大阪府堺市堺区築港八幡町付近
都市高速 ジャンクション
三宝ジャンクション(以下,三宝JCTと記す)は大阪府堺市の臨海部に位置し,阪神高速4号湾岸線と6号大和川線との交通の結節点となるジャンクションである。三宝JCTは限られた用地の中に9 つのランプが計画されたため,ここでは一般的なY型やクローバー型ではない変則的なレイアウトが採用された。三宝JCTには耐震性の確保と建設・維持管理に関わる経済性の向上が求められたため,構造物がコンクリート橋,鋼橋および擁壁の組合せで計画された。
古墳時代からの歴史を有し,臨海部再生・創造ビジョンにより将来の発展も期待される堺市から,三宝JCT建設に当たり周辺景観や地域の文化への配慮が求められ,阪神高速道路の理念である「安全・安心・快適な道路」の実現も求められた。
以上の要請に答えるため,三宝JCTでは全体での統一感の確保,構造物間での連続性の向上および圧迫感の軽減をデザインコンセプトとした。橋桁などの上部構造には連続性を向上させる処理を施し,橋脚などの下部構造には統一感を図りつつ圧迫感を軽減し目立たなくする処理を施した。これらの配慮により,相対的にランプの曲線(道路線形)の美しさを強調し,周辺に配慮した景観を創出した。同時にドライバーの視点が定まり,スムーズな視線誘導を図ることで安全で快適な走行環境も実現した。
壁高欄の外面を折り曲げ,陰影効果により道路線形を強調した。鋼橋とコンクリート橋の掛け違い部で鋼橋の側縦桁とコンクリート橋の桁高を合わせるなどの処理により連続性を向上させた。鋼橋とコンクリート橋の橋脚で統一感のある意匠とし,張出し部を曲線にするとともに橋脚中央部には圧迫感を軽減する表面処理を施した。
さらに,堺市の古墳群をイメージし,ランプのループ内部を円錐形の盛土構造とする等,地域の歴史に関連したランドスケープデザインで地域の文化に配慮し,訪れる人に過去を想起させる装置としての効果も期待した。
夕陽に浮かび上がる姿は、巨大な彫刻のように見える。
変則的な流線型レイアウトと高低差を駆使したことや、鋼橋とコンクリート橋の不連続性に対して桁高を合わせることや、曲線の美しさを強調する壁高欄を折り曲げての陰影効果などが彫刻のような一体性につながっている。緑色の既存高速とジャンクションの白色部分の連続性も遮音壁等の工夫により滑らかな移行が実現している。何よりもドライバー目線で行先に対する明確性が担保されており、複雑なジャンクションの課題を克服している。
一方この高速道路の繊細なデザイン展開に比して、地域の文化に配慮し、訪れる人に過去を想起させるという計画には一考を求めたい。古墳をイメージした築山形成、大阪城築城時の残念石の可視化、旧護岸石を石畳化など、扱う要素や展開は一定評価できる。しかし、訪れる人への配慮に欠け、築山への視点場は少なく、残念石はフェンスで近づけず、石畳はガードレールで視認できない。高速道路の空間とトータルデザインによる改善が必要であろう。
このジャンクションは、変わりゆく堺市の沿岸部と他の地域を結びつける新たなハブとなっており、地域景観に寄与する道路としての象徴的な役割も果たしている。今後変わりゆく地域と共に歩める風景となることを願う。(忽那)
世間には「ジャンクションマニア」なる方々もいるように、幾層にも重なった橋梁に萌える写真集が出版される時代である。この作品では、ジャンクションの機能である高速道路同士をスムーズに繋ぐ・連続化することの他に、デザインコンセプ
トである全体での統一感確保、構造物間での連続性向上、圧迫感低減が実現されている。鋼橋とコンクリート橋とを同系色とし、さらに桁断面の連続化による一体感で、ほとんど見分けつかない。
ジャンクション橋梁として、鋼桁とPC桁との一体感、PC版桁と橋脚との剛結構造に代表される上下部工の連続性、排水管など付属物が見えない工夫など、高架橋を設計する上での模範となるデザインである。
ただ残念なのは、本橋の大半が工場の敷地に接することで視点場が限られ、デザインされたジャンクションを自由に見ることが出来ない(実見の際は工場に交渉して敷地内を案内いただいた)。また、堺市のアイデンティティーである古墳をイメージしたループ内の盛土や、大阪城築城の際に役目を果たせなかった残念石を大阪城に向かう軸線直角に並べたり、かつてこの地が港であった護岸石を活用した部分などに一般の方は近づけず、そうしたランドスケープでの仕掛けが目につかないことである。(丹羽)