選考結果について

優秀賞

道の駅しょうなん てんとRoadside Station Shonan Tento

千葉県柏市箕輪新田59-2
道の駅(飲食・物販・事務所等)

 千葉県柏市の手賀沼に隣接した、道の駅しょうなんの拡張計画である。穏やかな水辺空間と豊かな自然環境や良好な農地に恵まれている手賀沼の畔に建つ新しい道の駅は、農産物直売所及び駐車場の拡張という目的の他に,その地域の顔として、交流人口の増加を図る役割を期待されていた。道の駅は、公共が施設の建設を行い、運営業務は民間事業者に委託するといった「公設民営」である。半分は商業施設で、半分は公共的な機能を持っていなければならい。つまり、単なる商業施設ではなく、手賀沼を回遊させるための拠点(ゲート)をつくる必要があった。地域のエントランスゲートとなるこの道の駅は、多くの人々の通過動線・滞留空間となり、まるで駅前広場や空港の発着ロビーのように来訪者と目的地を結ぶ場所として賑わう広場のようにしたいと考えた。
 約40,000m2の広大な敷地に対し、建築はひと目で分かるシンボルになることが必要だったため、農業ハウスの屋根勾配を模った家型を連ね、農村地域の風景に溶け込むことを目指した。また、67.5m×67.5mの矩形平面の角を45度でカットし、我孫子(南東)方面・柏(南西)方面・手賀沼(北西・北東)方面からのアプローチに対してそれぞれの正面性と誘引性をつくり、多面多臂像のような建築のあり方がふさわしいと考えた。複数の消失点を空間の中に持ち、建築の奥行きや正面性が常に変化していくような空間とした。
 人々を迎え入れる半屋外空間の大屋根ひろばは、X・Y方向から平面的に45度回転させて配置させることで、二重の応力伝達経路を確保し大スパンの配置を可能とし、軽トラ市やキッチンカー、フードイベント、音楽イベント、収穫祭など様々な活動を可能とする軒下広場とした。
 この2つの方向性のもったフレームが、「道の駅に迎え入れる機能」と「手賀沼を回遊させるシークエンス」となり、この建築が様々な点と点をつなぐ、しょうなん地域のターミナルステーションとなることを願う。

《主な関係者》
○桔川 卓也(NASCA)/設計業務総括、工事監理業務総括
○樋口 卓史(NASCA)/意匠設計業務担当、工事監理業務担当
○中畠 敦広(yAt構造設計事務所)/構造設計業務担当、工事監理業務担当
○澤田 隆一(サワダライティングデザイン&アナリシス)/照明デザイン担当
○鎌田 順也(KD)/サインデザイン担当
《主な関係組織》
○柏市農政課/事業計画・発注
○株式会社 道の駅しょうなん/施設運営
○手賀沼アグリビジネスパーク推進協議会/地域事業・企画・運営
《設計期間》
2017年2月〜2018年12月
《施工期間》
2019年3月〜2021年11月
《事業費》
1,581,740,000円
《事業概要》
規模─────────────────
敷地面積 35,452.08m2
建築面積 3,062.62m2
延床面積 2,949.37m2
1階 2,949.37m2
建蔽率 8.64%(許容:60%)
容積率 8.32%(許容:200%)
階数  地上1階
寸法─────────────────
最高高 11,240mm
軒高  4,000mm
天井高 直売所・共通ロビー:3,700mm〜10,500mm(勾配天井)
主なスパン 5,625mm×11,250mm
敷地条件───────────────
地域地区 都市計画区域内(市街化調整区域) 、自然公園普通区域、22条区域
道路幅員 東4.96m 西7.42m 南21.24m
駐車台数 乗用車287台、身障者用8台、大型車11台
駐輪台数 バイク20台、自転車90台
構造─────────────────
主体構造 鉄骨造
杭・基礎 先端羽付鋼管杭(e-pile next工法)
設備─────────────────
環境配慮技術
CASBEE:B+、BPIm:0.86、BEIm:0.76
空調設備
空調方式 空冷ヒートポンプマルチパッケージ方式(GHP+EHP)
熱源 ガス、電気
衛生設備
給水 受水槽・加圧給水方式
給湯 ガス瞬間方式、貯湯式電気温水方式
排水 本下水(分流方式)
電気設備
受電方式 高圧受電方式 引込 3相3線 6.6KV 50Hz
設備容量 225kVA
防災設備
消火  消火器
排煙  全館避難安全検証法により免除、一部自然排煙
その他 自動火災報知設備、誘導灯、非常照明
特殊設備 冷蔵設備(プレハブ冷蔵庫+ユニットクーラー)、
調整池及びオンサイト貯留
《事業者》
柏市
《設計者》
NASCA
<設計協力者>
構造:yAt構造設計事務所
設備:設備計画
照明:サワダライティングデザイン&アナリシス
サイン・ブランディングデザイン:KD
家具:scale
防災:明野設備研究所
外構:overlap
土木:日本都市整備
《施工者》
建築:広島・古川特定建設工事共同企業体
機械:岡田・トキワ特定建設工事共同企業体
電気:城山・森特定建設工事共同企業体
土木:日進・三和特定建設工事共同企業体

講評

「道の駅」というビルディングタイプの建築は、様式が定型化されているように思う。しかし本来であれば、敷地固有の条件に呼応するように建築の形も多様であるべきではないか。
手賀沼のほとりに建つ本作品は、背後に控える手賀沼への視線の抜けに配慮するように、正方形の角を切り落とすことで、周囲に建つ既存建築やひろば、手賀沼との関係性を生み出そうと試みたものである。道路に直行する連続切妻屋根に対し、平面グリッドを45度傾けたことにより、多方向に広がりを持つ空間が実現できており、大屋根の下の半屋外空間は非常に気持ちの良い居場所になっている。単純な操作ではあるが、非常に効果的に作用している。
審査では、隣接する「道の駅しょうなん つばさ」側に閉じた建築となっていることや水辺との関係が希薄であることについて議論となったが、建築としての完成度の高さ、芝生ひろばとの関係性の作り方、駐車場を含めた外構デザインへの配慮など、総合的に見て評価できるものであるとの結論に至った。
芝生ひろばでは子供たちがのびのびと駆け回り、大屋根の下ではマーケットが繰り広げられ、人々が思い思いに居場所を見つけて過ごしている。「道の駅」という建築の新しい姿を示してくれた作品である。(栃澤)
 
道路、駐車場のエントランス側にのこぎり状に大きく開いた庇により、一目でわかるアイコンとしての建築が来場者を迎え入れる。広い軒下、キッチンカー広場、低木による前庭が駐車場との緩衝域を形成し、芝生広場に隣接した大屋根ひろばとともに、人が集まり滞留する場所を生み出し賑わう。
高さの異なる連続する切妻屋根を斜めに切ることで間口が広くなり軒先が大きく開く、外壁面を切妻の軸と角度をずらして配置することでたまりの空間や視線の重なりを作り出すなど、建築の形態操作が地域の顔としてのインパクトや道の駅としての空間の豊かさを創出している。
手賀沼のほとりには手賀大橋や船着き場、緑道などがあり、道の駅駐車場に車を置き、散歩やサイクリングなどを楽しむ人も見られる。新しい施設の特徴的な形態や手賀沼への視線誘導のデザイン、統一されたビジュアルアイデンティティなどにより、地域の交流拠点と手賀沼アクティビティのゲートウェイとして成功している。
一方で、既存レストランや手賀沼側の壁面は閉じられ関係性が持たれていないことや、手賀沼との利用の一体性がないことは議論になった。建築や事業のあり方として工夫の余地がなかっただろうか。(太田)