宮城県気仙沼市魚町、南町、港町、八日町、古町、新町
防潮堤、海上遊歩道(県歩道)、公園、港町防潮堤、県道、災害公営住宅、公共公益施設、共同化建物(236)、BRT 駅、船舶ターミナル、市営屋外駐車場、交差点、商業施設、桜ライトアップ、高台避難誘導
東日本大震災からの復興事業が気仙沼全体で展開されるにあたり、一貫した光環境整備を目指した。
照明環境整備にあたり、各整備領域事でなく、人が認識する空間全体を一つとして、空間の境界部を認識させる照明整備を進めた。
「シンボルを通して魅力を再発見する光」「官民共同、みんなでつくる「地域の住民が散策したくなる夜の景観形成」と冠し、照明整備のガイドラインを製作し種々の建設・土木現場に提言を行った。
①内湾に映り込むあかり:海に映り込む照明を積極的に考慮する。
気仙沼内湾では、海の反対側が高台であることから、水面、海面に映り込むあかりによって、高台への避難誘導をサイン的に夜間認識させることが実現し、津波避難に対して日常的に安心感を与えることができた。
②光源の色温度を2500-3000K程度の電球色で統一:内湾地区ではあかりの色味を統一する。
③暗闇を無くすあかり 空間境界を認識させる:建物周りの暗闇を無くし、暗闇を無くすことにより防犯性を高める。
店舗などでの人の気配を感じるあかりは人の存在による防犯性向上と、発見を促す歩きたくなる街の要素となる。また、道路線形の認識ではなく空間全体に広がる境界部の要素を認識させることによって、空間認知が促進され、歩行性能誘導効果は問題なく確保した。
④地上構造物の共有化:交差点などでの信号灯と照明を共柱化。
交差点などでは、一般的な交差点照明ではなく、危険予測照明、ドライバーから歩行者の状態が認識できるための照明(スポット)を電柱などファニチャーに設置することにより、照明が目立つのではなく、既存の景観をそぐわないようにした。
各エリアに対して仮設照明による社会実験を行い、照明の基本計画・実施設計の提出や最終的な現場調整を行った。
社会実験では各民家、民地に照明を設置し、周辺環境、防犯性の向上を目指した民参加による環境照明整備となる住民理解を得て、本設置に繋がった。
まちぐるみで地域の安全とアイデンティティとなる夜間景観をつくり出すデザインである。震災後、照明デザイナーが足しげく現地に通い、社会実験により繰り返し見せ、複数の公共管理者だけでなく事業者・住民を含む地域に働きかける圧倒的な行動力により実現した。
この取組の斬新さは一般住民にまで対象を拡げ、電球色の照明器具を人の目に近い位置に設置する、という単純なルールを設定することで、夜のまちの風景をみんなで醸成するといった創造力である。
商店街では道路面でなく建物を照らしまちを浮かび上がらせ、交差点では均整度でなく横断歩道をスポットとして安全性を向上するといった、専門家だからこそできる常識や基準を乗り越えた思慮深いデザインが提案されている。安価で小さな照明器具で消費電力を小さく配線も公共側からとるなど、住民が参加しやすい工夫も良く考えられている。
確かにこの取組であれば、いつかまち全体がひとつとなった夜の風景を創造できるのではないかと期待できる。いまはまだ、白色の道路照明と混在しているが、今後面的に広がり、近い将来、気仙沼の夜のまちが故郷として印象付けられていくだろう。数年後にまた見に行きたい作品である。(太田)
日没も早くなりはじめた日曜日午後。気仙沼唐桑線沿いのきれいな公衆トイレもある魚浜公園駐車場に車を停め一息。内湾の曲線に導かれるように神明崎の遊歩道を歩く。日が高いうちから、街灯を見上げながら探し歩きまわる。街灯と人の営みがリンクしているように感じ、日曜日の夕暮れ時でも灯っていた店先で地元の方とおしゃべりが叶い有り難い。交差点に、地形的に辻的な場所に、商店街の店先に、店先だけではなく裏手の倉庫として活用しているところに、賃貸住宅の敷地内に、街灯を見つける。標高の高いところに向かって大切なポイントを灯し、さらには最短距離の動線が通路としてできるだけ確保されている。良い意味で、どこまでが計画のされたものなのか、自主的に設置されたものなのか、まったく判別ができない。が、こうした計画によって、地域全体へ、個人のお宅へも伝播するこのような活動そのものも“土木デザイン”と呼べるのではないだろうか。と提起された気がする。こうした照明設置等を起点に、年に1回でも意識共有の機会が始まり、点灯消灯時間といった運用面や様々な事情による撤去や新設の情報を共有しながら、この活動が継続されることを祈念している。(山下)
※掲載写真撮影者:角舘 政英(ぼんぼり光環境計画株式会社)