選考結果について

優秀賞

MUFG PARKMUFG PARK

東京都西東京市柳沢4-4-40
広場、運動施設、図書館、管理施設、駐車場

 東京都西東京市の南東部、周辺を大学や小中高校に囲まれた落ち着いた文教エリアの一角にMUFG PARKは位置している。1952年に開場されたのち、企業の私有施設として運動施設や研修施設に活用されながら、現在まで豊かなみどりの環境が守られ、武蔵野地域の希少な植生も見られる都市部の貴重な雑木林が保全されてきた。本計画は、貴重な環境資源を活かし、広く一般の市民に開放される「PARK」として整備したものである。
 計画にあたっては、「自分らしい Quality of Life を追求できる場」をコンセプトに、貴重な自然価値の保全・継承、コミュニティの形成支援、レジリエントな社会の創造など、次世代に向けて、地域・社会の多様な問題解決に取り組み、地域の市民が集う場とすることを目指した。
① 自然環境の保全・継承:現地調査の上、既存樹木を極力避け、微地形を生かして、施設や園路を配置。また、雨水はすべて地中に浸透させる計画とした。貴重な植生が確認できた範囲は、工事中も立ち入り禁止にし、一貫して計画地の環境資源の保全・継承に配慮した。
② 地域への配慮(コミュニティ):地域のコミュニティ形成に寄与するライブラリーを整備。有料施設のテニスコート、グラウンド、バーベキュー広場に加えて、グラウンド外周には誰もが自由に使えるランニング&ウォーキングコースの整備や、園路沿いのベンチ設置など、地域に開かれる計画とした。
③ 地域への配慮(レジリエンス):敷地をセットバックして誰もが通行可能な歩道を整備。また、避難広場としての利用に配慮し、駐車場の照明は、給電可能なコンセント付き独立式ソーラー照明とするなど、地域住民の安全にも配慮した。
④ 運営への配慮:設計段階から運営事業者と協議を重ね、キッチンカーなどのイベント利用や、施設管理に配慮した計画とした。計画地内のドングリを拾って実生苗の育成他、開園後は、植樹祭、自然観察会、フードマルシェなど、多様なイベントが実施されている。

《主な関係者》
○栗林 茂吉(株式会社三菱地所設計 都市環境計画部)/全体統括
○津久井 敦士(株式会社三菱地所設計 都市環境計画部)/設計主管、監理主管
○塚本 敦彦(株式会社三菱地所設計 都市環境計画部(当時)、株式会社三菱地所設計 人事企画部(現在))/設計担当、監理担当
○大谷 育夢(株式会社三菱地所設計 都市環境計画部)/監理担当
○田代 英久(株式会社三菱地所設計 都市環境計画部)/設計担当(~基本設計)
○朱 豊(株式会社三菱地所設計 都市環境計画部)/設計担当(~実施設計)
○大森 晃(株式会社三菱地所設計 建築設計三部(当時)、株式会社三菱地所設計 建築設計四部(現在))/建築統括・設計主管
○髙橋 祐太(株式会社三菱地所設計 建築設計三部(当時)、株式会社三菱地所設計 東北支店(現在))/設計担当、監理担当
○長谷川 結以(株式会社三菱地所設計 建築設計三部)/監理担当
《主な関係組織》
○株式会社三菱UFJ銀行/事業者
○日本道路株式会社/施工者
○東急建設株式会社/施工者
○株式会社石勝エクステリア/運営事業者、維持管理
《設計期間》
2020年8月~2021年12月
《施工期間》
2022年3月~2023年6月
《事業概要》
敷地面積:62,524.48㎡
立地環境:第一種低層住居専用地域
主要施設:広場、運動施設、図書館、管理施設、駐車場
その他:西東京市 避難広場
《事業者》
株式会社三菱UFJ銀行
《設計者》
株式会社三菱地所設計
<設計協力者>
サイン:有限会社井原理安デザイン事務所
照明:Lumimedia lab株式会社
《施工者》
ランドスケープ工事:日本道路株式会社
ライブラリー棟工事:東急建設株式会社

講評

 民間企業の福利厚生施設を地域に開かれた公園・運動施設として再整備したものである。既存樹木を極力残し、雑木林であった元来の環境を未来へと継承し、それを地域資源として地元に還元しようとする姿勢は高く評価できる。主たる建築はライブラリーと管理棟であり、なかでもライブラリーは広場に対して軒を低く抑え、大きな樹木に包まれるようにひっそりと建っている。その佇まいは公園の風景としてとても美しい。公園内では子供たちが元気に遊び回り、ライブラリーの縁側では親や祖父母が子供たちを見守っている。ライブラリーは読書や学習に励む人々で賑わい、その裏手ではBBQを楽しむグループや、テニスやジョギングに汗を流す人々の姿で溢れている。多世代による、多様なアクティビティがうまく共存できており、市民の交流の場、活動の場として十分に機能している。
 民間施設であるがゆえに夜間は施錠されること、外周にフェンスが張り巡らされ景観上の配慮に欠けることについては、審査の過程で議論になったが、民間企業による地域貢献の優れた事例として評価すべき作品であり、今後も地域住民の憩いの場として長く親しまれていくことを期待するものである。(栃澤)

 民間企業の所有地を地域に開放した本計画は、施設整備から運営までパブリックスペースづくりの手本となるプロジェクトである。PFI、P-PFI等、民間が関わる不安定な公共の場とは一線を画し、持続的な価値を生み出す決心を感じとれる取り組みも評価に値する。
 スポーツ・健康増進環境づくりとしてグランドやテニスコートが整備され、交流機能としてライブラリーやBBQ施設が整備されている。各施設では、地域や関係者と共に学び活動するようなイベントが開催され、完成後も意欲的な人や地域とのつながりを生み出す努力がなされている。
 初期の整備から70年以上たった樹林は、地域の中で貴重な自然環境となっている。建物やイベントスペースを整備しながらも、地域資産である樹林の伐採を最小限とした計画や粗放管理など、生態系に対しても配慮された管理も行われている。施設整備と運営の工夫は、各所に心地よさと愛着を生んでいる。
 優秀賞にとどまる理由には、境界部のデザインがあげられる。外周部の境界をセットバックし、歩道を提供した取り組みの半面、境界のフェンスが周囲に対して圧迫感や希薄な関係を生み出してしまっている。境界部の設えを越える持続的な運営を期待したい。(石井)

※掲載写真撮影者:左から1枚目、3~6枚目撮影者は株式会社ナカサアンドパートナーズ(太田準也)