手摺のダークグレーが、曇り空と美しく調和して設計者の意図を見事に表している。下流側から見ると、この橋梁の構成が良く分かる。左岸側で車道橋と並行している歩道橋は、中央から分離して2.5%以下勾配の斜路に変わり、橋脚に穿たれた開口部を潜り抜けて右岸の上流側に至る。勢いよくペダルを踏み込んで自転車が斜路をかけあがり、歩行者が風景を楽しみながら行き来する光景が特に良い。強引とも思える処理や特異な形態の橋梁なのに違和感や過剰感はない。2連アーチ、ブラケットや千鳥配置の吊りケーブルなど、即物的な技術的形態選択の明瞭さと潔さ、それを実現するための造形のブラッシュアップに多大な労力が覗え『スッと腑に落ちる』説得力だ。事業者や設計者や施工者の良好な意志の疎通があってこその成果だが、コンペ審査員の力量の高さの証でもあるだろう。国道橋設置時に撤去が条件の歩道橋のためか、突然行き先を失ったような橋詰め空間の終わり方は少し残念ではあるが、この歩道橋は広島市のランドマークとして是非残して欲しい。それほど、遠景でも近景でも高いクオリティの橋梁であった。(武田)