選考結果について

優秀賞

多摩川スカイブリッジTamagawa Sky Bridge

神奈川県川崎市川崎区殿町3 丁目~東京都大田区羽田空港2 丁目
道路橋

 多摩川スカイブリッジは、全国初の都道府県境をまたぐ特定都市再生緊急整備区域「羽田空港南・川崎殿町・大師大河地域」の川崎殿町と羽田空港をつなぐ橋である。橋上の開放感と自然環境との一体感及び河川空間への圧迫感の低減を図り、多摩川の第一橋としての象徴性と維持管理に最大限配慮し、国内最大の240mの中央径間を有する3径間連続箱桁橋を水平基調の雄大な景観に調和するのびやかな美しいシルエットで実現させた。
 多摩川河口部には貴重な干潟が分布し、豊かな自然環境と多様な生物が生息する生態系が形成されている。河川河口の環境アドバイザー会議を設置し、上部工の張出架設と送出し架設工法の組合せや干潟浚渫の最小化など環境に配慮した施工、継続的な環境モニタリングにより、多摩川河口の豊かな自然環境を守った。飛翔する渡り鳥や穴守稲荷の大鳥居からの初日の出の眺望に影響が少ないように、橋上構造物がなくかつ河川への光漏れの少ないライン照明採用で橋上付属物も最小化した。豊かな自然環境と離着陸する飛行機、都市と山並みと下流側の東京湾がパノラマ状に眺められる開放的な橋上空間を実現した。
 自然環境に配慮した施工法や複合ラーメン構造など設計段階から施工者の有するノウハウを活用しかつ工期短縮も図るため、上下部一体の設計施工一括発注を採用した。設計・施工者が連携し、上部工の吊金具と排水横引管の省略、耐風対策の箱内処理、現場継手の溶接化と添接板のテーパー処理等、維持管理に最大限に配慮した様々な工夫により、付属物のないすっきりとした箱桁外面を実現した。最大板厚95mmの高降伏点鋼材の採用により桁高を抑え、複合ラーメン構造の橋脚接合部を桁の中央部まで立ち上げたデザインで、長大桁橋でありながら上部工のボリューム感を抑えた。これら上部工の工夫や支柱外側に横桟を配置した高欄、先進性と落ち着きを感じさせる塗装等により、桁橋の美しさと維持管理性を両立させた。

《主な関係者》
○西川 和廣(国立研究開発法人 土木研究所(当時))/構造・景観検討監修
○木村 嘉富(国土技術政策総合研究所(当時)、一般財団法人 橋梁調査会(現在))/構造・景観検討監修
○福井 恒明(法政大学 デザイン工学部 都市環境デザイン工学科)/景観検討監修((仮称)羽田連絡道路の景観に関わる検討会 座長)
○赤木 重文(一般財団 日本色彩研究所)/景観検討監修((仮称)羽田連絡道路の景観に関わる検討会 副座長)
○本田 卓士(川崎市 建設緑政局 広域道路整備室(当時)、川崎市 まちづくり局 交通政策室(現在))/橋梁設計及び構造、景観、環境検討
○藤木 直也(川崎市 建設緑政局 広域道路整備室(当時)、川崎市 建設緑政局 総務部企画課(現在))/橋梁設計及び景観、環境検討
○徳永 詩穂(川崎市 建設緑政局 広域道路整備室(当時)、川崎市 麻生区役所 道路公園センター(現在))/景観、環境検討
○紅林 章央(東京都 建設局 道路建設部(当時)、東京都 道路整備保全公社 道路部(現在))/景観検討監修((仮称)羽田連絡道路の景観に関わる検討会 委員)
○岡村 希望(株式会社 オリエンタルコンサルタンツ)/橋種選定・橋梁計画
○大波 修二(株式会社 オリエンタルコンサルタンツ)/橋種選定・景観検討
○山本 英幸(株式会社 オリエンタルコンサルタンツ)/環境保全
○土田 隆司(パシフィックコンサルタンツ 株式会社(当時)、故人(現在))/橋梁詳細構造検討
○石原 大作(パシフィックコンサルタンツ 株式会社)/橋梁詳細構造検討
○伊東 靖(パシフィックコンサルタンツ 株式会社)/橋梁詳細構造検討
○山本 晃久(五洋建設 株式会社)/橋梁詳細設計
○樫本 修二(日立造船 株式会社(当時)、カナデビア 株式会社(現在))/橋梁詳細設計
《主な関係組織》
○(仮称)連絡道路の橋梁構造に関わる検討会/橋種選定とデザインコンセプト
○都市計画道路殿町羽田空港線ほか道路築造工事に関わる河川河口の環境アドバイザー会議/河川河口の環境アドバイス
○(仮称)羽田連絡道路の景観に関わる検討会/景観検討監修
《設計期間》
2015 年1 月~2022 年3 月
《施工期間》
2017 年6 月~2022 年3 月
《事業費》
21,990 百万円
《事業概要》
橋長:602.2m,72.00m
構造形式:
上部構造 鋼3 径間連続鋼床版箱桁橋(複合ラーメン)
     鋼2 径間連続鈑桁橋(床版形式:合成床版)
下部構造 RC 逆T 式橋台(SC+PHC 杭基礎),
     RCT 形橋脚(SC+PHC 杭基礎),
     RC 壁式橋脚(鋼管矢板井筒基礎),
     RC ラーメン式橋脚(SC+PHC 杭基礎)
有効幅員:車道7.5m~10.5m,歩道・自転車道4.0m×2
立地環境:多摩川河口
主要施設(主要事業):道路橋
主な施工方法:
上部構造 台船架設,トラベラクレーン張出し架設,送出し架設,
     フローティングクレーン架設,トラッククレーン架設
下部構造 鋼管矢板井筒基礎:バイブロハンマ工法,打撃工法
     SC+PHC 杭:中堀杭工法
《事業者》
川崎市・東京都
施行主体:川崎市 建設緑政局 広域道路整備室
《設計者》
予備設計・基本デザイン:株式会社 オリエンタルコンサルタンツ
詳細構造検討・細部デザイン:パシフィックコンサルタンツ 株式会社
詳細設計:五洋・日立造船・不動テトラ・横河・本間・高田 共同企業体
<設計協力者>
合同会社 ミル
《施工者》
五洋・日立造船・不動テトラ・横河・本間・高田 共同企業体

講評

 羽田空港国際線ターミナルを裏に抜けていくと,川崎市に向けてこの橋はスーっと伸びている。橋長は600mを超えるが,とてもシンプルな桁橋である。様々な難しさを力技でグッと端正な姿に抑え込んだという印象を持った。メインスパンが200mを超える場合,アーチや斜張橋を採用するのが素直だが,大鳥居からの眺望や渡り鳥の飛翔環境などを丁寧に保全するため,上部工のない桁橋を採用している。その場合,壁のような桁厚となる危険性も高いが,中間支点の複合ラーメン化や最大板厚95mmの高降伏点鋼材の採用によって桁高を約7mに抑え,さらに柱頭部を桁に突き出すデザインでボリューム感を十分に抑えている。また川崎市側には貴重な干潟があり,それを保全しつつ施工する必要があった。そのため,橋脚から張出しと送出しを併用して架設するなど,多様な工夫が凝らされている。排水設備や高欄,親柱や舗装も丁寧にデザインされ,橋梁として質が高い。ただ気になったのは縦断勾配である。シンプルな橋ではシルエットが最も大切だが,羽田側が高架橋に接続するなど両眼の条件が異なるために仕方がなかっただろうが,そこがもう少し整えばという思いは残る。(星野)

 支間長240mの桁橋。その物理的な大きさにもかかわらず、ひらけた多摩川の景観にあって必ずしも際立つ存在ではない。むしろ伸びやかに両岸をつないでいる。そのシンプルな外観は、複合ラーメン構造による桁高の抑制と支承の省略、主桁の大部分に採用された全断面溶接のほか、鋼製排水溝による排水管の省略、足場用吊金具の省略(アイボルト化)、高欄照明による照明柱の省略などによって生み出されている。微妙にうねって見える縦断線形は右岸側の河川管理用通路と左岸側の航路をコントロールポイントとしつつ橋全体のエレベーションを抑えた結果であり、一見奇異に感じる部分ではあるが肯定的に捉えておきたい。特に高く評価されるべき点は生態系への徹底した配慮である。鳥類の飛翔を妨げないことや、河川内の生物への光害を防ぐことのみならず、右岸側に広がる生態系保持空間を極力乱さないよう、送り出し架設、張出し架設、大ブロック架設など多様な架設工法が巧みに組み合わされ設計にもフィードバックされている。完成した橋を見るだけではまず気づかないことではあるが、この橋のデザインの最もクリエイティブな部分である。上下部一体の設計施工一括発注としたのも適切な判断であった。(久保田)