東京都品川区平塚2-16-1
駅施設
既存ホーム屋根の上から架ける新しい木造屋根
東急池上線戸越銀座駅は品川区西部に位置し、駅前では都内でいちばん長い戸越銀座商店街と交差する。
1927年の開業から約90年が経過し、地域から親しまれた木造駅施設であったが、老朽化した施設の更新や沿線価値向上を目的とし、駅舎の内外装リニューアル、ホーム屋根の建て替えと延伸、構内トイレの建て替えを計画した。計画にあたっては駅利用者や地域住民の意見を参考に、既存の木造駅施設の歴史性を継承・昇華させると共に、ここにしかないローカリティが感じられる「駅らしさ」の創出や地域のさらなる活性化に貢献することを考えた。
ホーム屋根の構造は、スギ・ヒノキの集成材パネルを嵌合させ壁と屋根を一体化させたシザーストラスアーチと、鉄骨フレームによるハイブリッド構法とした。
本構法は、当該駅が住宅密集地に位置し、ホーム屋根の建て替えに必要な工事ヤードの確保が困難であること、列車運行を確保しながらの施工になることなどの施工条件から導いた。終電から初電前までの短時間の建て方作業を効率化するため、工場でプレカットした構造用集成材は1ピース70kg程度とし、大型重機を使用せずに人力で運搬、建て方を行える計画とした。シザーストラスアーチによってホーム上の柱を最小化できたことで、木に優しく包まれるような一体的なホーム空間を実現している。
また、ホーム上に露出しがちな照明や配線等についても、メンテナンス性を考慮した上で屋根と一体的に収めるように計画した。
東京都の多摩産材を約120㎥使用することで、鉄骨造に比べ建設段階のCO2放出量を約100t削減するほか、木材使用による炭素固定化により約70tのCO2削減に寄与している。
街を訪れる人びとを木のアーチや香りがやさしく迎え入れ、そして送り出す。戸越銀座駅がこれからも地域と共にある駅、愛される駅になることを願っている。
既存駅のリニューアルというのは、とても難しい。一つの駅の新築工事のために数ヶ月電車を止めることはほぼ不可能だからだ。この戸越銀座駅では、建築としてのデザイン、構造、工法など実現するための全ての要素を木の集成材のシザーストラスアーチと裏方に徹している鉄骨フレームを用いることでリニューアルを実現している。
特に評価をしたいことは、集成材パネルが構造材であり、組まれるとそのまま仕上げになるというこのデザイン手法にある。実際、このパネルは人力で組み立てられるサイズから決まっており、重機での搬入もせず、人の力で取り組んでいることが結果、ヒューマンなスケール感をうまく引き出している。
人が賑わうが幅の狭いヒューマンスケールの戸越銀座商店街の中の駅が、この集成材パネルよるデザインによって、巨大化することなく、商店街の一部として溶け込んだスケールにんでいる収まったことを評価したい。(東)
※掲載写真撮影者は上田宏