石川県金沢市東山1丁目地内ほか
魅力的な夜間景観の創出
2014年に策定した「金沢らしい夜間景観整備計画」に基づき計画されたこの景観照明では、昔ながらの花街の風情を残す川筋景観にふさわしい夜景を創出すると同時に、上下流に架かるそれぞれの橋からの新しい夜間眺望風景を作ることを目指した。
浅野川四橋は上流から、天神橋、梅ノ橋、浅野川大橋、中の橋の順に繋がる。
照明デザインコンセプトは、「市民生活をより豊かにするための照明の充実」と「趣のある静かな佇まいを未来へと引き継ぐあかりの創造」とした。
鉄骨アーチ造の天神橋(国の登録有形文化財)は、アーチを支える垂直柱を上部からの光で白い滝のように見せて橋の構造を美しく際立たせ、泉鏡花の小説で有名な滝の白糸のオマージュとした。この照明は歩道と車道の両方を明るくしただけでなく、車道面にダイヤ型の光模様を出現させて無機質な橋に華やかさを添えた。加えて、レトロな親柱の照明器具を復刻し、橋下側の構造体を投光して川面に写り込ませた。
橋梁上部が木製である中の橋と梅ノ橋は、欄干の足元や手すりの下に取り付ける調光付きのLEDライン照明を設計し、器具の存在を全く見せずに光で風情のある形を際立たせて周辺住民から喜ばれている。加えて、橋のたもとから狭角投光器で桁隠しを照らして橋の形を浮かび上がらせるとともに、橋の歩道舗装面を幻想的に照らし出すことが出来た。
3連のアーチが特徴の浅野川大橋(国の登録有形文化財)は、浅野川のシンボルとして重厚な美しさを際立たせることが求められた。投光器の設置場所が限られ、設置場所から橋までの投光距離もバラバラだったことから、使用する器具の明るさと配光を場所ごとに一つ一つ使い分けて3連アーチを離れた場所からもはっきりわかるように照らした。
最後に、浅野川両岸の既設道路照明の眩しさを抑えることで、橋の姿をくっきりと浮かび上がらせてシンボル性を強調し、住民が共感できる空間とした。
とても上質なライトアップである。意図が明快な光の使いかたと、全体として抑制のきいた光量。この優れたデザインの成果は、歴史的橋梁の存在を際立たせるという事業本来の目的の範疇のみにおさまらない。川沿いを、四橋を通してぐるりと歩いてみると、かつて近世城下町金沢の茶屋街だった沿川街区の歴史的文脈や町並みの性格ともあいまって、逆説的だが、橋のライトアップがむしろ、町の暗闇に気品と色気を与えているように思えてくる。橋という構造物単体のその先、河川空間や都市空間の質に射程を定めた仕事であることに、疑いはない。審査の場では、対象物が橋であるとはいえ、ライトアップのみをもって土木デザインと言えるかどうか、議論になった。しかし、構造物を照らすことで、むしろ都市空間の魅力を照らし出すという意図は土木スケールであるし、それを実現した優れた手腕には深甚の敬意と今後への期待を表すべきだろう。さまざまな土木空間と連携連動した光のデザインへの展開を楽しみにしたい。(中井)