(代表設置箇所)佐賀県杵島郡白石町福富下分1992−2付近(有明海沿岸道路 六角川大橋)
橋梁用車両防護柵
橋梁上に設置されるアルミニウム合金製の車両用防護柵である。橋軸方向に押出した二つの押出形材を嵌合させた支柱と、陰影を生む多角形の横ビームによる構成により、従来にない透過性の高い走行空間と安全性、製作・施工の合理性を同時に実現したデザインである。
防護柵は、景観上、周辺環境の中で浮き立った存在になりやすく、透過性の低い防護柵は眺望を阻害しやすい。これまでのアルミ製防護柵の支柱には鋳物と押出形材があるが、鋳物は製作効率が低く強度種別ごとに鋳型を用意する必要があり、意匠的な精度も低い。一方で、従来の押出形材は支柱軸方向の押出のみであり必要な応力に対し断面が同一で、別体のアンカーベースを製作する必要があり、コスト高となっていた。
そこで、長尺の押出加工が可能で自由な形状を実現できるアルミニウム合金の特徴を最大限に活かした橋軸方向の押出形材とすることで、合理的な断面形状とベース部の一体成型を可能とし、国内で可能な最大径の押出形材の嵌合による接合を開発するとともに、強度種別に対しても支柱幅の切断のみで対応できる製造方法へと見直した。
橋軸直角方向に厚みをもたせた多角形断面の横ビームと、トラス状のつなぎ材や柔らかな曲線のフランジをもつ支柱を組合せることで、衝突荷重を吸収する構造性と、視覚的に奥行きを感じさせる陰影と繊細な造形美を両立させている。構造解析とCGによるデザイン検証を並行して行い、力学性能と造形の最適化を図るプロセスを経て、構想から完成までに約4年を要した。
選定される製品としての使いやすさやニュートラルな造形も意識して設計されており、さまざまな地域風景との調和が可能である。実際に設置された六角川大橋では、透過性の高い支柱構成により、走行中に風景の奥行きと連続性が感じられ、走行空間が風景体験の場へと変化している。防護柵が遮るのではなく風景と一体化するという新たな価値を提起する製品である。
アルミ形材の押出方向を支柱軸方向ではなく橋軸方向とした発想がとても斬新で面白い。アルミの押出加工は工場の設備の大きさに制約を受けるため、現状ではあまり大きな断面を製造することができない。一方、精度の高い自由な成型が可能であるため、複数のパーツを嵌合で組み立てることにより必要な形状を生み出している。完成した製品は、これまでの防護柵(アルミ製、鋼製を問わず)と一線を画す大変ユニークな形状である。橋軸方向に「抜け」があるため、外部景観においては、橋軸に対してかなり鋭角に見ない限りその効果を実感することはできないが、走行景観においては、外に広がる風景への透過性を感じとることができる。部材の製造方法がもつ制約/特性をうまく利用しながら、既成概念にとらわれない新たな発想によって、構造性、機能性、景観性を実現する製品開発を行った点を高く評価したい。日本オリジナルのデザインとして今後の普及を期待したい。(久保田)