東京都千代田区丸の内1丁目・2丁目
駅前広場:都市の広場・交通広場
行幸通り:東京都道404号
東京駅丸の内駅前広場及び行幸通り整備は、皇居〜行幸通り〜丸の内駅舎を結ぶ景観軸を形成し、交通結節点として必要な自動車交通機能は、駅前広場の南北両側に現行の道路線形を改良して再整備するとともに、丸の内駅舎前面は、駅舎との一体性に配慮した大規模な歩行者空間となる「都市の広場」として多様な機能を有する空間を整備したものである。2017年に行幸通りの整備を終え、2017年12月に駅前広場が使用開始された。
首都東京の「顔」にふさわしいシンボル性と東京駅周辺地区を一体的に捉えた質の高いデザインの実現に向けて、各方面の専門家および行政・民間等の各事業者で構成された「東京駅丸の内口周辺トータル検討会議」ならびに「東京駅丸の内口周辺トータルデザインフォローアップ会議」において、事業計画段階から様々な角度でパブリックデザインの在り方が議論され、行政や民間等の各事業者で基本的デザインを統一させる方針が共有され整備が進められた。
デザインは、「風格ある首都東京の『顔』を創出する」をコンセプトとして、①格調高い空間を創出する②東京駅丸の内駅舎を際立たせる③歴史性を尊重する④利用者視点から空間をデザインする。という4つ方針に取り組んだものである。
具体的には、行幸通りから駅前広場中央部に広がりのある歩行者専用空間を整備し、年月と共に風合いが増す御影石舗装及び高木の並木の配置により、一体的な景観軸を形成した。駅前広場は、2012年に復原が完了した赤レンガが象徴的な丸の内駅舎前面の都市の広場に芝生を配置して、一体性に配慮しつつ、色の対比により赤レンガを際立たせるデザインとした。夏場の暑さ対策として、行幸通りには路上散水システム、都市の広場には打ち水設備を設置するとともに、ベンチ、照明等のファニチャーについても機能性・景観性を両立させる配慮を施し、憩いのスペースの創造と歴史・文化発信の場の提供に貢献した。
東京駅で電車を下りて丸の内側から駅の外へ出てみれば、このプロジェクトが成した仕事は一目瞭然である。東京駅丸の内駅舎と皇居を直線で結んだ広場と行幸通りはこの街の線を大きく引き直した。「都市の軸」という言い古された決り文句が字義通りに現出している。それが、屹立する塔や派手に目を惹く構造物ではなく「ものが建っていない場所」の配置によって実現している。丸の内駅舎が見せているシンボリックな意匠の力がこの軸によってより強く引き出され、この広場が新しく計画されたものではなく本来の形に戻ったものであるようにすら見える。長い間、この駅前を車道が占めていたことを思い出すのが難しいほどだ。排気塔や照明や車寄せの屋根、ベンチや舗装や柵などの意匠も嫌味なく統一され、注意深い検討が繰り返されたことを示している。近年著名な建築家が起用されて作家性の強い意匠で作られるいわば「デザイナー駅舎」や、最近の渋谷や新宿のように都市の一部に埋没する「都市化駅」、また地下化や高架化によって地上から消滅する「インフラ駅」といったものとは異なる「駅が象徴できるもの」をこのプロジェクトは示していると思う。むろん、皇居・丸の内というもともとこの地が持っている高い象徴性があってこその構想ではあるが、その実現のために取り組まれた夥しい関係者の方々による制度、仕組み、技術の結集は、それこそが「土木デザイン」にほかならない。(石川)
長い時間をかけて更新し続ける巨大都市の中心のひとつ、東京駅と皇居を結ぶ都市軸という特別な場所において、過去・現在・未来の重責を担うように再編集された駅前広場と街路。超高層建築に囲まれた谷底のような空間であるにもかかわらず、広々とした印象を生み出しており、居心地がいい。一見すると間延びしそうなスペースにも思えるが、上質な素材が醸し出す落ち着いたデザインは、この場所にふさわしい品格があるものの威圧感はない。そして、世界中から訪れるさまざまな属性の人々を受け止めながら、同時にこのエリアで働く人々の日常を支えるという、高い公共性が実現している。
この空間で観察できる都市の様相は、たいへん興味深い。それは、江戸城が開かれたことで形成された都市の基本骨格、巨大都市における東京駅の位置付けの再定義、かつての百尺規制による高さ制限が引用された街並み、容積率移転に代表される駅周辺エリアの建築物のありようの変遷などである。このように各時期の意図が重層する都市景観は、東京らしさの象徴とも言えるだろう。これまでの社会の履歴を受け止める包容力のある空間が、この象徴的な場所で実現していることを高く評価した。
しかし、重要な軸線を連続的に歩いて体験できないことが残念である。現在もなお、歩行者よりも自動車が重視されている社会であることを突きつけられる。願わくば、将来的には誰もが不要な迂回をすることなく、日常的に行幸通りを利用できるようになり、都市の価値がより高まることを期待したい。(八馬)
※掲載写真撮影者は左から2・4枚目が東日本旅客鉄道 株式会社