長崎県平戸市田平町大久保免1111-2
都市公園
長崎県平戸市にある中瀬草原キャンプ場は、玄界灘を見下ろす8.7haの丘陵地であり、多島海の景観と草原と空がバランスよく見渡せる景勝地である。古くは集落の入会地として維持され、田平町(平戸市に合併)がキャンプ場を開設したが、近年の予算縮減により、維持管理が困難となり、草原が荒れ、樹林化により草原面積そのものが縮小し、海への眺望が十分に確保できていなかった。また、ゴミの放置、駐車場・トイレのオーバーユース、施設の老朽化など、再整備を行うための課題が多かった。
2019年に長崎県初のP-PFI制度による公募から、(株)中瀬草原キャンプ場(日本工営(株)・星野建設(株)の共同出資)が選定され、NPOヤギ羊ecoプロジェクト協議会及び(株)スノーピーク協力によるキャンプ場が2020年4月にオープンした。民間活力による当地の再生に向け、必要機能を集約化させ、景観を阻害しない建物の配置により、草原景観・海への眺望の確保した。事業開始前に植生調査(過去の航空写真判読、現地調査)を行い、従前の草原範囲への復元・伐採植生の選定を踏まえた植栽管理方針を設け、小型家畜(羊)による除草を実施している。地方創生・まちづくりの拠点として活用するため、管理棟内のカフェ・売店では地域特産品の加工・販売や地域イベント・講習会の開催など積極的に取り入れることを提案した。
開業から3年目を迎え、コロナ禍の影響を受けつつも、初年度宿泊者約3500名、2年目には6000名を超え(日帰り利用者を除く)、順調な利用傾向が続いており、オープン2年目で経常黒字となった。また、キャンプ利用以外でも地域イベントである中瀬クロスカントリー大会(約500名の参加)や音楽イベント、各種セミナーを定期的に開催しており、地域活動の拠点として活用されている。特に草原環境の保全のため、草原内への車の乗り入れを制限し、植栽管理に羊を導入するなど、草原サイトの芝の管理にはこだわりを持っている他、間伐材を薪に利用するなど、植生廃棄物0に向けた取り組みを続けている。
各種メディアで全国有数の人気キャンプ場として取り上げられるなど、キャンプ場としての認知度も向上している。また、国土交通省のグリーンインフラセミナーや雑誌「公園緑地」において、グリーンインフラの先行事例、及びSDGsに配慮した都市公園として紹介されるなど、羊を使った循環型植生管理の方法も注目を集めている。
とかく、P-PFI事業は大都市を中心に収益性と事業規模が重視される中で、過疎地域でお手頃な事業規模により展開でき、自立的・持続的な運営形態を目指せるECOな地方創生事例として、運営維持管理方法が確立されつつある。
駐車場に車を止め階段を登ると、広々とした草原がなだらかにくだる。その先に玄界灘が広がっている。絶景である。ここは、維持管理が不十分となり、土地のポテンシャルを活かしきれていなかったキャンプ場を、長崎初のPark-PFI事業として再生させたキャンプ場である。
土地の状況を丁寧に読み取った施設配置など、行うべきことがしっかりと実施されている。その上でユニークなのは,羊の放牧である。除草された草は飼料となり、古来から行われてきた蹄耕法による草原回復も実現される。畜産技術の応用は、除草コストの削減だけではなく、草原の維持や樹林縮小による景観回復の効果があるらしい。
選考会において、土木として何を評価すべきかという議論となった。繁華な都市部でのみ成功事例の多いPark-PFIを過疎地において成功させたこと、国土管理という点から意外と難しい草原の維持を達成していること,これらにおいて、土木学会デザイン賞に値するとの結論に至った。(星野)