左岸:宮城県石巻市旧北上川河口~石巻市大橋 地先
右岸:宮城県石巻市旧北上川河口~石巻市井内 地先
右岸:宮城県石巻市中央一丁目14、15 番街区および二丁目11 番街区
水辺テラス(親水施設・散策路等)、賑わい交流拠点
旧北上川河口部に位置する宮城県石巻市市街地は、川湊として繁栄し、21世紀まで無堤であったが東日本大震災で遡上した津波により甚大な被害を受けた。堤防を作るか作らないかの議論から始まり、結果として、治水安全性の向上と水辺を生かしたまちづくりの両立を目指し、全長約8km にわたる水辺テラスのある堤防整備が決断され、東北地方整備局と石巻市が連携しながら事業を実施した。
かわまちづくりの基本方針は「古くから川湊として発展してきた経緯、優れた石の生産地であること等の地域の歴史や文化等を踏まえた景観を形成する」とし、施設全体の設計方針を「川湊の風景づくりの精神を受け継ぎ、まちの基盤となるアースデザインとして取り組む」こととした。
この方針の下、住宅、店舗、神社、学校、工場、地場の井内石といった既存の特性、および震災をきっかけに整備されたマリーナや震災復興祈念公園といった沿川特性を活かす整備とともに、風景全体としての連続性を重視した堤体整備を同時並行に検討した。
主に前者のために沿川の町内会と連携し、地区毎に3〜4回の住民参加WS を開催し、場所ごとの特徴と声を丁寧に拾い上げた全体計画のアクセントとなる拠点地区のデザインを行った。さらに中央地区においては、他地区と同様な配慮に加えて、河川占用準則の緩和を念頭に、公(国・市)民(元気いしのまき・街づくりまんぼう)連携によって、関連施設及び交通広場・北広場の外構デザインをすべて統一し、エリアイメージを強調するよう区画整理事業地のトータルデザインを行った。こうした当初からの利活用一貫の取り組みにより、石巻の新しい生活・観光拠点としての地位を確立している。
後者のためには、まちとの物理的つながり、住民の声から得た土地の履歴や利用形態を尊重しながら、雄大な川の風景と人の居場所として細部に配慮した親水空間の整備を行った。
東日本大震災から12年が経過し、各地で復興に関わる様々な成果が報告されている。本作品はそれらと並び賞されるべき土木デザインの労作といえる。被災した石巻市街地の治水安全性を高めるため、それまで無堤であった旧北上川に全長約8kmにわたる堤防が整備された。本復興事業においては、川と市街地の繋がりをいかに存続させながら達成できるか、約140回以上とされる計画説明、事業関係者間の連携、工事を含めた調整等、事業実施に至る尽力の大きさは計り知れない。そうした過程を経て実現した本作品には、旧北上川に寄り添う堤防空間の伸びやかさとともに、人々が水辺を楽しめる場所が細やかに、かつ適度な距離感のもとで配置されている。中央地区に見られる堤防の天端空間と建築との一体的整備、井内石で設えられた石積工や点在する着座可能な小スペースなどは、川を楽しむ人々の活動景の形成に寄与している。実見時にも日和山を背景に、離島に向かう船が着岸し、多くの釣り人が集う水辺の風景が印象に残った。再生された大島神社は、以前からその高さで祀られていたかのように再生を遂げ、石巻市かわまち交流センター(かわべい)横の広場も来訪客が気軽に利用していた。また川沿いに「かわまち薬局」という建物が見られるなど、川とまちとの関係づくりは広く住民にも受け入れられているように察せられた。被災から多くの困難な状況を乗り越え、堤防による川とまちとの断絶を回避し、おおらかな水辺空間のトータルデザインを達成した本作品に心から敬意を表したい。(柴田)
東日本大震災から12年、さまざまな復興事業が行われてきたが、この旧北上川のかわまちづくりもその一つである。しかし、巨大な堤防をコンクリートで覆い、人を寄せ付けないような事業では全くない。おおらかに流れる川にふさわしい風景が実現されている。街を取り囲む山並みと相まって伸びやかに続く緑の堤防、水辺では多くの釣り人が糸をたらし、川を眺めるレストランのテラスでは石巻の海産物を楽しむ。震災前まで、この全長8kmにわたる区間が無堤であったことを踏まえれば、この風景は驚くべき自然さである。まさに、土木にしかつくれない。石巻市民にとって未だ見たことのない巨大な堤防をいかに納得してもらい、うまく使ってもらえるか。津波が遡上し、地盤沈下も激しい、荒々しい自然と人の暮らしを、その境界においていかに調停するか。実現のための努力は、並大抵のものではなかっただろう。空間のハイライトは、商業施設や復興住宅などの建築と堤防天端が一体化した中央地区。ここでは、井内石を使用した腰壁など、都市的・広場的な精度のデザインが展開されている。その上流では「巻石」や大島神社を石積み護岸によって保全し、また対岸では既存石積みを保全するために道路の兼用の山付き堤防としたり、それぞれの場所にあったデザインが展開されている。また樋門などもシンプルにデザインされている。個人的には、水際を続くテラス幅や所々現れる親水テラスなどのスケール感に疑問も覚えたが、そのような疑問は本質的ではないのだろう。そういう説得力が、この風景にはある。(星野)