選考結果について

最優秀賞

東部丘陵線-Linimo-Linimo

名古屋市名東区藤が丘~豊田市八草
鉄道(中量輸送)

東部丘陵線は、総延長9.1kmで9駅/高架橋7.7km/地下部1.4kmから構成されている。各駅とも条件が異なり、軌道部もコンクリートや様々な鋼構造のタイプが混在する中、景観的な連続性と統合性を与える必要があった。コンセプト「人と文化を結ぶ丘の風<陵風ライナー>」に基づき、①多様に変化する沿線の土地利用に配慮したデザイン、②文化拠点に相応しいデザイン、③実現可能なデザイン(経済性、構造性、景観性を等しく配慮する)、④地域の拠点にふさわしいデザイン・親しまれるデザイン、⑤沿道や歩行者の圧迫感を軽減し(特に高根線)、日照・通風にも配慮したデザイン、を基本に、すべての構造物の基本設計を同一の設計チームにて実施し、各工区の詳細設計においてもこの体制を継続して統一的なデザインを実現した。
高架橋は、PC橋と鋼橋に統一性を持たせるため、桁側面を1:0.3に傾けたソリッドな断面で共通するとともに、食い違いのない桁配置とした。橋脚に関しても、鋼製とコンクリート製のラーメン橋脚及び張り出し式橋脚が混在するが、その梁・柱にも1:0.3のテーバーを取り入れたソリッドな形状で統一感を持たせた。歩車道境界に橋脚柱を設けざるを得ない高根線区間では、鋼製の合成箱桁とラーメン橋脚とを一体化するとともに、桁と柱にテーパーを設けることで圧迫感を軽減した。さらに軌道部の防護柵は、一般的なPC版となるところを、軽快で透過性のある特注の鋼製オリジナルデザインとし、実証実験を重ねて耐久性を検証、これを標準設計の価格内で実現した。
駅舎は、地下部のRCボックス構造、RCラーメン橋および鋼ラーメン橋と、異なる形式および材料を選定せざるを得なかったが、コンセプトに基づき個別に丁寧にデザインを検討することで、共通性と統一感を持った構造および外観に仕上げることができた。開業後15年が経過したが未だに開業当時の外観が保持されている。

《主な関係者》
◯山内 勝弘(社団法人日本交通計画協会(当時) 公益社団法人日本交通計画協会(現在)) /関係機関調整、東部丘陵線インフラ部景観研究会運営
◯大澤 雅章(有限会社まち交舎(当時) 公益社団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(現在)) / 関係機関調整、東部丘陵線インフラ部景観研究会運営
◯小野寺 康(小野寺康都市設計事務所) / インフラ全体の景観設計
◯武田 光史(株式会社武田光史建築デザイン事務所) /駅舎全体の景観設計、はなみずき通駅詳細設計
◯椛木 洋子(アジア航測株式会社(当時) 株式会社エイト日本技術開発(現在)) / 設計要領作成・インフラ全体の基本設計、はなみずき通駅周辺工区詳細設計
◯長谷川 政裕(アジア航測株式会社(当時) 株式会社エイト日本技術開発(現在)) / 設計要領作成・インフラ全体の基本設計、はなみずき通駅周辺工区詳細設計・インフラ全体とりまとめ
◯市川 育夫(愛知県建設部道路建設課(当時) 中日本建設コンサルタント株式会社(現在)) /関係機関調整、インフラの設計および工事の監督
◯中島 一(愛知県建設部道路建設課(当時) 名古屋高速道路公社(現在))/関係機関調整、インフラの設計および工事の監督業務
《主な関係組織》
◯愛知県建設局/事業推進、関係機関調整
◯公益社団法人日本交通計画協会/関係機関調整、東部丘陵線インフラ部景観研究会運営
◯東部丘陵線インフラ部景観研究会/インフラ部の景観に関する助言
《設計期間》
1999年7月~2001年10月
《施工期間》
2002年4月~2004年9月
《事業費》
インフラ部650億円
《事業概要》
延長:9.1km(営業キロ:8.9km)
主要施設:
 駅舎(9駅)
 RCボックス(地下部) 2駅
 RCラーメン高架橋 4駅
 鋼ラーメン箱桁 3駅
高架橋(7.7km)
 多径間連続PC中空床版 18連
 単純鋼箱桁 1連
 多径間連続鋼箱桁 20連
 多径間連続鋼ラーメン箱桁 2連
地下部(1.4km)
 U型擁壁 69m
 開削ボックス 254m
 シールド部 1,011m
《事業者》
愛知県
《設計者》
アジア航測株式会社
トーニチコンサルタント株式会社
中日本建設コンサルタント株式会社
パシフィックコンサルタンツ株式会社
株式会社オリエンタルコンサルタンツ
玉野総合コンサルタント株式会社
〈設計協力者〉
小野寺康都市設計事務所
武田光史建築事務所
《施工者》
株式会社ピーエス三菱
株式会社富士ピーエス
川田建設株式会社
住友建設株式会社(現三井住友建設)
ドーピー建設工業株式会社
瀧上工業株式会社
日本車輌製造株式会社
株式会社横河ブリッジ
JFEエンジニアリング株式会社
石川島播磨重工業株式会社(現IHI)
株式会社淺沼組、株式会社安部工業所
株式会社イチテック
株式会社白石
株式会社錢高組
株式会社日本ピーエス
株式会社服部組
株式会社ヒメノ
株式会社宮地鐵工所
大林・大豊・徳倉JV
オリエンタル建設株式会社
鹿島建設株式会社
昭和コンクリート工業株式会社
昭和土木株式会社
清水建設株式会社
鈴中工業株式会社
大啓建設株式会社
大興建設株式会社
大有建設株式会社
高田機工株式会社
竹中土木株式会社
中日建設株式会社
中部土木株式会社
鉄建建設株式会社
東海鋼材工業
東急建設株式会社
徳倉建設株式会社
トピー工業株式会社
日本鋼弦コンクリート株式会社
ピーシー橋梁株式会社
松尾橋梁株式会社
松浦・王春・鈴木JV
三菱重工業株式会社
水野・山本・大矢JV
村本・東京・鈴木JV
名工建設株式会社
矢作建設株式会社
〈施工協力者〉
ヨシモトポール株式会社

講評

鉄道路線の高架橋の姿がデザインの問題として浮上するのは、高架橋に課された機能・意味と、それが立地する土地との必然的な関係がないという点においてである。高架橋の構造物は鉄道の滑らかさと地上の多様さの間にはめ込まれた補間部品である。高架橋は立地する地域の側からその構造物の必然的な形態を決めることができない。もちろんこの難しさは鉄道の高架橋に限ったことではなく、土木構造物が本質的に抱えている問題である。そのような、その土地と縁を切っている施設の「デザイン」には、いくつかのアプローチが考えられる。ひとつは、構造物の機能や意味と関係なく形状や色彩や記号を意匠としてまとわせる方法である。もうひとつの方法は、構造物それ自体に内在する美を志向することである。本プロジェクトは後者の方針で徹底してデザインされている。ひとつひとつの柱や階段の素材と構造体に対する造形と仕上げ、隣接する道路や街区との関係で生じた区間ごとの構造物群の意匠、そして路線全体を統一する造形、それぞれのスケールで統合的なデザインと調整が行われていることがわかる。そのため、高架橋の下を歩くとき、Linimoの車両に乗って移動するとき、路線に沿った道路を自動車で移動するときなど、様々なスケールや速度からも理にかなって見える。土木らしいデザインであるし、土木にしかできないデザインである。(石川)

これが建設後15年も経っていると聞いて、驚くシャープな美しさに一目見て心を動かされ、ワクワクしながら7.7kmの高架橋区間の全線を歩いて審査した。
Linimoは、高架橋が持つ連続性×統一されたデザイン×目障りな検査路と排水管が無いと(排水管は橋脚躯体内に設置)、これほどまでスッキリと美しくなるのか! を実感させてくれた。200基ほどある橋脚のうち、15年の経年変化で、不完全な沓座排水や排水管の漏水により黒ずみ汚れた橋脚は僅かでしかない。ロングライフデザインの成功事例である。
「1:0.3の法則」ともいうべき1:0.3で連続する桁側面から橋脚梁の先端、橋脚(RC・鋼製)の柱と梁のソリッドな断面、鋼箱桁とPC中空桁との掛け違い部で食い違いのない連続した桁断面形状で、全線がキチンと統一されたデザイン。図書館通り上の区間は上部工鋼箱桁と鋼製ラーメン橋脚とを剛結することで、梁+桁の高さを桁の高さのみに抑え圧迫感を低減。軌道部防護柵も通常プレキャストコンクリート版であるものを鋼製オリジナルデザインで透明感が増している。
街では視点場が多く、背景もビル建物で煩雑で、このような環境ではサークルハンチなどの線が曖昧な柔らかい形状よりも、本高架橋のようにエッジが効いた陰影のあるシャープでソリッドな形状がしっくりと馴染む。これらの設計・施工・試運転を5年半で実施したことも評価したい。
しかし愛知万博後に統一されたデザイン×目障りな検査路と排水管が無い高架橋がなぜ作られなかったのか?是非、皆さんにも実際にLinimoを見て欲しい。(丹羽)

※出典は左から1枚目が東部丘陵線建設誌