愛媛県松山市花園町
街路
花園町通りは、松山市最大の交通結節拠点である伊予鉄道松山市駅から、松山城(堀之内公園)を結ぶ、延長約250mの通りである。道路空間の再配分により、6車線あった車道を2車線まで減らし、自転車道を通すとともに、歩道空間を5mから最大10mまで拡幅。広がった歩道に芝生広場やデッキ広場、ベンチや植栽などの滞留空間を設け、「歩いて暮らせるまち松山」の新たなシンボルロードとして、賑わいと交流を育む、広場を備えた街路へと再生した。
花園町通りは、かつては狭い路地のような通りが、戦時中の建物疎開によって現在の幅員に拡幅されたという歴史を持つ。いまも沿道には店舗や住居が入り交じっており、通りの再生にあたってはそうした地域の暮らしを読み込みつつ、新たな賑わいと交流の空間を生み出すことが求められた。そのため花園町通りのデザインは、徹底した市民との対話から生み出されている。計画から施工までの7年間にわたって、幾度となくワークショップや社会実験を繰り返し、沿道との対話は施工が完成する直前まで続けられた。
沿道の要望により残された副道/荷捌きスペースは歩道と段差無く一体的な設えとし、緑に囲まれた芝生広場やデッキ広場もなるべくフラットに設えた。日常的には生活道路として沿道の暮らしを支えつつ、イベント時には街路全体が一つの空間として使え、まちに新たな賑わいを生み出している。時間とともに成熟する自然素材を吟味し、地元ヒノキでベンチをしつらえ、まちの新たなシンボルとして花のような歩道照明を設置した。正岡子規の生誕碑周辺は子規ゆかりの四季折々の植物で彩り、俳句ポストを設置するなど、まちの文化を未来へと継承していく。
完成した花園町通りでは、芝生広場でキャッチボールをする親子や、子育て世代がデッキで語らう姿、花を育てる住民などの懐かしい生活景が戻ってきた。生まれ変わった花園町通りを舞台に、生き生きとした暮らしの風景が生まれている。
産業や人口の成長期の開発ではなく、人口が縮小する中、地方都市の駅前をどのように成熟させながら時代を乗り越えていくか、これからの日本のあり方を考えさせる再整備計画だ。
松山市駅前から松山城へとつながるこの花園町通りの再整備計画は、道路の車線を減らし、車主導の道路から人のためという視点に空間の再配分を行う大胆な計画だ。その減らした空間は自転車専用エリアやイベントなどに使える地域の人たちのための場所にあてられ、成長する都市では見過ごされがちであった地域の住人の満足感を高める方向にデザインされている。その結果、長い目で見た場合のこの通りの再活性化の可能性を作り出している。人口、利用車台数が最大限であった時の車線の数から引き算することは、大きな抵抗感や危惧の声もあったのではないか。このことを実現しただけでも、大きな成果であり、それとともに、魅力ある街路をハードとして作り出したことは新しい駅前開発の試金石となったと評価したい。
だが、長い議論の結果実現した計画であるとは言え、まだ、取り組みが始まったばかりとも思う。実際、既存商業施設の将来的な可能性を感じることができるが、現在は商店街や住人の努力を必要としている。また、ビルが立ち並び、アーケードが残る側には、どのような将来性があるのかが見えにくいとも感じてしまう。今後のソフト側、つまり、地域住民や関係者によるこの通りを生かしていく活動に期待をしたい。(東)
花園町通りは、乱雑にあふれかえる自転車、経年変化で寂れた印象のアーケード、ただ通行するだけの歩道など、日本の多くの商店街が抱える問題を、7年の歳月をかけ交通計画再編を軸に克服した商店街である。
脱車社会が都市デザインの基本的な視点となり、今日多くの都市で歩道拡幅や一方通行化、自転車道整備が取組まれているが、その多くは簡単には進んでいない。ここでは、丁寧な住民協議と専門家の地道な努力によって、従前の生活そのものを肯定しアップデートする試みがおこなわれ、見事にデザインされている。6車線を2車線にし、自転車道、駐輪スペース、緑地、ベンチやデッキ、オリジナル照明などによって、都市公園のごとくデザインされているが、その道のりは簡単ではなかったはずだ。協議が難航したであろう荷解き場は歩道と一体化し、イベント時には大きな広場スペースとして使えるように計画され、実際に若々しい多数のイベントが実施されているようだ。道路再編と同時に実施されたオーニングによるファサード形成は、街並みに新たな生命を吹き込んでおり、現在のみならず未来のこの町での起業や居住の可能性を創出している。土木事業である道路再編によって、道路が居場所や広場になり、広場が人を呼び人のにぎわいが新たな定住をつくる好循環を生み出すイメージが湧いてくる。
土木デザインの本丸ともいえる道路交通再編は、まちの未来を担うといっても過言ではなく、本プロジェクトが同様の課題を抱える多くの関係者に勇気を与え、それぞれの課題解決の糸口となることを期待したい。(長町)
※掲載写真撮影者は左から1・2・3・4・5枚目がNorihito Yamauchi、6枚目がShuhei Miyahata