熊本県 上天草市〜宇城市 (三角ノ瀬戸)
自動車専用橋
天城橋は熊本天草幹線道路が三角ノ瀬戸を渡海する位置に、地域のランドマークでもある天草5橋の1号橋として知られる天門橋(1966年架設,橋長502m、鋼3径間連続トラス桁)に並列する海上橋梁として計画された。
熊本天草幹線道路は、熊本都市圏と天草地域との交流・連携を強化する延長約70kmの地域高規格道路で、交通渋滞の緩和、天草への交通代替路線確保、観光客増加、水産物の価値向上等の効果が期待されている。
設計においては、その架橋条件から、支間長200m以上となる長大橋、かつ、天門橋の老朽化リスクを緩和する代替路線確保の観点も併せ持つことから高度な技術的創意が求められると同時に、県立自然公園区域内において天門橋と並列することから、高度な景観的配慮も求められた。
土木デザインとしての問いは、「由緒ある田中賞初代受賞作品で、その場所の景観に調和している天門橋に並列する新しい橋梁はいかに在るべきか」であり、その解を探索した。
技術的課題のひとつは、並列橋における風による振動問題である。複雑な挙動となるため、新橋はできるだけ揺れにくい構造にするという判断からアーチ系構造を有力候補とした。続いて、考慮したのは天門橋の橋脚位置が陸地にあって、三角ノ瀬戸を一跨ぎしている状況である。その印象を弱めてしまわないよう、また、航路限界とアーチリブへの衝突リスクも考慮しつつ、アーチアバット位置を検証し、アーチ支間350mを設定し、雄大なシルエット獲得の目途を確認した。
アーチリブ設計において常に課題となるのが1/4点付近の変形抑制方法である。本橋はここにPCラーメン橋の剛性を活用する工夫を導入し、同時に、ソリッドで部材数の少ないシンプルな構造構成を実現し、それによって繊細な部材構成が特徴である天門橋との対比関係を明確にして、「場所の履歴への敬意(リスペクト)と新しい時代の幕開けへの賛歌(エール)」を表現することで、先に述べた問いへの解とした。
陽光降り注ぐ美しい海沿いの景観が続く天草。そこにはすでに地域のランドマークとなっている天草5橋が架かる。その1号橋として知られる天門橋は、美しいトラス橋で、由緒ある橋梁・鋼構造工学の賞である田中賞の初代受賞作品でもある。その場所に調和している天門橋に並列する新しい橋梁はいかにあるべきか、という悩ましい問いへの回答がこの天城橋である。
力強いソリッドなアーチは、風による振動問題、維持管理、そしてデザイン、と、いくつもの制約条件への最適解として選択されている。様々な角度から見ることのできる2橋のデザインのバランスをとり、調和させることはそもそも難しいと思うが、美しいアーチの形状と繊細なトラス橋の組み合わせは、それぞれの時代の技術レベルや要求を包含しているためであろうか、不思議な共鳴をみせている。主要な視点場であり、ムルドルらが建設した土木遺産でもある三角西港からは、2つの橋梁が重なっても違和感のないおさまりとなっており、多くの橋梁が楽しめる天草への道に新たな味わいを加えている。(中村)
近景の視点場が少なく、既存の視点場からは中~遠景として2橋のシルエットが重なって見える。景観デザインとしては難しい条件である。道路計画を変更できないとするなら、この条件を所与のものとして受け入れ、できる限りの努力をするほかない。トラス橋、エクストラドーズド橋、アーチ橋の3案が比較され、耐震性、耐風安定性、維持管理性に優れる中路アーチ橋が選定された。既設のトラス橋とはまったく異なる中路アーチ橋を選定した時点で、景観デザインの方向性は「シンプルな形態」、「新旧の対比」へと自ずと向くことになる。ただ、アーチの形態はゲシュタルト的に図になりやすく、トラスと重ねるとアーチのイメージが勝ってしまう。まして、主な視点場である三角西港からは新橋が手前に位置するため、より一層、新橋の存在感が強くなる。この難しい条件下でのデザインの努力は評価したい。側径間をPCラーメンとしたことも構造と景観の両面を考えた解であるし、鋼アーチと鋼桁の接合部やPC桁との接合部の造形もシンプルに収められている。ただ、アーチリブの上には架設に用いられた多数の吊環が撤去されずに残されており、走行景観において目障りである。新旧の対比として現代のデザインを標榜するなら撤去すべきだっただろう。(久保田)