京都府宇治市宇治塔川
河川護岸(防水防護)
宇治川塔の島地区は琵琶湖から淀川に繋がる治水上重要な区間であるが河積が小さく、洪水時の流下能力の向上が課題となっていた。一方、当地区は世界遺産の平等院をはじめとした歴史的文化遺産が点在し、文化庁の重要文化的景観にも指定され、地元市民や観光客にも親しまれているため、歴史的・文化的景観と調和する河川改修事業を行った。
河川改修にあたっては学識者主体で構成される委員会や地域の観光業関係者や地域住民で構成される委員会を通じて、従来の河川工事で使用されているコンクリートの人工的景観でなく、歴史的・文化的景観の保全と再生に資するデザインを目指し、「河川がもたらす自然の作用によって形成された中洲の再生」をイメージして事業を行うこととした。具体的には護岸構造に川石を用いた自然石の野面護岸とし、昭和初期以前と同様の中洲のイメージ再生の方法として島の下流部を切下げ、且つ川岸に捨石を配置することで捨石の隙間に自然な土砂が堆積する構造とした。
また、塔の島地区の派川側では、鵜飼などの遊船営業が行われており、河川改修後も遊船が行える環境を確保するために出水時の流量を抑制する「導流堤」を設置した。導流堤は島と一体的な景観となり、且つ人工的な景観とならないように巨石も組み合わすものとした。
更に塔の島は京都府立宇治公園として利用されており、川への転落防止として安全柵を設置し、利用者の視線に配慮して河川の護岸内に設置することで護岸と一体化した景観を形成できるものとした。
これにより、治水と景観の一体的整備と環境の保全・再生を実現し、地域活性化に貢献することができた。
宇治橋から当地区を眺めても、一見しただけでは、この宇治川の景観のどこが整備されたかわからないかもしれない。
本事業では、河床掘削による流量(横断面)の確保が行われた。事業の骨組は明解である。本流の宇治川では護岸の傾斜を緩く「寝かせ」、支流の塔の川では上流の堰を導水堤に変更して水量を調整、下流落差工で水量を保ちつつ護岸を「立て」、本支流それぞれの河川景観をより際立たせている。塔の島上下流端の洲の構造意匠には侵食堆積など自然との関わり方が考慮されている。
本支流に面した柵は統一してデザインされ、箇所ごとに周囲の景観に合わせて配置や意図を変える。本流側では、柵は視線より低く、河川側にセットバックして配置された(計画高水位との関係には議論もあったが…)。
一方、支流側では、柵は立てた護岸の上部に配置され、対岸のまちの景観に「埋没」する。塔の川では河床掘削の影響による水位低下に合わせ護岸下部を整備しているが、本事業で意図された掘割状の景観が単なる書割に留まらずに着実に具現化できた背景には、事業における繊細な配慮が存在し、周囲のまちなみの慣性力と調和したことが、効果を発揮しているだろう。(篠沢)
宇治橋を渡ると、宇治川の豊かな水の音の向こうに生まれ変わった中州の風景が見える。写真で見る川から切り立った直線的な形状をした以前の中州とは全く風景が違う。平等院を横目に中州に近づくと、川に近い傾斜護岸で遊ぶ親子、園路のベンチで話す老夫婦、遊歩道沿いの店で飲食を楽しむグループなど、川を身近に感じて場所に応じて体験を楽しんでいる人たちに出会う。
河川流量を確保するため河床掘削や中州を一部削り護岸を緩やかな勾配にした結果、島の平地部分は狭くなっているはずだが、逆に川へ近づきやすく視界が広がりとても心地が良い。水位が大きく下がることに対しても、流量制御の導流堤を導入する際に模型実験を経て形状を決め、水位と合わせて護岸を切り下げた船着場を設置するなど、永年蓄積されてきた観光文化のインフラ構築にも寄与している。
島の下流部の切下げられたところが、増水時の影響か一部柵や舗装材が破損し立入りできなくなっていた。川に近づける工夫と安全確保や景観との両立は常に問題となるが、最適な解き方を期待したい。一見地味にみえるが、今後時間をかけて宇治の風景になじませていく、丁寧な仕事である。(泉)