熊本県熊本市桜町・花畑地区
広場、公園および建築
花畑広場(くまもと街なか広場、辛島公園、花畑公園の総称)」は熊本城に続く約230m の車中心であった道路を廃道、歩行者空間化して各敷地をつなぎ、面積約1.5ha の一体的な公共デザインを実践したプロジェクトである。「熊本城と庭つづき『まちの大広間』」をコンセプトとして、震災復興を象徴するまちの新しいランドマークとなることを目指した。
計画では熊本城への眺望を考慮しながら、城下町の特徴であった広小路のイメージを継承しつつ、日本由来の尺貫法や想定する利活用寸法を参考に15 間(約27m)の正方形を単位として「広間」を設け、官民共通の意匠としながら隣地の地割に対応する空間構成とした。連続する各広間の中で周辺環境の文脈を読み解き、城との位置関係もふまえてデザインに緩やかな変化を与えている。
まちの記憶を継承するため様々な素材活用の工夫を行い、2016 年の熊本地震により倒壊した熊本城の瓦が広間の舗装材料として再利用されている。植栽計画では「役木」の考え方を取り入れながら、熊本城や白川に生息する日本原産の樹種を調査、採用することで熊本城下に相応しい四季の移ろいの演出や緑のつながりがある風景を目指した。また、一体的な公共空間を目指して官・民や各専門領域が舗装、照明、植栽、色彩計画等で連携、協働することで様々な境界を越えたデザインが実現した。
検討段階では持続可能なまちづくりを見据えて様々な市民参加手法を取り入れたデザインプロセスを実践することで利活用しやすい広場を目指し、まちづくりの気運を醸成しつつ未来の利活用プレイヤー発掘、関係構築を同時に進めた。竣工後はさらなる持続的なにぎわいづくりと発展を目指し、整備効果検証と広場運営へのフィードバック、広場周辺の歩行者空間化検討などに取り組む。広場来場者数は、従前が約58.5 万人/年に対し約218 万人/年と4 倍近い増加となった(H.29 とR.3の比較)。
熊本桜町バスターミナルに着いて建物から出ると、左に熊本城の天守を眺め、目の前には大きな広場と公園が現れる。全国有数規模のバスターミナル周辺の交通が再編され、車主体の道路がお城や繁華街と接続する大きな人の空間に変貌していることに感動を覚える。
以前の「広小路」であったバス通りを、熊本城と庭続き「まちの大広間」として再現するというコンセプトは、歴史に対する敬意を感じ、市民の共感を誘うアイディアである。
道路、公園、民間敷地など異なる主体が共同し、道路を廃止し広場と位置づけ、セットバック部分も含めて3つの空間が一体的につながりつつ各々の過ごし方ができる。花畑公園は緑陰、辛島公園は身近な居場所、隣接するサクラマチクマモトはテラスの植栽や照明で一体感を演出している。お城エリアに接続する市民会館前、繁華街に接続する辛島公園前など、隣接する道路空間の再編が進んでおり、さらに回遊性が高まることも期待される。
全体性が重要な一方で、大空間の中の領域感ある居場所となるヒューマンスケールの設えも日常の滞留には必要で、そのバランスも工夫されている。移動可能なベンチやイベント活用する際のインフラも、多様な活用や居場所づくりに役立っている。広場や公園空間の運営については、さらなる使いこなしやデザインの工夫があるとよい。
花畑屋敷の大クスのように、今後何百年とこの広場はここにあり続けるのだろう。広場周辺のビルの更新や、目の前の平面駐車場のその後も見続けることになる。今後の都市構造の礎となる素晴らしい仕事である。(泉)
都市の中心を、道路交通の用途から広場に更新した事業で、実見した当日も多くの人々が行き交い、昔からそうであったように存在していた。舗装、排水システム含めて全ての設えが、細部まで制御されていて、設計者の確かな力量と仕事に対する丁寧な姿勢も感じ取れた。特に空間の随所で見られた、造形されたモノとその背景と前景の空間バランスも良く、日常的に、人々に心地よく過ごして欲しいという願いがデザインに反映されていることを感じた。
一方、事業全体のコンセプト「熊本城と庭つづき まちの大広間」から連想する大きな空間を包み込む場所性を体感できたかと問われれば、その印象は薄かったかもしれない。熊本城の敷地に繋がる広幅員のプロムナード、それに沿って展開される個性(歴史や役割)の異なる公園や広場空間の連携の感覚が弱い印象であった。多分に、空間のほぼ中央に挿入されてしまった駐車場空間が、その要因の一つと思った。が、どのような経緯があったのか、これからどうなる予定なのか、気になる情報は、応募書類に記載されておらず、応募範囲からも外れていて、民間敷地故の様々な事情があることが伺われた。この点は審査の論点ともなったが、結果として、再開発前の土地利用状況からの変化の大きさと事業マインドの総合性、包括性、デザイン性の秀逸さに焦点を当て、応募範囲内での評価として最優秀賞と相成った。ただ、選考委員個人としては、今はまだ事業の途中なのだと解釈し、駐車場敷地の今後に期待し、当初コンセプトが成就できるよう見守り続けたいと思います。(松井)