選考結果について

奨励賞

遠賀川多自然魚道公園Ongagawa River Fishway Park

福岡県芦屋町祇園町
多自然魚道および地域の公園

遠賀川多自然魚道公園(全長約400m)は、九州北部を流れる一級河川、遠賀川の河口左岸に位置する。河口堰で隔たれた海と川の環境を多自然魚道によってゆるやかな勾配でつなぎ、人々が利活用できる設計となっている。河口堰には階段式の魚道が設置されているが、落差が大きいため大型魚しか遡上できなかった。また、河口特有の汽水域や干潟といった環境が失われていることに加え、周辺の河川敷はコンクリートで覆われており人が河川と接する環境としても課題があった。
このような環境を再生するため、2008年から「生きものと人をつなぐゆるやかな水辺空間の再生」をコンセプトとして、デザインを進めた。大学と国、地域、企業が協働し、計画・設計の3年間で30回以上のワークショップを実施し、多様な魚種に対応した魚道と干潟の創造、海と川が接する空間を自然再生した。
近隣河川の曲率をもとに線形デザインを行い、地域の地形を活かしながら水辺に近づける空間を実現した。設計にあたっては、アフォーダンス理論、プロセスプランニング及び複数のエリアが重なり合うことによって利用者の多様なアクティビティが生まれることを期待するMFLP(Ito et al., 2010)の概念を用いた。施工では、空石積み護岸等の伝統的工法を取り入れるとともに、取り除いたコンクリートを砕いて蛇籠に詰め護岸の内側に設置することで、廃材の再利用と護岸強度の向上を同時に達成した。
竣工後、多自然魚道では1時間あたり8000匹を超える小型魚の遡上や汽水性魚類・甲殻類が確認され、海と川をつなぐ重要な回廊として機能している。2013年の完成後も地域、大学、小学校、国土交通省遠賀川河川事務所の協働で、プロセスプランニングによるフレキシブルなマネジメントを行っている。竣工から10年、継続してモニタリング、生物調査、川と地域のつながりを考える環境学習のフィールドとしても活用されている。

《主な関係者》
○伊東 啓太郎(九州工業大学准教授(当時)、九州工業大学教授(現在))/コンセプト提案、基本設計・実施設計におけるデザインディレクション、順応的マネジメント、活用手法の提案
○辰本 卓(遠賀川河川事務所技術副所長)/プロジェクトマネジメント
○小野 勇一(九州大学名誉教授)/生態学的知見の提供
○柄沢 祐子(遠賀川河川事務所所⻑)/モニタリング、順応的マネジメント、活用計画の実践
○松木 洋忠(遠賀川河川事務所所⻑(当時)、土木研究所水災害研究グループ長(現在))/遠賀川魚道活用の全体マネジメント
○光橋 尚司(遠賀川河川事務所所⻑(当時)、国際建設技術協会水資源・防災部部長(現在))/遠賀川魚道活用の全体マネジメント
○大野 良徳(遠賀川河川事務所所長)/遠賀川魚道活用の全体マネジメント
○山口 英彦(遠賀川河川事務所副所長)/プロジェクトマネジメント
○原田 佐良子(遠賀川河川事務所河川環境課建設専門官(当時)、福岡市総務企画局水資源対策担当部長(現在))/遠賀川魚道活用の全体マネジメント
○江上 綾子(遠賀川河川事務所河口堰管理支所)/モニタリング、順応的マネジメント、活用計画の実践
○深浦 貴之(遠賀川河川事務所河口堰管理支所 管理係長)/モニタリング、施工方法の提案、施工管理・マネジメント
○江藤 孝倫(遠賀川河川事務所調査課調査係⻑)/モニタリング、環境学習ワークショップの計画と実践
○須藤 朋美(九州工業大学大学院工学府(当時)、九州工業大学助教(現在))/モニタリング、環境学習ワークショップの計画と実践、順応的マネジメント、活用計画の実践
○和泉 大作(株式会社建設技術研究所九州支社環境・都市室室長(当時)、株式会社建設技術研究所東京本社環境部技師長(現在))/実施設計、住民参加ワークショップの実施
○豊國 法文(株式会社建設環境研究所九州支社九州技術部長)/実施設計、住民参加ワークショップの実施、活用計画の検討
○嶋田 智行(八千代エンジニヤリング株式会社九州支店河川・水工部第二課)/基本計画、基本設計、住民参加ワークショップの実施
○松本 識史(九州工業大学大学院工学府(当時)、株式会社オオバ九州支店まちづくり部ランドスケープ課担当課長(現在))/基本計画検討、住民参加ワークショップの実施
○伊藤 拓也(九州工業大学大学院工学府(当時)、西日本技術開発株式会社河川部(現在))/実施設計検討、サイン計画、順応的マネジメント、活用計画の提案
○馬庭 彪悟(九州工業大学工学部)/モニタリング、順応的マネジメント検討
《主な関係組織》
○九州工業大学 伊東啓太郎研究室/模型製作による設計検討、住民参加ワークショップによる設計検討、マネジメント・活用計画の検討、モニタリング・環境学習ワークショップの計画と実践
○国土交通省 九州地方整備局 遠賀川河川事務所/設計プロジェクトマネジメント、順応的マネジメント、活用計画の実践
《設計期間》
2008年12月~2011年8月
《施工期間》
2011年9月~2013年6月
《事業概要》
面積(または延長):約20500㎡、全長約400m
立地環境:福岡県遠賀川河口
主要施設(主要事業):多自然魚道を併設した河川敷公園
《事業者》
国土交通省九州地方整備局遠賀川河川事務所
《設計者》
国立大学法人九州工業大学 伊東啓太郎研究室
〈設計協力者〉
八千代エンジニヤリング株式会社
株式会社建設技術研究所
株式会社建設環境研究所
《施工者》
滝口正行(松浦・白石JV)
白石慎二(松浦・白石JV)
松本伸彦(松正・福山JV)
吉田靖博(株式会社三島建設)

講評

遠賀川を堰き止める巨大な河口堰にも、当然構造物としての魚道は設置されている。堰と隣接した河川敷に、迂回水路(fish bypass)や河口干潟・入江干潟からなる「多自然型魚道公園」が整備されたことによって、周囲に残る水辺の自然
環境と互いに補い合い、系を形づくりつつ、堰周辺の汽水域の環境をより豊かに培われてきたことは、竣工後10年経過をした水路の魚影の濃さや、飛来する鳥類、そして水辺を訪れる人々からも感じられた。
この間、水路岸は侵食され、杭など木製構造物に腐朽や破損が見られる。これを「劣化」とみるか、年月を経た自然環境への「適応」とみるかは、土木デザイン的には意見が分かれるところではある。
計画設計意図を示したアフォーダンス理論や用語にはやや説明不足の感があったものの、時間の蓄積によって河口堰周辺の自然環境が向上し、豊かな公共性が長期間を経ても持続している点で、高い評価を得た。(篠沢)