奈良県五條市大塔町辻堂
道路橋(一般国道168号)
夢翔大橋の架橋位置である紀伊半島中央部は、世界遺産や国立公園などの多くの重要な文化遺産が隣接しており、現在も急峻な山岳地形に美しく豊かな自然が守られている地域である。これらは後世に残すべき財産といえる。一方で、険しい地形から道路整備が遅れ、奈良県五條市から和歌山県新宮市へと紀伊半島を縦断する唯一の道路である国道168号は、道路幅が狭く対向車の確認が困難な急カーブが連続する車両離合不能区間や、大雨時の土砂災害により通行止めが多発する区間が多くある道路である。奈良県では、地域・広域の両面から安定した道路機能の早期確保を図るべく、国道168号を地域高規格道路「五條新宮道路」として位置付け、早期整備を進めている。
路線のほぼ中央部に位置する辻堂バイパスは、熊野川に沿って長大橋と長大土工が連続する路線の中でも特殊な区間である。そこで、委員会(五條新宮道路「大塔区間」景観検討委員会)が開催され、美しい国土創造を行い、建設コストを抑えた道路整備を行うための基本コンセプトとして「星ふる里の大自然に映えるシンボルロード」が定められた。さらに、夢翔大橋に対しては、熊野川を橋長384mで横断する長大橋であることから路線のランドマーク的な存在として、①Y字の正面形状による橋上空間の開放、②主塔接合部に曲線を配置した滑らかさをもったシルエットの採用、③大断面構造となる主塔橋脚に対して構造的・視覚的にスリムな形状の採用、の3点のデザインコンセプトが与えられた。
設計では、厳しい荷重条件に対する構造安全性とデザインコンセプトの実現を両立させるため、高強度現場打ちコンクリート(σck=60N/mm2)や高強度鉄筋(SD490)等の材料的なアプローチや、主塔橋脚にI型断面の採用等の構造的な工夫を行った。
結果、周辺景観とのバランスを保ちながら、美しい遠景・近景の橋のシルエットによって、利用者を楽しませる橋の風景が実現できたと考えている。
緩やかなカーブの先に、エクストラドーズド橋の開いた主塔が迎えてくれるランドマーク的な橋梁で、平面曲線に対する主塔の傾斜は感覚的に違和感がない。驚いたのは、これほど急峻な地形に立つ橋梁でありながら橋を眺める視点場が多いことで、役場に通じる旧道からは並行して見え、河川沿いの道路からは中景近景と見ることができる。実際に近くで見ると、斜面上への橋脚基礎の施工に竹割掘削工法を採用し、永久のり面を出来るだけ設けない対策が上手く功を奏し出来ていて、植生が復活して緑の中から橋脚が建つ姿は、もう何十年も前からここに建っているように見えた。また、スケール感に合ったサークルハンチを使った大きな角付と凹みが設けられ、さらに高強度材料の使用による断面の小型化と合わせて、巨大な橋体の大きさを感じさせない。
地域の方に聞くと、まだまだ町のシンボルとしての認識は低いようだが、いつしか町のランドマークとなることを願う。(丹羽)