東京都港区海岸1 丁目
歩行者専用道
竹芝デッキは、東京都が行う都市再生ステップアップ・プロジェクトの1つであり、国家戦略特別区域計画の特定事業でもある「(仮称)竹芝地区開発計画」の中で、再開発エリアのゲートで日常欠かすことのできない重要な動線としての役割を担う歩行者専用道路である。デッキの構造は、橋長約240m の6 径間連続鋼箱桁ラーメン橋であり、支間割は地上の車両出入口、横断歩道、地下にあるJR 横須賀線などの架橋位置、周辺環境の交差条件からほぼ最終的な位置として選択の余地がなく、融通の利かない困難な計画であった。特に首都高を跨ぐところは最大の支間長となり、維持管理空間を踏まえた桁下の建築限界を確保する必要があるため、接続する桁端の高さ、縦断勾配など正しく針の穴を通すような計画であり、施工の制約からもこの場所で、ここでしかないできないデザインとなった。
本デッキのデザインは、高層ビル群で形成される都心部の景観において旧芝離宮恩賜庭園に隣接する、都心部でも他にはあまり見られない状況の中で、地上から15m以上の高さに長さ約240mのデッキは、地域の景観形成上大きな影響を与えることになる。そうした複雑な都市景観の中で、一筋の白いデッキラインを水平方向に通すことで、よくある煩雑な都市景観に緊張感を与え、ここにしかない都市景観を生み出している。また各部の形状もあまり主張が強くなり過ぎないよう、全体デザインが都市景観に溶け込むよう、控えめではあるが、緊張感を与えるものとして、程よい存在感のあるデザインとなるよう心掛けた。新たに建設される業務棟、住宅棟などの将来歩行者通行量や歩行快適性を鑑み、デッキの有効幅員6mと地上の歩道幅員3.5mとし、縦断勾配は車椅子での利用者が自力で走行できる程度の緩やかな勾配とする、だれでもいつでも快適に感じることができる歩行空間を目指した。
JR浜松町駅からゆりかもめ竹芝駅までを結ぶルートの上空に架けられた空中歩廊である。地上からはるか上空に架けられた白いデッキは軽やかで美しく、それを支える柱脚は多面体にすることで圧迫感を低減し、植栽帯とのリズムにより地上歩道の歩行者にストレスを与えることなく、空中に新たな歩行者動線を獲得できている。眼下に旧芝離宮恩賜庭園が見え、高層ビル群の合間を抜けて首都高速道路の上を飛び越えていくこの空中デッキの歩行体験は都心ならではのものであり、眺望確保のためになされた細やかなデッキのデザインは評価できる。
将来的にはJR浜松町駅に直結される予定であり、工事完成後には歩道としての真価が発揮されるものであると想像するが、現時点では地上部分に比べて歩行者が圧倒的に少なく、実見では竹芝デッキそのものの必要性が見出せなかったことが残念であった。竹芝デッキが目指す本来の姿で再度評価されるべき作品であると感じている。(栃澤)