長崎県 長崎市 尾上町3-1
防災緑地
長崎港の再奥部にあった魚市場を移設し、その跡地に長崎県庁舎・県警本部棟とともに緑地を
設置したものである。この緑地は、漁港緑地としては初めての防災緑地であり、防災活動の機能はもちろん、港への眺望を活かすとともに、祭りやイベントといったハレの日にも使われる場として、以下の6点に留意した計画・設計、施工監理(重点管理)を進めた。
1点目は計画・設計の枠組みであり、隣接する県庁舎及び県警、駐車場棟など建築側との一体的な空間づくりを実現するために、各施設の担当者を集めた合同会議の開催を企画し、互いの設計エリアを横断して提案を行った。
2点目は防災緑地の機能について、発災時に必要とされる機能の確保を検討するとともに、発災時と平常時のスムーズな場面転換ができる施設配置とした。
3点目は特長ある立地環境を視覚化するために、長崎新幹線長崎駅の新駅舎と長崎港に挟まれたウォータフロントであるため港への眺望を大事にすること、長崎を象徴する稲佐山と風頭山を結ぶ場所に位置することから、場所の規律を持たせる軸として、港の軸、山の軸を設定してデザインを行った。
4点目は造成・植栽設計について、ゆるやかにのぼる丘をつくり、海への眺望を確保するとともに、高い地下水位が植栽に与える影響を低減させた。県庁舎前の県民の広場として県内21 市町の木を配置するとともに、防災緑地として果実のなる樹種を選定した。
5点目は夜景・照明設計について、「世界新三大夜景」である長崎の夜景に対し、稲佐山からの夜景に貢献すること、近景でも「山の軸」を顕在化させる演出照明や、港への眺望を阻害しないよう広場内には照明柱を設置せず、県庁舎の防災投光機を利用して芝生広場の照度を確保するなどの工夫を行った。
6点目は施設設計において、「山の軸」を視覚化する展望台を設置し、長崎県産の石材や現地で発掘された旧魚市場時代の舗石を活用し、長崎の石文化を象徴する空間を目指した。
複雑に入り込む海岸線の近くまで山が迫る長崎の地形の中で、湾の奥部にこの敷地はある。もともと魚市場ということで、海岸線は対岸とともに直線的な岸壁で、湾というよりは海につながる巨大な堀のような落ち着いた水辺空間が出来上がっている。
この場所だけをみると、新しい県庁舎、警察本部庁舎、駐車場に囲まれた美しい緑地であり、県庁舎との高さや階を変えての繋がり、駐車場の建物を感じさせないようなスロープや緑地のデザインなど秀逸な設計である。対岸の建物は黄色い球体と多面体のファサードの強い個性のデザインなのだが、その建物に対してもこの緑地は十分に対抗するだけのデザインの強さがある。
ただ県庁や警察本部庁舎を含めたこのエリアは広い道路で取り巻かれて、現状は街から孤立している感が現状は強く、多くの人が訪れる理由がまだ見えていない。長崎駅前の整備ができると人の流れはこの道路を超え、県庁舎のピロティを超えてこの緑地までやってくるのか、今以上に市民の人に利用されるような緑地になるのだろうか。一歩このエリアに入ると優れたデザイン空間だけに、駅前開発が進むことによって、街のひとに親しまれるような方向になることを期待したい。(東)
長崎漁港防災緑地「おのうえの丘」は魚市場跡地の不整形な埋立地に、新設された県庁と県警本部の建物と一体に作られている。緑地の大部分は高木が点在する芝生と歩径路で構成されている。県庁も県警本部も、それらの間に建つ駐車場棟も規模の大きな建物だが、芝生や壁や階段の造形によって、建物は地形の続きのように扱われている。水辺側から見上げると、緑地の芝生から市街地越しに背後の山までが連続して見える。県庁のテラス、駐車場棟の屋上、緑地の歩径路など、海を眺める場所がそこかしこに設けられている。建築との意匠や素材の統一、免震ジョイントなどを含む建築とランドスケープの取り合い、手すりや車止めやベンチ、側溝や舗装の仕上げなど、さまざまなスケールで注意深く検討されたことが伝わってくる。植栽の樹種の選定や維持管理の設備も妥当である。公共のオープンスペースのデザインとしてまったく申し分ない。この敷地は長崎市街地の中心部を流れる浦上川の河口に位置し、市街地から続く川沿いの遊歩道の末端でもある。現状では長崎駅との間に幹線道路があって接続が断たれていることが惜しいが、将来の整備に伴って歩行デッキなどでつながれば、長崎駅からの動線を受け止め、より多くの人が訪れる場所になるだろう。(石川)