東京都八王子市高尾町地内
公園、河川
年間300万人が登山する高尾山の麓に生まれた、河川・公園の一体的整備による高尾山口駅前のかわまち空間である。地域住民の暮らしの場である駅周辺は、観光客増大による課題を抱えており、八王子市は2011年以降、景観計画の重点地区指定、都市計画方針、オーラルヒストリー調査、周辺整備計画と、暮らしと観光交流の共存するまちづくりに取り組んできた。
2017年頃に検討が始まった案内川の河川改修の機会を捉え、市も河川沿いの公有地を公園として整備することとし、都と市、設計チーム、市景観アドバイザーが協働し、防災力を高め、地域住民と来訪者が高尾山の豊かな自然を感じ、活動できる場づくりに取り組んだ。
全体構想にあたっては、地域の記憶を継承し原風景を育み続ける場、高尾山の玄関口としてフィールドミュージアムとなる場、地域内外の人々のつながりが広がる場をコンセプトとした。その実現に向け、管理区分を超えて水辺をまちに開くデザイン、朝の登山動線と通勤動線の輻輳を解決しつつ麓の回遊性を高めるデザイン、登山せずとも楽しめる麓の居場所のデザイン、利用者が使い育てる余地を残すデザインを目指した。
具体的には、川で遊ぶ子どもを見守りやすく、大人も川で遊びたくなる水際テラスと幅広のベンチ式階段護岸、風景に馴染み生態系を保全できる空石の護岸構造、隣接空間を取り込み既存地形を活かす公園の空間構成、伐採したケヤキを利活用した滞留空間、駅前施設や街路の境界デザイン、地域性種の植栽などにより、高尾山麓全体の魅力を高めるトータルなデザインに取り組んだ。また計画から施工まで関係者協議を継続的に実施しデザインの質を確保した。
竣工後は、川に入って堰をつくって遊ぶ、川面をのんびり眺める、斜面を駆け回る、ケヤキのベンチで団子を食べるなど、さまざまな日常の光景が生まれている。水辺に親しむ文化を守り、これからも利用者とともに場所を育てる活動に取り組んでいきたい。
駅前の雰囲気が明るく一変し、機能性も増した好事例だと思う。管理区分を越えて空間を連続させ、地形を活かして、動線等の問題を解決するとともに、奥行きある心地よい空間と水辺の楽しみを創出している。私が訪れた際は、様々なグループが各所に滞留・滞在し、大勢の来訪者が靴を脱いで水に入っていて、整備された全体が利用し尽くされていた。
まず、駅前からロープウェイ駅へ向かう道の脇の陸上空間がよい。ちょっとした道のふくらみであったり少し奥まった木陰空間であったりと幾重かの異なる高低差・距離感で連なる構成となっており、これは動線を整理しつつ様々な人が同時に居られる空間として有用だろう。そして河岸。緩勾配の階段状に改修された箇所では水面への視線が確保され、空間が広がっている感覚を演出すると共に水辺への行動を促している。
水辺のテラスは絶妙な高低差で上流側半分が水面より上にあり、残りはごく薄く水が乗っている状態で、裸足になって入りたくなる効果的な設えとなっている。
直線化した水際に軽い深掘れ傾向が見られ、今後河床の動きを観察していく必要がある。また、伐採したケヤキ巨木を残して活かす方向性はなかっただろうか。(西山)
高尾山のふもとにおいて、川と人の関係性を蘇らせた意欲的な場づくりだ。その効果は地域内外の人々の新たな目的地となっている。晩夏に訪れた際、親子が川に浸かり遊ぶ姿や、登山客が階段に座り佇んでいる姿が見られた。かつて信仰の為に入山した来訪者と地域の子供たちが、交じり合っていたであろう懐かしい風景の再生にも繋がっている。
高尾山ふもと公園と案内川が連携し、高尾山駅と連続する一体的な整備がなされたことで、エリア全体の価値向上につながっている。計画段階では、市民ワークショップによる聞き取りが行われ、景観アドバイザーが継続的に場づくりを関わるなど、横断的な取り組みが行われた事は、計画地にとどまらない価値に繋がっている。総合的な指針をもちながら、個別の価値を高める場づくりが今後も広がっていくことを願っている。
優秀賞にとどまる理由としては、既存の施設と境界部の設えに課題があったことが挙げられる。計画により既存の橋は、見上げたり触れたりできる身近な存在となるはずだったが手つかずとなっている点。境界部の横断防止柵が、川との関係性を希薄にしてしまた点は、今後のエリア整備の中で工夫がなされること願っている。(石井)
※掲載写真撮影者:左から1~5枚目が関宏光、6枚目が二井昭佳