東京都杉並区善福寺2丁目31番
親水施設:多様な生き物の生息、自然観察学習の場、水に親しめる水辺
本プロジェクトは、善福寺川源流に当たる善福寺公園の上池と下池を結ぶ水路(遅野井川)160m の再改修である。善福寺川は治水機能を重視した構造をしており、また合流式下水道システムにより降雨時には下水が直接川に流出する。そのため、構造的・水質的に水に親しめる場所はほとんどない。杉並区は2009年11月、善福寺川「水鳥の棲む水辺」創出事業基本方針を発表。多様な動植物が生息・生育し、区民が身近に触れられる水辺を再生・創出するとした。
敷地内を善福寺川が流れる井荻小学校では、環境学習を通じて2009年、6年生が善福寺川周辺のゴミ掃除を始め後輩たちに継承される。井荻小・学校支援本部いおぎ丸やすぎなみ環境ネットワーク、善福寺川を里川にカエル会(善福蛙)など市民団体の支援を受けて川学習や川調べなど環境学習は進化していく。2014年7月、井荻小5・6年生110人が描いた「みんなの夢水路設計図」を区長に提出したことをきっかけに、2015年度から事業がスタートする。
杉並区は市民参加ワークショップを4回実施。各回30人前後の市民が参加するとともに、第1回ワークショップで井荻小児童による夢水路の発表が行われ、その後児童も参加。さらに、ワークショップ有志などによる維持管理検討会を実施し、遅野井川かっぱの会発足につながる。
上池の水質が悪く水遊びに適していないため地下水のくみ上げとし、上池からの越流水はバイパス管で水路に流入させない形にした。東京都の協力によって都立公園敷地の一部を水路と一体的に整備することができた。下流の草地広場、中間の親水テラス、上流生物保護区間の展望テラスと場所に応じた水辺を配置。流路の屈曲、水深や流速の変化など自然の川の形状を組み込んでいる。
デザインとは形を描くところから始まるのではない。地域を知る、課題の発見、解決方法、事業としての具体案、そういう一連のプロセスを指す。特筆すべきことは、この一連のデザインプロセスに市民や市民組織が密接に関わってきたことである。
川と人の関わりの場が再生されたことの意義は大きい。2023年には環境省の自然共生サイトの認定を受けた(行政と市民団体の協働による認定は初)。
*遅野井川の名称由来:かつてこのあたりは遅野井川と呼ばれていたことなどから、水路の名前を遅野井川とした。
小学生と市民が主体的な活動を10年以上に渡り継続し、市街地の公園内に小川の自然環境を再生してきた取り組みである。整備前は高い金網で隔離された狭い水路だったが、片側の護岸を取り払って拡幅し、人が訪れる公園園地と一体化させ、水面まで遮る人工物がない柔らかな水辺を創出している。水や河床に触れる遊び、園路から川辺を眺める散策の異なる楽しみを想定し、区間を分けた計画の工夫も見られる。現地に掲示された生きものや活動の情報が多く、この場所への愛情を感じさせる。水際の編柵など市民の手づくり整備も多いという。自然と人との失われた関係を取り戻すために積み重ねられている活動こそは賞賛に値する。
訪問時、テラスから上流の区間は夏草が高く繁茂して水面が見えず、立入を禁じられた区域も多く管理の難しさが表れていると感じた。降雨による撹乱がほぼ望めない状況で、河床や植生の更新をどう考えるのかを含め、今後も挑戦を続けてほしい。(西山)