大阪府 大阪市 浪速区 恵美須西 3-16-30
ホテル
OMO7大阪 by 星野リゾートは、JR大阪環状線の新今宮駅駅前に建つホテルである。計画地は1970年代に大阪市が公園計画地として取得した土地であったが、公園計画が実現されることなく、2016年に民間ホテル事業者を公募するプロポーザルが実施され、星野リゾートを事業主体とするチームが選定された。
計画地は、大阪を代表する観光地である「新世界」から近く、都市観光に適した立地でありながら、日雇い労働者の街「あいりん地区」に隣接するディープな場所である。
建築配置計画としては、ホテル高層棟を北側へ配し新今宮駅への圧迫感を抑えつつ、南側の大部分を緑化広場とすることで、駅前の緑地としてエリアの価値向上に貢献する計画とした。
「みやぐりん」と名付けた緑化広場は道路レベルから緩やかに2階へと繋がり、ホテルとまちの境界を曖昧にしている。
2階に「OMOベース」と名付けたホテルのパブリックスペースを配置し、新今宮駅のプラットフォームとレベルを揃えた。そうすることで、南側前面道路の存在感を消しながら新今宮駅を行き交う電車の風景をホテルへ取り込み、日常と非日常とが交錯する。
「OMOベース」はひとつながりの大空間とし、様々な居場所をつくりながら、広場に対して開かれ、内外一体利用できる「テンションあがる『街ナカ』ホテル」というOMOブランドのコンセプトを体現する空間としてデザインした。
客室をつつみ込む外装膜は、日中は「みやぐりん」の緑を引き立てる背景として、夜間は特殊照明を映し出すスクリーンとして機能し、宿泊客だけでなく、この土地を訪れるすべての人びとに「おもしろい」景観を提供している。熱容量の大きなコンクリートを熱容量の小さな膜材でつつみ込むことで遮熱し、日射負荷を低減する環境配慮型ファサードとしても機能する。
開業から一年以上が経過し、多くの人で賑わうこのホテルが新今宮の新たな都市資産となり、エリア全体の価値を向上させることを願っている。
敷地を構成する「谷」のヴォイドは、通天閣とハルカス、新旧のランドマークへの軸線を確保し、JR新今宮駅ホームとホテル2Fのフロントが緑地を介して同じ高さで向き合う状況を生み出している。ホームからホテルの緑地やホテル壁面「スクリーン」への視線は賑わいやその他の波及効果を生んでいる。一方、ホテルのパブリックスペースはカウンターなどの注意深い配置によって、ホテルとしての「水準」が維持されている。
「谷」の境界部も開きすぎないが、将来的には開放できるよう丁寧に処理されている。かつての新今宮駅前を知る者が唐突に感じた本計画も、天王寺動物園の路上カラオケ規制・立入禁止からてんしばへ、街角の遊園地化から温泉施設・安売量販店進出というまちの変遷を考えると、今や関西空港へのアクセス、ディープ大阪の観光資源、安価な土産販売に裏打ちされて極めて妥当にも見える。しかしその実現には緻密で大胆な空間デザインが不可欠だっただろう。
ホームからの羨望と宿泊者の優越(背徳?)の視線が交錯するかと思いきや、夏休み家族連れで賑わう様子には、すでに「新しい生活習慣」が浸透していた。仕掛けられたゲートが開く日も遠くない…?と感じた。(篠沢)
日雇い労働者の街に隣接し、駅前が1970年代から長らく放置された広大な未利用地だったこともあって、かつての新今宮駅周辺一体は近づき難い雰囲気であったことは想像に難くない。ゆえに、本計画が地域にもたらした景観的、経済的なインパクトは非常に大きく、地域に大きな変革をもたらす起爆剤としての期待は計り知れない。
プラットフォームから見える「みやぐりん」と名付けられた広場はとても美しく、緑豊かな空間が広がっている。その中には小さな居場所が散りばめられており、ランドスケープデザイナーの力が存分に発揮された、完成度の高いデザインとなっている。広場が利用者以外には開放されておらず、入口がわかりくいことが審査では議論になったが、周辺地域の状況を鑑みると、現時点ではやむを得ないのではないか、との結論に至った。一方、ランドスケープの起伏と植栽帯によって敷地を閉じるという手法は斬新で、周辺地域との分断が可視化されることをできるだけ回避しようとするデザイン意図が窺える。星野リゾートが打ったこの一手によって、地域が少しずつ変わり、最終的には「みやぐりん」が駅前の広場として、広く人々の居場所になることを願ってやまない。(栃澤)