岡山県勝田郡奈義町豊沢314番地
交通広場・観光案内所・バス待合・庭
ナギテラスは、岡山北部に位置する人口約6,000人の奈義町において、人口を維持し、元気な経済がある『憧れのまち』を目指す「タウンプライド」のコンセプトを展開した空間整備の一つであり、豊かな自然の風景に開いた町民のための空間デザインである。観光案内所、バス待合所、交流スペース、展示スペースなどを持ち合わせた複合建築と交通広場、バス停留所、みんなの庭が一体となった施設である。
3つの小さな棟が集合した建築は、多方向に延びる屋根が特徴的な外観を持ち、局地風である広戸風の強風をいなすとともに、まちの全ての方向に対して表情を作っている。多様なデッキ(テラス)を配置することで、室内空間とともにまちを眺めることができる様々な居場所を創出している。隣接する市場池(ため池)と接続した敷地中央の土手(プロムナード)が建築を貫き、まちや周辺街路と連続的な動線を実現するとともに、交通広場とみんなの庭を緩やかに分節することで、周辺や建築との柔らかな連続性を築きつつ、まとまりの良い居場所を提供している。
植栽計画では住民を交えたWSなどを通じて、地域の植栽に対する丁寧な調査を行い、コセ(防風林)を構成するヤブツバキやケヤキ、土手や畔から直接移植したカキドオシ、ヤマネコノメソウなどの地被植物によって多様に構成されている。みんなの庭は、奈義の豊かな自然や風景を体感し、安らぎとくつろぎのスペースにもなっている。
施工時には、室内においては壁塗り、屋外においては芝張り・低木の植え付けをみんなで行うWSを開催し、施工後には市場池の柵の塗り替え等を実施し、景観まちづくりの拠点として機能し始めている。施設の愛称は、小学6年生を対象として、自分の気に入った場所やこの場所でどんな気持ちになるかなどを話し合うWSを行い、まちと建築をつなぐ「テラス」奈義町の未来を明るく「照らす」場所としてナギテラスと名付けられた。
かつての朽ち果てた建築を想像するのが困難なくらい、美しく快適な居場所が街に誕生した。ため池からバス停へと滑らかに繋がるランドスケープは、丁寧な地形や植栽の扱いによって、池も一体的に整備したのかと思わせるほどである。バスの待合も兼ねた建築は程よいスケールに分節され、その住宅的な佇まいは、親しみ易さも醸し出している。内部に入れば、透明感の高い空間に周囲の街並みや自然が飛び込み、地域の魅力を愛でるための場にもなっている。欲を言えば、地域の交通の結節点として、建築と交通とがもう少し絡み合う可能性はなかったのかとも思う。自動運転もリアリティを帯びてきている今、高齢者の多い地方都市における移動の問題は、今後の大きなテーマだろう。交通が建築をどう変え、またターミナルが担うべき地域の役割は何かなど、未来への提言があっても良かったように思う。それだけポテンシャルのある土地でありプログラムなのだから。(千葉)
※掲載写真撮影者は全てOokura Hideki