群馬県前橋市千代田町三丁目12-10地先
河畔空間、都市のオープンスペース
広瀬川は、前橋の中心市街地を流れる用水河川であり、利根川水系や赤城三山等の豊かな自然背景を清廉な流れと緑によって表象し、都市に潤いをもたらす川辺である。中世には氾濫源を灌漑した農地を潤し、近代では蚕糸産業の水源として都市の隆盛を支えた。周辺には産業由来の煉瓦倉庫や地名、寺社等の史跡や門前街から発展した商店街、文学館や美術館などの文化施設といった歴史•文化的な集積もみられる。
一方、整備前の広瀬川河畔は、通過交通等の横行、夜間の治安不安、植栽の過剰繁茂や枯死懸念、過年整備の機能不全や一体性の欠如、滞留・活用のための空間や施設等の不足等の課題がみられた。そこで無電柱化の共同溝敷設に伴う河畔空間整備により、自然とふれあう歩行動線であり都市活動の基盤となる公共空間として再生し、中心市街地の活性化にも寄与することを意図した。
2018年に前橋市から前橋工科大学に所属する筆頭関係者へ相談があり、2019年度から本格的な周辺の調査と分析等を開始し、計画とデザインを検討・指導することとなった。都市計画的な位置づけや3期に跨る全事業に通底する基本方針と各エリアの基本計画等を構想し、核となる第1期区画として「文学館エリア」が2022年春に完成した。
「文学館エリア」は、前橋のアイデンティティを象徴するレンガ舗装を基盤に、文学館と連携した「詩のみち」として詩碑と協賛市民の名碑をレンガに刻み、将来的な全歩行空間化を目指した一体的な歩車道、ファニチャーに光源を敷設しグレアを防ぐ柔らかな照明、微気象緩和をもたらし河岸緑地の原風景を想起させる植栽、散策や多様な都市活動を誘発するファニチャー等、都市のオープンスペースとしての機能をデザインした。
また、研究室活動による次代への実験的な試みとして、廃棄青果を用いた堆肥による緑化プロジェクト、周辺の産業遺構をネットワークしながら新たな拠点も巡る指標となるイト(IT)プロジェクト、環境値計測による微気象緩和効果の検証などにも取り組んだ。
市民参加の手法としてレンガ舗装への協賛を提案し、整備前後のワークショップやシンポジウムの開催や、完成イベントを兼ねた車道解放の社会実験等、地域NPOや地元団体の協力も得て、官学民連携のプロジェクトへと展開した。今後も市民が集い楽しむ川辺へと育み、より豊かな公共空間として成長し充実していくことを期待する。
さまざまな建築デザインや地域団体等の活動によって都市の更新が進む前橋は、もともと養蚕製糸産業によって栄えた。広瀬川はその産業を支えた用水であり、今でも豊富な水が流れている。繁茂した緑によって鬱蒼としていたその川辺が、街を象徴するレンガによって車道も含めて一体的に舗装され、人々の居場所となるように再整備された。デザインは、とても丁寧だ。既存の緑は残すべきものと撤去されるべきものが選別された上で自然な植生となり、市民にうまく使われていた柵沿いのカウンターテーブルはリニューアルされ、同じシステムで展開されるベンチは、高さや広さなどが場所に合わせてコントロールされている。空間の基調となるレンガは、整然と割り付けられるだけではなく、寄付者の名前や前橋が産んだ萩原朔太郎の詩が彫りつけられ、市民の誇りの拠り所ともなる。ただ、現在完成しているのは一部区間のみで、延長工事が進行中である。全区間完成後の姿が楽しみである。(星野)