長野県飯田市川路~長野県飯田市千代
自動車専用道路橋・桁下歩道
天龍峡大橋は、一級河川天竜川を渡河する橋長280m、アーチ支間210mの鋼上路式アーチ橋(バスケットハンドル型固定アーチ)である。
架橋地は文化財保護法により国の名勝に指定される「名勝天龍峡」という極めて特殊な条件であった。このことを踏まえ、架橋理念に「名勝の本質的価値に対する負の影響を最小限とするとともに、名勝の保護に資する方策により負の影響を最大限補う」を掲げ事業を遂行した。
歴史ある良好な景観との調和のため、構造的には峡谷のV字地形に収まり、背後のスカイラインを阻害しない「鋼上路式アーチ橋」を選定。さらに、峡谷を一機に跨ぐ扁平なアーチ構造として、下部工の基数を最小限として自然改変を最大限抑制した。
橋面はR=470~1700mの平面曲線を有し、2本のアーチリブが均等に荷重を支持することが基本のアーチ橋には不向きの条件であった。この線形への対応として、曲線の道路線形に沿って配置した補剛桁に対し、曲線の橋面と平面曲率を合わせたバスケットハンドル型アーチリブを組み合わせることで、シンプルかつ3次元的に美しい独特の造形を創出した。
桁下の歩道構造は、名勝の活用・地域の活性化に資するため橋梁検査路兼用で計画したもので、鋼上路式アーチ橋では日本で唯一となる。名勝天龍峡南半部を周遊できる新たな遊歩道の一部となり、天竜川からの高さは約80mで名勝の風景を楽しめる空間を創出した。補剛桁横桁とアーチクラウンの間に納まる構造とし、橋本体構造や景観に悪影響を及ぼさないこと、利用者に対するバリアフリー、展望部の確保などに配慮した。
橋の色彩については、「四季を通じて周辺の景観に調和する」色彩を目指し現地調査・現地確認を重ね、日本古来の伝統色「山鳩色」を選定したほか、周囲への夜間の光漏れを最小化するための壁高欄埋込み照明の採用など、名勝への存在感・圧迫感の軽減のため細やかな配慮を行った。
自然景観が観光資源である観光地の渓谷にかかる幹線道路橋として計画された本橋は、秀逸な土木デザインとして完成することが必然だった。渓谷の風景を壊さないだけでなく、風景をさらに磨きランドマークとして誇れるものとなることはもとより、その橋梁からも渓谷ビューが楽しめることをめざしたこの橋梁は、みごとにそれを実現している。
風景の中で橋脚を見せないだけでなくその基礎部分の自然維持への配慮、その実現のために工夫された複雑な部材形状による橋梁デザイン、また地域住民との協議をかさねて決定した塗装色「山鳩色」など、遠景の川と橋を含む風景も、間近で見る橋そのものも、すべてがフォトジェニックであり、土木ファンでなくても橋梁を写真におさめたくなる。特に遊歩施設「そらさんぽ」には多くの観光客が来街しており、そこからの絶景ビューを撮影しながら橋梁下に歓声がこだましていた。私はこの橋梁がデザインのチカラによってこれからの長い年月、地方観光地における「行くべき場所」として地域経済を潤し、住民の誇りとなっていくことを確信した。関わられたすべての関係者の知性と知見、実現へ向けた粘り強い努力に深く敬意を払いたい。(長町)
観光遊歩道として整備されている吊橋から下流600mに天龍峡大橋が見える。渓谷上空を跨ぐ構造物と地形のスケール感の馴染み具合、塗装色「山鳩色」の周辺環境への馴染み具合が絶妙で絵になる風景が楽しめる。川下りの船からは、川面にほど近い小ぶりの鉄道橋越しに雄大な本橋を見上げる視点場が新たな観光ポイントとして認知されている。桁下に設置された遊歩道「そらさんぽ」は存在自体が観光資源となっていて、両側に設置された展望スペースからは、橋梁構造物の迫力ある存在感を存分に味わえる。カーブする道路をアーチで支えるため、構造物の骨組みはそれなりにいびつになるが、バスケットハンドル型としたアーチリブの投影面にその道路曲線を重ねて形状を整理する等、上手に処理されている。シュバントバッハ橋等、過去の優れた事例の知見を活用したと推測するが、難しい調整を、そうと感じさせない結果に結びつけている点が素晴らしい。
周辺地形とのバランスに優れ、観光への寄与も大きいことが評価のポイントで優秀賞と判断した。
一方、桁下の遊歩道を支える構造が頑丈すぎる印象であったのは残念であった。今後の橋梁デザインの進化を願い、一言付け加えておきたい。(松井)