大阪府松原市田井城3-1-46
図書館
大阪府松原市の既存図書館の建て替えによる新館の計画である。敷地は市の文化施設が集まる田井城今池公園内のため池の一画で、設計から建設までを2年程度で行うことが想定されていた。事業スキームは、設計・施工一体型のプロポーザル方式であったことから、その特徴を最大限に活かした建築が重要な鍵になると考えた。
松原市を訪れて印象的だったのは、ため池や古墳がまちの中に点在する風景である。住宅地の中にスケールを逸脱した人工物が、永い時間を経ることであたかも自然物のように存在しているのである。それは建築を越えた、ある種の土木的なスケールを想起させるものであり、このようなあり方が新しい図書館がため池の中という特殊な敷地条件の中でつくられることのリアリティであるように感じられた。
そこで、私達はため池の中に力強く存在する土木構築物のような外郭を備えた建築をつくることによって、永い時間に寄り添いながら自然と調和していくことを考えるに至った。
ため池を埋め立てずに直接建築をつくることによって、これまで親しまれてきた池の環境を継承すると共に、水辺の遊歩道や休憩場所、建物のテラスや窓越しの閲覧席など、新たな親水空間を生み出した。また、建物の周囲に水を循環させることによって、淀んでいた池の水質を改善している。
量感のある厚い外壁は、力強い佇まいを感じさせる一方で壁面の傾斜や不定形な輪郭によって、人工物としての完結性を弱め、周辺環境に馴染ませている。また、暖色の建物が多い街並みと調和するように赤みを帯びたカラーコンクリートを採用した。外壁仕上げは、荒ベニヤの型枠によって質感をつくり、新築・経年という二項対立的ではない、時間的変化を受止める存在とすることを意図した。
量感のある外壁から感じられる雄大な時間と、水面のゆらぎやまちの風景が映し出す日常の時間が同居することで、時間を越えてまちの人々に永く親しまれる場所となることを願っている。
埋め立てられる運命にあった溜め池をあえて残し、その中に図書館を建設するという英断が際立つ計画である。水の中の建築に伴うリスクを回避するために、分厚いRC壁で漏水に備え、彫塑的な造形によって、もともとそこに建っていたかと思わせるような自然な佇まいを見せている。巧みな配置計画は水の循環も促し、水質改善にも役立っているという。この建築的スケールを逸脱したかのような設計を土木的だと設計者は説明するが、それ以上に評価すべきは、この建築ができたことによって、溜め池の潜在的な魅力が新しいコンテクストの中で再発見されたことにある。もともと農業用水のために作られた溜め池は、確かにその役割を終えつつある。しかしこうした土木遺産とも呼ぶべき構築物が、図書館というプログラムとの邂逅によって魅力的な水辺として読み替えられ、いくつもの視点場を介して地域の人たちに親しまれる場として蘇った。これこそ土木デザインなのだと思う。(千葉)
※掲載写真撮影者は、左から1・5枚目は新建築社、2-4・6枚目は中村絵