富山県南砺市利賀村栃原~長崎
車道橋
利賀大橋は、利賀ダム建設に必要な工事用道路として国土交通省及び富山県で整備を進めている一般国道471号利
賀バイパスの一部区間として、2018年10月に一般供用された6径間の鋼上路式アーチ橋(橋長368m)である。ダム完成後は一般国道となり、庄川方面から利賀村方面へのアクセスおよび観光道路として広く利用されることが期待されたため、延長9.3km区間にある本橋を含む長大橋3橋を対象とした利賀ダム景観検討委員会が2001年に設立され、設計の初期段階から、「豊かな自然景観を主役としたうえで、それを極力活かす橋梁形式を選定する」ことを基本方針に橋梁計画が吟味された。
本橋は一級河川庄川(小牧ダム湖)を渡河し、隣接して庄川峡長崎温泉、上流側ダム湖畔に秘境の一軒宿として地域観光に大きな貢献を成す大牧温泉がある。ダム湖面は、その大牧温泉に向かう遊覧船が往来する四季折々の風景を楽しめる場所で、事業においては交通機能の向上だけでなく観光面への寄与、すなわち、船上からの見え方、近接する長崎大橋との関係性にも留意した橋梁計画が求められた。
加えて、維持管理面での合理性確保も重要な与件として橋梁計画を検討し、橋梁全体としてはRC橋脚に剛結された鋼箱桁連続ラーメン橋がダム湖を渡河する最大支間部を三角トラスで構成されたアーチにより補剛される構造システムを発想した。また、アーチリブと補剛桁とを繋ぐ支柱のブレース材を省略し、部材断面を統一するなど、それぞれの部材が繊細かつメリハリのある橋梁シルエットの実現に寄与するように橋梁計画を練り上げた。さらには、RC橋脚やアーチアバットの隅切り、極力目立たない排水管路の計画等、ディテール面の調整を加えた。
竣工して3年が経過した現在、四季を通じて橋を眺めながら風景を楽しむ人達の姿を多く見かける。今後、本橋がこの美しい自然と共生し、地域のシンボルへと成長していくことが期待される。
実見時にまず魅了されたのが、深い緑の渓谷と鮮やかな赤い橋とのコントラスト、さらにシンプルかつ洗練されたそのシルエットであった。利賀大橋は一級河川の庄川(小牧ダム湖)を跨ぐ鋼上路式アーチ橋だが、補剛桁に繋がる支柱を上下端にピン支承を設けることで細くし、支柱間のブレース材を省略するなど、すっきりとした透過性の高い構造デザインが達成されている。
最大支間部の逆三角状パイプトラスで構成されたアーチリブは特に印象的で、上流側の大牧温泉に向かう遊覧船からその構造美が存分に楽しめる。船が進むにつれ変化する三角トラスアーチの様々な表情、迫力ある朱色の「映える」風景に私も興奮しながらシャッターを切らされた。下流側には同じく赤色の長崎大橋(ソリッドリブアーチ)が既に架橋されており、2つの橋が船上から重なって見えた時、目指された橋梁群としての調和にも頷かされた。
維持管理用の検査路もトラスリブの中に通され、支柱に添う配水管とともに絶妙な淡灰色で、周囲の風景に溶け込んで見えた。乗船券に印刷された渓谷の写真にも赤い橋が写っている。
利賀大橋によって庄川峡の風景は、より鮮明に、訪れる観光客の思い出として刻み込まれていくだろう。(柴田)
一般供用を前提とした、新しいダム建設のための工事用道路として、既設のダム湖上にかかる橋梁である。山深く、緑の濃い風景の中で、真っ赤な色が目に鮮やかな、シンプル極まりない橋。しかし、その軽々と見えるシンプルさの裏側には,おそらく多くの実績に裏付けられた自信に基づく、様々な構造的チャレンジがある。
例えば、湖面に美しい影を落とすアーチは、国内初の単弦の三角パイプトラスアーチらしいが、全径間連続の補剛桁をアーチ両端の橋脚と剛結し、風や地震等の水平荷重を橋脚で支える連続ラーメン構造にすることによって実現されている。また、アーチリブと補剛桁をつなぐ支柱も、ピン構造とすることでブレース材を省略していることも、すっきりとしたシル
エットの構築に大きく寄与している。
これらのチャレンジが、下流に位置し、庄川に浮かぶ遊覧船からは兄弟橋のように見える、上路アーチの赤橋、長崎大橋へのリスペクトに端を発していて、技術者の自己満足では決してないということも、私たち利用者の心を温かくしてくれるだろう。先達への敬意と景観への配慮、それを実現するための技術的挑戦まで、優れた土木デザインの達成である。(星野)