滋賀県草津市大路2丁目他
総合公園
草津川は、江戸中期以降、土砂の堆積作用による河床の上昇と築堤による、いわゆる天井川であった。これは、江戸時代の浮世絵にも、堤防の高さと川から屋根を見下ろす特徴的な風景として描かれている。しかし、旧来から数多くの洪水被害を受けていたことから、中流域から琵琶湖にかけての約7㎞を新設の河川に切り替える工事が行われ、平成14年に通水された。そこから、旧草津川となった公園づくりの物語が始まる。
活用に際し、堤防を取り除いて広幅員道路とするのか、公園とするのか、などの議論が長年行われ、平成22年に委員会が設置。24年度に基本計画が策定され、7㎞を6区間に分け、都市機能を連携・強化する公園緑地として整備することが決定された。
基本計画コンセプトは「人をつなぎ 五感で楽しむ 質の高いみどり空間 ガーデンミュージアム」。中でも、草津駅に最も近い区間5は、中心市街地や歴史街道と一体となったにぎわいの中心となることが求められた。
我々が提案したコンセプトは、「地域のランドマークとなり人々の営みを魅力的に見せる舞台づくり」。歴史的に形作られてきた河川の風景を大きな環境として継承し、そこに、多様な人々が使いこなすことのできる小さな場所を散りばめていくというもの。市民が主体的に関わって育まれていく自然が生み出す活動の舞台となり、それこそが、草津の資産を活かした新たな名所となることを目指した。
また、災害時に機能する安心安全空間とすることも求められ、発災時の避難や物資供給拠点として機能することが条件として与えられた。さらには、中心市街地活性化にも寄与する公園となる検討も必要とされたのである。
コンセプト実現のため、後述する3つのデザインの視点を結びつけながら検討を行うと同時に、設計から施工の各段階において、細やかな意見の聞き取りを行い計画に反映させることで、市民が主体的に関わる賑わいにあふれた公園が実現した。
草津市の中心市街地に“ぽっかり”と残った草津川の廃川跡地。しかも、周辺からは見上げるような天井川である。このような空間をどのように整備するか、嘸かし難しい問題だったに違いない。しかし、この作品では、川だったという履歴を上手に解釈し、天井川の特徴を最大限に活用して賑わいのある空間を創造している。9月上旬の日曜日現地を訪れた。園内に入ると、賑わいに驚く。心地良さそうに散歩するカップル、座って話し込む子供達、ボール遊びに興じる親子、楽器演奏に余念のない学生。賑やかさの中にダイバーシティを感じる。腰を下ろすと実に居心地が良い。何時間でも佇んでいたい気持ちになる。質感の高い護岸や舗装、植栽やまとまりのあるガーデン、様々なストリートファニチャー。個々の要素も多様で素晴らしいのだが、どうも、この地形そのものが大切な役割を果たしているように思う。周辺よりも一段高く、両脇を堤防に囲われた草津川跡地は、都会の喧騒から逃れ、非日常に浸ることのできる癒し空間として機能しているようだ。夜になるとライトアップが幻想的な雰囲気を醸す。天井川の地形を読み取り、ここに上質な要素を配置していった関係者の力量に感服する。(萱場)
この公園は、江戸時代から引き継がれた都市内の天井川の跡地という、極めて特殊な環境に立地している。東西方向に伸びる対象地は、その断面の中央部にいると両側が囲まれた窪地だが、両端部に行くと街を見下ろすことができる高台になるという、とても不思議な空間体験が得られる場所である。
「de愛ひろば」と名付けられた線状の公園には、既視感があるさまざまなデザイン言語が余白を埋めるように詰め込まれている。そこにわかりやすさはあるものの、高い水準で整っているとは言いがたい。しかし、時間帯によって属性が異なる多くの市民が集い、憩い、遊んでいる。そのための仕掛けがデザインされ、埋め込まれていることで、確かな賑わいが生まれているのだ。
これは、多くの市民を含む関係者間で、計画から施工まで粘り強く議論を重ねた成果であろう。市民の主体的な活動や商業施設が重層的に配置された公園には、市民自らが手をかけて、自らが使う空間をつくるという姿勢が強く表れている。市街地を分断していた天井川の廃川というインフラを「環境の器」として捉え、コミュニティデザインのプロセスを経て民主化したことは、現代社会においてたいへん大きな意義があると考えられる。(八馬)