兵庫県姫路市神屋町143-2他
ホール、展示場、会議室、店舗及び都市公園
「アクリエひめじ」とは、JR姫路駅から東へ約700mに位置する複合施設の愛称で、公募により決定された。アクリエ」という言葉には架け橋(アーク)と創造(クリエーション)を掛け合わせ、未来へ続く新しい創造の架け橋となる場所にとの想いが込められている。また、施設西側には隣接した都市公園「キャスティ21公園」が位置している。
姫路市では、鉄道高架化によりできた土地に駅や中心市街地から人を呼び込む東西軸を整備するまちづくりを進めており、本施設はその中でも施設名称の由来の通り、文化芸術の拠点やものづくり強化・地域ブランド育成を行える施設として計画された。
ランドスケープ計画のコンセプトを「姫路の新たな交流創造の丘」とし、播磨国風土記にも登場するこの地域によく見られる地形である「丘」の上に、緑に囲まれた新たな市民交流の拠点を創出した。
本計画では、施設と公園が連携することで屋内外の様々なイベントやアクティビティに対応することが可能となっている。敷地を往来する道路の上空にはデッキが横断し、デッキのある2階レベルへのスムーズなアクセスが、2つの機能を一体的に利用する上で重要なポイントとなっている。
公園側は北向き斜面の丘形状のグランドデザインとすることで、2つの鉄道高架に挟まれた敷地条件の中で、明るく利用者に閉塞感を与えない空間構成としている。東西に細長い敷地形状を生かした緩やかな縦断勾配の主園路を進むことで、公園内の散策を楽しみながら勾配を意識せず来訪者が2階のデッキレベルへ到達することができる。施設側はデッキから続く主動線の近くに縦動線を集中させることで建物内や外部イベント広場・滞留スペースへのアクセスを容易にし、2階レベルから地上のイベントを眺める等多様な使い方を促す計画としている。また、建築上部には施設内の空調負荷低減にも資する大面積の薄層緑化により、公園の丘と呼応して地域の自然と融和するもう一つの丘を創出している。
姫路駅周辺整備事業「キャスティ21」の一環として計画された対象地は、JR山陽本線と播但線の2つの鉄道高架に挟まれ、不整形かつ閉塞感の懸念される敷地であった。本作品はそうした立地上の課題を、丘を持つ公園と歩行者デッキの挿入によって見事に解決している。
丘を縫うように配置された曲線形状の歩行者デッキは、バス停の併設された道路(下寺町線)を立体横断し、緩やかな傾斜のままアクリエひめじに直結する。求められた姫路駅との歩行者往来もスムーズで、アクリエひめじの2階エントランスホールを通り抜け「はりま姫路総合医療センター」にまでアクセスできる動線計画も功を奏している。
また、デッキ途中の要所に設けられた多くの植栽帯は、歩行者の休憩を促す場としても機能し、連なる緑の風景に貢献している。デッキ前に広がる公園の丘も、緩やかな芝の斜面と伸びやかなベンチ・階段が配され、高架下空間との一体的なデザインが達成されている。播但線の高架下には休憩できるベンチや車の通らない通路、さらに丘の反対側にある高架下通路も十分な幅員と植栽が配されており、歩行者や自転車を利用して駅に向かう人々の利用が多く見られた。
上記デッキと公園は、高架を走る電車からも一望でき、「見る・見られる」の関係が敷地内の舞台性や眺めの面白さに繋がっている。多層的なランドスケープのデザインによって、異なる視線レベルの有機的な繋がりと人々のアクティビティを誘発する巧みさが読みとれる。立地の特徴を最大限に活かした土木・公共空間のデザインとして高く評価したい。(柴田)
姫路駅から東に続く鉄道の高架化とその用地を再整備するキャスティ21計画の集大成となる場所。緩やかな勾配で心地よい緑を通り抜け、横に芝生でくつろぐ人たちを感じながら半屋根のメイン通路でホールにいざなう、視線の変化が楽しく期待感が高まる。通過する人たちと滞留する人たちが相互に程よく存在を感じられ、照明も演出されていて、安心感があり心地よい。
実見の時には、子供たちが広場で遊ぶ、犬の散歩の途中で立ち寄る、川沿いの高架下のベンチでたたずむ、芝生を前に腰かけて本を読む、など思い思いに使われていた。駅からの歩行者動線は公園からホール2Fへ、建物内の圧巻のレンガ張り共用ロビーを通り抜け隣接する医療センターまで続く。施設利用者のみでなく、周辺の住民にとっての歩きたくなる駅へのアクセス通路や居場所ができたことの価値も大きい。
2本の鉄道高架と川に挟まれた場所で、ホール前の道路を立体横断するという条件に対し、緩やかな勾配の動線を配置して北側に緩やかに開き南側は擁壁とする、川・高架下と公園をシームレスで扱うという、ランドスケープと建築が一体となり複数の事業が連動することで実現した秀悦な地形のデザイン。裏となりがちな南側の擁壁も、通路幅が広く植栽と階段で適度に分節化され目線も通るため、圧迫感や不安感はない。
新幹線や電車から人の様子もよく見え、姫路を表現する場所となっている。人の空間に変貌を遂げた駅前と姫路城を結ぶ南北の動線に、駅とホール周辺を結ぶ新たな東西の回遊動線、人のための都市インフラが誕生した。(泉)