選考結果について

奨励賞

とみぱーくTomipark

岐阜県加茂郡富加町滝田1186番地13
河川公園

 「とみぱーく」は、岐阜県富加町が推進する「富加町かわまちづくり計画」に基づいて整備された水辺拠点であり、川とまちのあいだにひらかれた、地域に根ざす公共空間である。顧みられる機会の少なかった川浦川沿いに新県道バイパスが計画されたことを契機に、その沿線開発の質をあらかじめ誘導すべく町が構想を立ち上げ、小学生の通学路に位置する竹藪を拓き、人々が日常的に過ごせる明るい公園へと転換した。
 川浦川は、律令制の成立時代から人々の暮らしを支えてきた掘り込み河川であり、まちの中に複数の段丘地形を展開する独特の風土を持つ。設計者の出村嘉史・原田守啓はこの地形と歴史に深く読み込み、かつて川とともにあった生活の基盤を取り戻すべく、水面へと緩やかにつながる斜面と、河川の表情に呼応する石積みのテラス状護岸によって、風景に根ざした開放的な空間を構築した。
 設計ではUAV測量による点群データに基づく3Dモデリングと、現場感覚に根ざしたハンドドローイングを往還させる「脱定規断面」のアプローチを導入。さらに、設計者が施工現場に継続的に立ち会い、職人や重機オペレーターと密に協働しながら設計を微修正する「ライブ設計監理」体制を採用した。重要な造形要素については「見試し」を行い、現地での即時確認と調整を通じて空間の質を高めている。
 本拠点の整備を契機に、新県道を挟んだ隣接地にも展開が広がり、ミユキデザインが手がけた駐車場およびトイレ棟の整備が追加された。これは一連の構想の延長線上にあるもので、富加町が前例のなかったプロポーザルによって実施主体を選定し、全体の空間的・制度的な広がりをともなったプロジェクトとして実現された。「とみぱーく」は点ではなく面として育ち続ける公共空間であり、地域の風土に根差しつつ、拡張可能な“しかけ”として高い先導性を示している。

《主な関係者》
○出村 嘉史(岐阜大学)/デザイン全体の企画・監修/エリアビジョンの組み立て/水辺空間他のデザイン/施工管理(全体)
○原田 守啓(岐阜大学)/事業スキームとプロセスの提案/水辺空間のデザイン/河川工学・河川環境的観点からの検討/施工管理(河川)
○板津 徳次(富加町長(当時))/かわまちづくり事業の発案/事業全体におけるリーダーシップ
《主な関係組織》
○富加町 かわまちづくり協議会/地域の関係者間の調整、地元協力体制の構築
○富加町 建設課/空間の価値を高めるための追加工事を積極的に実施
○岐阜県 県土整備部 可茂土木事務所 河川砂防課/デザイン意図を尊重した河川工事、石積みのための材料調達
○株式会社 半布里産業/公園部(河川区域内)の施工、i-constructionの導入
○株式会社 友進/公園部、練石積みの施工、見試しによる柔軟な施工
○株式会社 ORIBE/建築物・駐車場の施工、建築物を柔軟に施工
○株式会社 ミユキデザイン/サイン計画、建築物・駐車場の設計
○株式会社 ユニオン/公園・道路の詳細設計を担当、度重なる修正設計に粘り強く対応
《設計期間》
2016年6月~2023年3月
《施工期間》
(富加町発注分)2019年2月~2024年3月
(岐阜県発注分)2018年9月~2020年5月
《事業費》
(富加町)約1億円
(岐阜県)4千6百万円
《事業概要》
面積:公園エリア約2,000㎡、駐車場エリア約1,600㎡ 
立地環境:一級河川木曽川水系川浦川・県道97号線バイパス沿い
主要施設(主要事業):親水公園、駐車場・トイレ・休憩施設・倉庫

〇公園の発注数量:
敷地造成、親水護岸(石積み)31m・33㎡、植栽2本、舗装448㎡、階段工、ベンチ9基、車止め5本、サイン1式

〇駐車場・トイレ・休憩施設・倉庫の発注数量:
建築(トイレ及び倉庫)1棟113.64㎡、駐車場及び外構工事1497.38㎡

〇公園整備した区間の河川事業の発注数量
・左岸 親水護岸(石積み)94m、114㎡
・右岸 散策路 約230m
《事業者》
富加町
岐阜県 県土整備部 可茂土木事務所
《設計者》
株式会社 ユニオン
株式会社 ミユキデザイン
<設計協力者>
岐阜大学 出村研究室
《施工者》
株式会社 友進
株式会社 半布里産業
株式会社 ORIBE
<施工協力者>
株式会社 庭萬
杣工房・早川泰輔事務所
一般社団法人 石積み学校

講評

 藪に覆われ人が近寄れなかった小河川の河岸が、希望の空間として再生されたと思う。県道からは、緩やかな斜面の先に家族連れが遊ぶ浅瀬が一望できる。斜面の途中の石積みテラスが唯一の構造物であり、ここが利用空間であることを示すサインになっている。動物や子供の行動を遮る護岸等の人工物がなく土の斜面が水際まで連続していて、既存の高木が水際に残され水面に陰を落としている。整備区間前の水域は子どもの膝程度の安全な深さで、中央付近は水音を立てる瀬、その上下流は穏やかな瀞(とろ)であり、来訪者は好みの場所で泳ぎや生きもの採取を楽しめる。ここは川の魅力を最大限に楽しめる空間として、極めて秀逸である。実現のためには丁寧な観察、河川工学の知見、関係者との話し合いの積み重ねが貢献していよう。
 県道を挟んで整備された駐車場とトイレ等の敷地はもう少し緑豊かに、横断歩道は歩行者にとって快適となる設えに、工夫できたのではないか。(西山)