選考結果について

奨励賞

線路敷ボードウォーク広場Old Rail Boardwalk

大分市六坊町〜顕徳町3丁目
鉄道残存敷整備事業(市民広場、防災広場、歴史回廊)

本事業は大分駅周辺の日豊本線他の高架化により余剰地となった旧鉄道敷の再整備である。旧鉄道敷東端部で発見された戦国武将大友氏の館跡と大分駅とを繋ぐ回廊・市民広場として整備された。
長きにわたり大分市民の暮らしを支えた鉄路へのオマージュを表現しつつ、緩やかなカーブを描く旧鉄道敷特有の線型に沿って歩を進めていくうちにいつの間にか大友氏館跡庭園に辿り着く空間、現在と大友時代とを結ぶ時空連絡装置のような空間を創造することをデザインの柱とした。
鉄路の記憶を伝え来訪者を庭園に誘う仕掛けとして、総延長600mのボードウォークを据え、JR九州から提供いただいた廃レールを埋め込んだ。レールの周囲には地場産スギ材の厚板を敷きつめた。ボードウォークは途中から分岐し、片方は大友庭園へと下る。上り勾配のもう片方は庭園手前で高さ3mの展望デッキとなる。
旧国鉄時代の照明シェード、大友庭園までの距離と勾配を示す旧国鉄型に倣ったデザインの標柱など、さりげない鉄路の演出も行なっている。
ボードウォーク北側には大友庭園経由で大分川河川敷の緑と繋がる里山を造成した。このリニアなマウンドは、ボードウォークに囲繞感を生む仕掛けでもある。数十年後には巨木が生い茂ることを期待して里山の多様な若木を植えている。
高架構造の影になるボードウォーク南側には雨水一時貯留トレンチを設け、表面に線路用バラストを敷いた。里山部の土中浸透等と合わせて時間20ミリまでの降雨は敷地内で処理できる。
市道交差部付近には、芝生広場とバスケコートを配置した。これらの広場は予想される洪水の水位よりも標高を高くし防災広場としての機能を持たせている。
供用開始後まもなく新型コロナが発生したが、三密を避けられる貴重な屋外空間として多くの市民に認知されており、隣接する保育所の子供たちも毎日遊びに来てくれている。今後適切な維持管理を継続し、空間の熟成に努めていきたい。

《主な関係者》
◯利根 由晃(大分市都市計画部まちなみ整備課(当時) 大分市土木建築部道路維持課(現在))/事業の総括監督・管理業務
◯松尾 裕治(大分市都市計画部まちなみ整備課)/事業の監督・管理業務
◯樋口 明彦(九州大学大学院准教授)/全体のデザイン方針の立案・デザイン指導
◯荒巻 祥大(九州大学テクニカルスタッフ(当時)株式会社エスティ環境設計研究所(現在))/デザイン検討、スタディ模型・図面の作成担当
◯田浦 扶充子(九州大学学術研究員(当時)九州大学学術研究員及び株式会社Takebayashi Landscape Architects (現在))/雨水浸透処理に関する指導
◯高橋 弘臣(西日本コンサルタント 株式会社)/事業の設計、構造計算、図面作成等
◯阿部 顕(東陽緑化 株式会社)/東側工区担当施工責任者
◯飯倉 秀文(株式会社 栗木精華園)/西側工区担当施工責任者
《主な関係組織》
◯大分市都市計画部まちなみ整備課/事業の統括、検討会の運営、設計・施工の管理
◯九州大学景観研究室/全体のデザイン方針の立案・デザイン指導、スタディ模型・図面の作成
◯西日本コンサルタント 株式会社/事業の設計、構造計算、図面作成等
◯栗木・九州グリーン環境創造JV/西側工区施工
◯東陽緑化・新名緑化JV/東側工区施工
◯株式会社ジョーナン/展望デッキ、西側ゲート鋼構造施工
◯大分プラント工業株式会社/展望デッキ、西側ゲート鋼構造製作
◯東九州電設株式会社/オリジナル照明製作他
◯九州木材工業株式会社/地場産スギ厚板材製作・防腐処理
◯株式会社サイト/オリジナルフェンス製作
《設計期間》
2018年6月~2018年10月
《施工期間》
2018年12月~2019年10月
《事業費》
約3億3千万円
《事業概要》
延長
 約440m(敷地はほぼ中央部を市道顕徳・古国府線が交差)
幅員
 15〜27m
敷地面積
 約1万m2
立地環境
 日豊本線他旧線路敷
主要施設(主要事業)
 ボードウォーク、展望デッキ、里山緑地、芝生広場(防災広場)、バスケコート、雨水貯留トレンチ
《事業者》
大分市(都市計画部まちなみ整備課)
《設計者》
西日本コンサルタント株式会社
〈設計協力者〉
九州大学 景観研究室
《施工者》
株式会社栗木精華園
東陽緑化株式会社
株式会社九州グリーンサービス
有限会社新名緑化
施工者(鋼構造)
 株式会社ジョーナン
施工者(鋼構造製作)
 大分プラント工業株式会社
施工者(電気)
 東九州電設株式会社
施工者(スギ厚板材製作・防腐処理)
 九州木材工業株式会社
施工者(鋼製手すり製作)
 株式会社サイト

講評

入り口のゲートをくぐると、芝生のマウンドと浸透トレンチの割栗石敷に挟まれた木デッキが、敷地の形に沿ってゆるくカーブしながら奥へと続いている。サインや手すり、照明灯などは鉄道をモチーフにした記号的な意匠が施されて鉄道テーマパーク的だが、広場の造形のなかで程よくバランスが保たれ、また細部まで丁寧に作られているために嫌味な感じがない。時折上から降ってくる電車の通過音もこのボードウォークの風景のひとつに思える。バスケットボールコートは地域の子どもたちに愛されているようで、とても賑わっていた。この広場のデザインの問題ではないが、惜しむらくは、このどこかから来てどこかへ続いて行く感じのオープンスペースが、街の中でやや孤立して見えることである。駅前広場や公園などがある大分駅前とここが歩道で接続し、また隣接する史跡とさらに一体化して「通り道」になればより一層魅力が増すだろう。今後の進化に期待したい。(石川)