宮城県牡鹿郡女川町
駅前広場・街路及び街区・地域開発
女川町は、「海を眺めてくらすまち」をコンセプトに、安全な高台に住宅地を整備し、女川駅前レンガみち周辺地区に公共施設や商業・業務・観光施設などを集めてコンパクトな市街地を形成した。
にぎわいを集約する仕掛けとして、モニュメンタルな女川駅と駅前広場を起点に、歩行者専用道路「レンガみち」が、女川を象徴する海(女川湾)へ向かって延びている。レンガみち沿道には、テナント型商店「シーパルピア女川」と「地元市場ハマテラス」、まちの居間となる「女川町まちなか交流館」、水産体験施設「あがいんステーション」、女川町観光協会「たびの情報館ぷらっと」を官民が連携して集約整備し、その周辺に自立再建型の商業業務地が展開している。それらはレンガみちを主軸に回遊性を持つよう、無料の公共駐車場をサテライト型に分散配置しながら、歩行者・自動車の動線をデザイン。面的に「歩く楽しさ」を実現している。
女川駅前広場は、バス・タクシー等の結節点となる交通広場を駅舎側面に配置し、駅舎の正面を“人”中心の広場でかつレンガみちの起点とした。
レンガみちは、その線形を正確に元旦の日の出方向に向けて計画しており、いわば再生への願いを込めた復興のシンボル軸である。二列並木によって横断方向に空間を三つに分節し、中央は駅と海への視線が抜ける主動線、沿道両側は建物との一体利用を促進するための空間としてデザインした。実際、「シーパルピア女川」の中庭やデッキは、この公共空間に積極的に滲み出し、官民一体のまちなみ整備を象徴的に示している。
シーパルピア女川とハマテラスは、町有地を民間に貸与し、地元資本と町役場が出資したまちづくり会社によって建設・運営されているテナント型の商業施設である。中庭や通り抜け通路を様々に組み込み、まちのにぎわいの中心としてだけではなく、周辺にある自立再建型の商業・業務地へにぎわいを伝播するようデザインした。
3.11の津波災害で、もっとも凄惨な光景のひとつは女川だった。RC造の建物が、地面から引き剥がされて横転し、あるいは粉砕されてそこらじゅうに転がっていた。信じがたい光景だった。
女川駅前シンボル空間を評価するとき、あの災害を経験した町民たちのための日常の場所、というインフラとしての意味を除いてはかんがえられない。海へ一直線に伸びる軸状の広場空間を用意する、という古典的でシンプルなプランニングは、まずはだれでもわかりやすく共感しやすい価値、すなわちだれにたいしても等しく開かれた価値をまんなかに据えるという意味で、とても正しいアプローチだった。
おそらく、この「だれにたいしても等しく開かれた」場所の具現こそ、本作の核心である。そのために施されたデザインは、周到だ。たとえば道路と建物敷地の境界、建物敷地間の境界は、徹底して消されている。なにより感心させられるのは、軸線に面した空間であれ、建物と建物の隙間の空間であれ、おなじ密度、おなじ質でデザインされていること。敷地全体をつうじて、空間の質の差がほとんどない。むしろ、隙間の空間が魅力的で心地がよい。この所作によって、シンボル空間の価値が内部に閉じこもらず、隙間から周囲ににじみでている。これには、隅々まで神経のゆきとどいた全体計画と、計画の意思を具体の空間に落としこむデザインとの高度な意思疎通が必要で、簡単なことではない。
結果は正直である。いま、町民はもちろん、さまざまな人がここにやってきて、思い思いの場所で好きに時間を過ごす。こんな復興の風景は、女川にしかない。
解せないのは、駅が応募範囲からはずれていること。この計画において、駅は必要欠くべからざる存在ではなかったのか。今回の受賞の意義を、駅にも共有してほしいと願う。(中井)
「海を眺めて暮らすまち」震災後の東北沿岸部でこのコンセプトがどれほど重みを持つかを、8年が経過した今日、私たちは目のあたりにする。土地造成、高台移転、景観計画、商業地計画とエリアマネジメントなど、震災復興はもとより今日日本の多くの都市が抱える都市デザインの諸問題をこのプロジェクトは、骨太な公民連携、リーダーの決心、優秀な専門家の介在によって克服してきた。
防潮堤高さを下限に造成によってつくられた傾斜地に、当該エリアは造られている。駅前広場からシンボルロードにそって海を眺めらながら商業エリアに至る坂道は、未曽有の震災の復興策として誕生したのだが、それを超えた観光地として海辺の町の心地よさと今日的消費の期待感にあふれている。
地域の風景に寄り添う建築は低層で分棟され、傾斜を活かしながら、眺めの良いデッキや路地で構成され、ランドスケープと見事に連携している。敷地を分断するはずの道路は、舗装の工夫で広場にとりこまれるなど、全域は経年に耐えうる周到なランドスケープデザインである。またエリア全体で個別解としてまちなみ誘導がおこなわれてきたことは、このプロジェクトがいかに、公民連携で実施されてきたかを物語るし、高台の住宅地からは、観光客のあふれる商業エリアが眺められ、海と商業地と住宅は「海を眺める」視線でつながっており、この地に新たな起業・居住魅力を創出している。
素早い取組みで協議を重ねることができたからこその、人々が暮らし続けるためのまちづくりが実現しており、土木デザインの真骨頂がここにあった。(長町)
※掲載写真撮影者は左から2・5枚目がNacasa & Partners、3枚目が女川町