選考結果について

優秀賞

上有住地区公民館Community center of Kamiarisu area

岩手県気仙郡住田町上有住山脈地15-1
公民館・図書館

岩手県気仙郡住田町、公民館の建て替え計画である。住田町は山間部にある林業が基幹産業の町であり、町内公共施設を木造で建て替える取り組みを行ってきた。本事業は3つ目の小中規模木造公共施設事業である。小中規模木造施設の着工数は住宅に比べ未だ少なく、町内の集成材工場は大断面集成材を主力製品にしづらい背景がある。本施設は「一品物」の大断面集成材ではなく、住宅の延長線上にある部材を多用することで、無理なく中大規模木造の実現可能性を示すものであり、持続可能な木材の循環システムを担保する上で極めて再現性の高いモデルケースと考えている。
公民館の隣には町民から愛されてきた民俗資料館がある。この建築は旧小学校であり、気仙大工と呼ばれる首都圏でも寺社仏閣を手掛けた地元の大工がつくった地域の誇りである。建て替え決定時には住民の要望で曳家・保存が決まったが、曳家された位置は旧公民館の裏側のような場所で、資料館の全体が視認できない状況となっており、この資料館の存在を際出せるのが配置計画の始まりとなった。
資料館の配置軸と敷地の地形軸から新公民館の外形は導かれ、資料館の前広場でありつつ、地形と新しい公民館で囲われた広場とも感じられるような屋外空間が生まれた。また、その2軸の交点を半屋外の三角土間とし、エントランスであり、広場での活動を支える空間とした。構造は三角土間とホールの境を棟とした大きな切妻屋根とし、資料館へ下がっていく軒が民俗資料館の象徴性を高めている。また、緩勾配の屋根は周囲の山並みとも街並みとも呼応した風景を生み出している。
気仙大工からの高い技術力を継手で見せたり、町内で製造される様々な種類の羽目板や、敷地でとれた河原丸石を舗装や壁に使い、内外に多様な地域の技術や素材をまとうことで、町の資源との連関を強めていく在り方を模索した。建築単体を設計する中に様々な関係性を継ぐことを目指している。

《主な関係者》
○廣岡 周平(PERSIMMON HILLS architects)/設計業務総括、工事監理業務総括
○柿木 佑介(PERSIMMON HILLS architects)/設計業務意匠主任、工事監理業務担当
○田畑 耕太郎(住田町)/プロジェクトマネジメント
○熊谷 玄(stgk)/外構設計・工事監理主任
○成富 文香(stgk(当時)、TORO(現在))/外構設計・工事監理担当
《主な関係組織》
○PERSIMMON HILLS architects/設計業務総括、工事監理業務総括
○住田町/事業マネジメント・運営・担当
《設計期間》
2019 年10 月~2020 年3 月
《施工期間》
2020 年7 月~2021 年3 月
《事業費》
19,620 万円
《事業概要》
構造:木造地上1階
敷地面積:3796.14 ㎡
建築面積:670.75 ㎡
延床面積:521.79 ㎡
《事業者》
岩手県気仙郡住田町
《設計者》
PERSIMMON HILLS architects
〈設計協力者〉
井上健一構造設計事務所(構造設計)
ZO設計室(電気・機械設計)
stgk(外構設計)
杉尾篤照明設計事務所(照明設計)
《施工者》
株式会社佐賀組・有限会社坂井建設特定共同企業体

講評

実見に赴いたのは午後3時頃で、隣接する小学校の下校時間とちょうど重なったけれども、これが良かった。皆が公民館に向かい、ランドセルを公民館の外壁横に設けられたベンチに置いてから公民館の中に入っていくのである。後に理解したのだけれども、下校後は、ベンチ横に停まる迎えのバスに乗って帰るので、そのバスが来るまで、公民館で遊んだり宿題をするのであった。ここで、この建物の内と外が繋がる動線や視界のデザインの細やかさと、どこに居ても地域の誇りである旧小学校の姿と供にある暮らしの一部を観察することとなった。このような日常を送っていれば、大人になったら、この建物を大事にするだろうな、地域の暮らしを愛おしく思うだろうな、と思わずにはいられなかった。
建物のレイアウトや高低差処理など、小学生が意識するはずもないけれど、だからこそ、心に留まるだろうと思った。時間の経緯ともに愛着が湧くであろう空間は、まさに土木デザインが目指す方向であり、本事例の在りようは、今後の参考に、大いになると思われ、優秀賞と相成った次第である。(松井)

訪れた夏休みの土曜日、公民館は休館だった…。
建築の配置計画としては曳家された旧小学校を民俗資料館として保存し、今回、公民館を建替えて最後のピースをはめたことになるが、建築配置に留まらない土木デザインとしての特質が土木デザインとしての評価のポイントだろう。
手かがりは、地盤の水平性と高低差ではないか?
最も高い地盤は、新旧小学校の曳家の水平性と、体育館プールへの視線を閉じなくてよい住田町ならではの豊かさを生み出していた。まちより一段高い公民館・駐車場は「小学校を中心とした公民館とまちのつながり」の場であった。通学圏が広域な住田町のスクールバス登下校やお迎えを待つ学童保育…公民館と諸施設の中心性が実は駐車場にあり、土日が休館な理由でもあった。
敷地内では、川原石で丁寧にデザインされた広場よりも、その先の、建物の隙間や軒先、開口部が切り取るまちや山々の風景が印象的だった。
一見、よくある風景だが、モノことの関係性とその歴史を丁寧に読み解き、町産材の加工過程から建築部材を決定した生業のデザイン、曳家から続く微かな地盤の差を公共デザインへと反映しつつ、新たな社会問題に対応した優れた作品として評価した。(篠沢)