直方市新町1丁目〜直方市溝堀1丁目
老朽橋(昭和 9 年竣工)の架け替えと交差点改良による交通混雑の緩和や、歩行者・自転車の安全性確保
本事業は、一級河川遠賀川に架かる旧橋の老朽化に伴う架け替えと、交差点改良による交通混雑の緩和等を目的としている。周辺では先行して河川空間の公園的な整備(直方リバーサイドパーク。2009年デザイン賞受賞) が行われており、また上流側には故福留修文氏監修の多自然川づくりが存在していた。そこで福岡県では豊かな河川風景とよく馴染む橋を目指すことにし、2007年11月に橋梁構造・景観等の専門家からなる景観検討会を組織した。
同検討会では、福岡県により既に設計が進められていた橋長214m、幅員17m、3径間連続箱桁・両 端部単純中空床版橋を出発点とし、同一の設計条件、事業費、工期等のもとで議論を開始した。
主役である河川景観の中にあって、遠景として目立たず軽い印象の橋、近景として威圧感のない橋を目標に据え、橋梁本体(主桁、橋脚、橋台)を主対象に最適解を模索した。スタディでは敢えてCGを使わず、模型を用いて高水敷上からの眺めを吟味し、位置を変えてまた吟味するという手法を繰り返した。
主桁を扁平アーチの連続桁としリズム感のある軽快な姿にすること、モーメントバランスと審美的なバランスから最適なスパン割りとすること、二主箱桁構造を採用し桁側壁にテーパーを持たせることで主桁の幅を絞り、桁下空間の圧迫感を低減すること、合わせて橋脚のボリュームを最小化し対岸への視線の抜けを確保すること等、現場打ちのコンクリート構造物として可能な様々な工夫を行った。
本橋の構造形式やデザインは決して特殊なものではないが、どうすれば主役の川の風景の中に普通の桁橋をさりげなく置くことができるかという問いに対して、定石の範囲で可能な最適解を実現 することができた。
竣工後、直方北九州自転車道が開通し、川辺を利用する市民の数はさらに増加傾向にある。この「普通の橋」が、遠賀川の美しい風景の脇役としていつの間にか馴染んでくれることを願っている。
もし身近な土木構造物が、みな勘六橋とおなじように、誠実でていねいに設計され、つくられていれば、それだけで身のまわりの景観はずいぶんよくなるだろう。そんな好感を抱かずにはいられない仕事である。下流側の沈下橋から眺める、水辺の空間と過不足なく調和している勘六橋の姿形が、設計者が目指した価値を余すところなく語っていて、とても心地よい。合理的で無駄のないプロポーションと、全体をスマートに見せるさりげない造形上の配慮の数々は、そのまま橋梁デザインのお手本になると思う。また、とくに共感したのは、下流側のみ歩道の中間地点に設けられた小さなバルコニーで、おおらかで魅力的な「直方の水辺」(2009年度最優秀賞受賞)を眺めるちょっとした展望場になっている。さりげないデザインの主張だが、橋の上から直方の水辺へと意識をつなぐ、この場所ならではの効果的な装置となっている。一方で、親柱や高欄、照明などのファニチュアのデザインの精度、路面や橋詰部の空間造形に、少々残念な印象が残った。構造物本体がとてもシンプルで合理的な思想でできているだけに、人の身体が触れる部分のディテールの荒さが、むしろ目立ってしまうのかもしれない。総合的な完成度を評価して、優秀賞の授賞となった。(中井)
まず、この河川を跨ぐ橋梁のデザインについて、基本設計案が地元市民の要求で見直されたところに注目したい。過去に遠賀川の河川敷整備がデザイン賞を受賞しており、地元のインフラ整備に対する目が肥えている。地元のより良い河川空間景観を! の声に行政が応えた結果、限られた予算のなかで最善案最適案が導き出された。
本橋の計画・設計では、通常は経済的で施工性にも優れる工場製作でプレキャスト部材の鋼桁やPC桁が採用される。実際、連続する東勘六橋や上下流に架かる新橋と日ノ出大橋はPCポステンT桁橋である。これを工費増は抑えつつ、河川敷を利用する人に配慮し、遠景にはリズミカルな変断面の薄いシルエットで、中景では大きな張出し床版による陰影で桁高を薄く見せ、壁式橋脚で張出し梁を設けずにスッキリと、近景では、排水管を見せない工夫、大きな張出し床板と橋脚のスリットで圧迫案を軽減し、広々とした遠賀川の景観に溶け込ませた。
更に地元要望で下流側に一箇所バルコニーが設けられている。ここからの遠賀川の開けた眺めがとても気持ちイイ。いたずらにバルコニーを設けるのではなく、利用者である人に対するデザインとしても評価したい好例である。(丹羽)
※掲載写真撮影者は左から5枚目が梶谷憲靖