愛知県春日井市高蔵寺町4 丁目100-19・20
駅前広場
高蔵寺駅は、JR 中央本線及び愛知環状鉄道が乗り入れる高蔵寺ニュータウン及び周辺地区の玄関口である。平成28 年3 月策定の高蔵寺リ・ニュータウン計画において「高蔵寺ゲートウェイの整備」として位置付けられ、交通結節機能の改善や都市機能の誘導などを図る、都市交流拠点として位置付け、利便性だけでなく、交流・滞留機能の向上を掲げている。高蔵寺駅南口駅前広場ならびに地下道改修はそのパイロットプロジェクトであり、高蔵寺ニュータウン及び周辺地区の玄関口の駅前として「おかえりなさい」の空間整備を図ることをコンセプトに、木質材料とみどりに囲われた明るく暖かみのあるアットホームな空間を創出した。
交通計画の見直しや抜本的な撤去新設はしておらず、既存広場線形や躯体形状といった制約がある中で一体的かつイメージを刷新すべくデザインを展開している。特に地下道と広場の結節点においては日射を透明な屋根とルーバー天井により取り込み、駅に降り立った際のイメージを大きく変えることができた。さらにベンチから天井材にいたるまで目に入りやすい場所に温かみのある素材として木材を採用し、また特徴的な形状をしたスタンドライトを設置することでインテリアのような居心地のよい空間を目指しデザインしている。ベンチ形状は場所ごとに用途や隣接する施設との関係から異なり、駅前広場の過ごし方の選択肢を増やしている。
植栽計画においては、山と平野が近接する高蔵寺の特有の自然環境を活かし、周辺でみられる多く種の植物を植栽している。植物材料は、周辺の緑地から高木移植・林床移植、さらに緑地内で採取した種子から育苗した苗木を植栽するなど徹底して地産材を使用し、地域ごとの遺伝的多様性に配慮しながら生態系ネットワークの拡充を図っている。植栽管理にあたっては、「高蔵寺駅駅広育て部」を結成し、植栽の成長に合わせて空間デザインを変化させていく創造的管理を実践している。
とても丁寧にデザインされた駅前広場である。ベンチや照明による居場所の演出、既存と新設のパーゴラのつなぎ方も繊細さが光っていた。ただし都市デザインと土木をつなぐランドスケープの視点からみると、鉄塔周辺にはやや疑問も残った。
改札を出て右手南口側の明るさは左手北口側の暗さと対照的だ。南口駅前広場は交通計画を変えず整備を実現しているが、バスの路線数・便数が多く地上部を開きにくい北口では同様の手法は難しいだろう。そうした南口の恵まれた条件と、南口整備と北口NTの関係性の「ねじれ」に仄かな違和感も感じた。南口駅前広場に植えられたNTの植物は、NTにさほどなじみがない(と思われる)人々にどのように感じられるのだろうか?(ただし実は南口から見た方が、高座台尾根上のNT住棟はより大きく感じられる…という視覚効果を逆手にとり、あえて戦略的に提案したとしたら拍手を送りたい…)。
いずれにしても現在動き出しつつある「高蔵寺リ・ニュータウンプロジェクト」の先駆けとして委員会で高く評価された。今後、北口を含めた高蔵寺駅周辺全体や「リ・ニュータウン」との創造的な連動に期待したい。(篠沢)
高蔵寺ニュータウンは現在のUR都市再生機構が手掛けた最初のニュータウン事業である。街自体の開発から時間がたち、新たな世代への魅力とすべての住民への安らぎを提供すべく「高蔵寺リ・ニュータウン計画」が進められており、この駅前広場プロジェクトも計画の一環で開始されている。既存施設の大規模な撤去・新設をしないという制約条件のなか、ほっとできる場所、「おかえりなさい」の空間の提供を目指した、いわば「駅前広場のリノベ」事例である。地下道と広場の接続部は光を取り入れることにより明るい空間となっており、その先に木材を多用したベンチを設置している。全体的に透明な屋根のやわらかい光と木材を生かした空間となっており、学生や住民の「居場所」として定着している印象を受ける。高蔵寺周辺の里山的森林の植生を生かした植栽は、これからさらに成長し、広場にやすらぎを与えるとともに、暮らしている住民にまちの自然の存在を気付かせるきっかけを作るだろう。大規模な改修を伴わない「駅前広場のリノベ」として、各地の参考にしてもらいたい好事例である。(中村)