選考結果について

奨励賞

福岡市立平尾霊園合葬式墓所 山の合葬式墓所/山の広場Mountain Common Grave / Mountain Plaza

福岡県福岡市南区平和4-1
合葬式墓所

近年、少子高齢化や家族構成の希薄化により、無縁墓が増える中、家族や血縁を超えて社会全体で供養する合葬式墓所を、福岡市が平尾霊園内に計画した。墓所の設計にあたり、2019年の建築設計プロポーザルで、キノアーキテクツが最優秀に選定された。
さまざまな立場の人が利用する公共墓所であるため、特定の宗教をイメージさせるデザインは避けなければならない。一方で、お墓はきわめてプライベートな場でもある。誰もが公平に利用できながら、個々の思い入れを抱ける場所。公共性がありながら、プライベートな場所。特定多数のお墓であり、遺された人々の祈りの場所。自然がつくり出す多様な景色や変化の中に各々が個人的なシーンを見出せれば、それが故人とつながる記憶に変わると考えた設計者は、これら表裏の関係性を解くために、山の力を借りることにした。
今回の合葬式墓所の建設にあたり、かつて平尾霊園を造成するために削られた山々の緑を修復するように、掘削土で山裾をのばし、その下に埋蔵室を埋めている。故人は山々に抱かれながら眠り、訪れた人々は山裾に設けた献花台に花を手向ける。その献花台を円弧状の休憩所が囲み、故人を偲ぶための非日常の場となる。
円弧状の壁の外側には、地域の住民が日常的に利用する公園広場があり、樹々が生い茂っている。広場から見えるのは山の緑のみで献花台は映らない。故人は山に抱かれて眠り、残された人は山を前に故人を想い、故人に見守られながら山の広場で過ごすことができる。
合葬式墓所の第一次募集には600の枠に対し2000以上の応募があった。完成から2年が経ち、参拝者の反対側で、子供たちが遊ぶ姿が日常になった。自然と調和したデザインが、福岡市民に受け入れられたと言える。
自然環境を壊す建築ではなく、建築をつくること自体が自然の修復につながる、という設計者が常に大切にしている理念のもと、墓という社会インフラを持続可能にする仕組みのデザインが実現した。

《主な関係者》
○木下 昌大(株式会社キノアーキテクツ)/全体のデザイン方針の立案・デザイン指導・施設の設計監理統括・主任技術者
○山崎 雅嗣(株式会社キノアーキテクツ)/設計監理・管理技術者
○菊地 崇寛(株式会社キノアーキテクツ)/設計監理
○萬田 隆(株式会社tmsd萬田隆構造設計事務所)/構造設計・監理
○小林 充(株式会社tmsd萬田隆構造設計事務所)/構造設計・監理
○渡辺 忍(株式会社設備計画)/設備設計・監理
○松本 由貴(株式会社設備計画)/設備設計・監理
○吉武 宗平(凰コンサルタント環境デザイン研究所株式会社)/外構設計
○芳澤 利明(株式会社デザインリンク)/外構設計
○脇阪 直伸(ワキサカデザインオフィス)/サインデザイン
《主な関係組織》
○福岡市住宅都市局みどりのまち推進部 みどり政策課/構想
○福岡市住宅都市局みどりのまち推進部 みどり運営課/構想
○福岡市住宅都市局みどりのまち推進部 みどり整備課/監理・調整
○福岡市財政局アセットマネジメント推進部 施設建設課/監理・調整
○福岡市財政局アセットマネジメント推進部 設備課/監理・調整
《設計期間》
2019年6月~2019年11月
《施工期間》
2020年4月~2021年3月
《事業費》
約290百万円
《事業概要》
敷地面積:7403.07m2
建築面積:合葬式墓所57.20m2、献花所7.04m2、休憩所61.13m2、管理事務所、100.14m2
延床面積:合葬式墓所336.75m2、献花所36.18m2、休憩所86.38 m2、管理事務所101.77m2
延床面積:合葬式墓所336.75m2、献花所36.18m2、休憩所86.38m、管理事務所101.77m2
階数:合葬式墓所 地下1階、献花所・休憩所・管理事務所 地上1階
構造:合葬式墓所・休憩所・管理事務所 RC造、献花所 鉄骨造
地下1階 335.55m2 / 1階 225.53m2
建蔽率 3.58%(許容:50%)
容積率 7.97%(許容:80%)
階数 地下1階 地上1階 
地域地区 第一種低層地域 風致地域(第3種)
《事業者》
福岡市
《設計者》
株式会社キノアーキテクツ
《施工者》
ユーライフホーム株式会社
西日本機材株式会社
株式会社蘭設備プランニング
株式会社福美電業社
株式会社大橋造園土木

講評

本事業は墓所・献花所など小さな建築群から構成されている。その本質は、背後に広がる墓地と前面の住宅地との境界において、死に対する墓所という非日常と、生の顕れである広場という日常を、RC壁表裏で解決する姿にあると考えられる。規模は決して大きくないものの、都市と非都市の境界を扱う点に土木デザインとしての特質をみることができた。
礼拝所を包むように、ゆるく弧を描いて造形された休憩所の低いRC壁には、構造に応じて大きさと機能が異なる穴が穿たれ、広場の生と墓所の死、遊ぶ子供たちと礼拝に訪れる人々が互いに見えかくれする。まちを望む丘の公園としての安心感と、死を悼む場としての静謐さが成立している。
施設群は、かつて地形改変された山を「修復」するよう造成された地中に埋め込まれている。この丘が背景の地山とは同化することはないものの、共に寄り添い続けることにこそ意義があるのではないだろうか。(篠沢)