奨励賞

津久見川河川激甚災害対策特別緊急事業Tsukumi River Severe Disaster Special Emergency Project

大分県津久見市 岩屋地区・宮本地区
河川、橋梁、広場

　津久見川は2017年台風18号の豪雨によって氾濫し、周辺地域に甚大な浸水被害を引き起こした。大分県は再度災害の防止を図る河川激甚災害対策特別緊急事業に着手し、河床の掘削と引堤による河道拡幅、特殊堤（パラペット）設置と二つの橋梁架替を実施した。本事業では被災した市民が住み続けたいと思えるかわづくりを目標に、治水機能の向上と被災前よりも豊かな河川空間の創出が目指された。また大分県と供用後の維持管理に従事する津久見市、全体のデザイン提案と調整役を担う福岡大学景観まちづくり研究室が「津久見川PT」を事業当初から発足させ、連携する体制が取られた。本PTによる周辺住民へのヒアリング及びワークショップの実施によって「川沿いを散策できるように」「夜も明るく・楽しめる道」等の意見が把握され、事業計画への反映と市長への直接プレゼン等を経て、景観や親水性を考慮した改修案が導出された。
　本事業では、以前コンクリートだった護岸を大分県産の割石を用いた石積みに更新し、特殊堤は一般的な重力式から断面を鉤型形状とし、照明を内蔵する独創的なデザインで新設している。特殊堤の河川側は天端まで石を埋め込むことで護岸と連続させ、天端と内地側は骨材に使用した地場産石灰石の風合いが感じられる洗い出し仕上げとした。架替後の下岩屋橋、新港橋は桁高が最小となる構造形式を採用し、地覆や高欄等、橋梁側面がよりスレンダーに見える工夫を施した。下岩屋橋の高欄には特殊堤と同色温度の間接照明を配備し、両橋の袂にできた残地は休憩広場として整備した。災害前にない高質化に相当する整備は復旧を主旨とする激特事業費では対応しにくい。よって本事業では市が改修にあわせて社会資本整備総合交付金を取得し、市中心部から川沿いにまちなかウォーカブル区域を設定、照明や広場化等の予算を捻出する連携策によって災害対策と河川空間の高質化を一体的に達成した。

《主な関係者》

○柴田 久（福岡大学 景観まちづくり研究室 教授）／全体コーディネート、基本設計·詳細設計監修、工事監理
○疋田 拓郎（大分県 臼杵土木事務所 建設課（当時）、大分県 土木建築部 建設政策課（現在））／事業管理、調整、工事監督
○上薗 怜史（津久見市 まちづくり課）／予算管理、照明設置、用地整備業務監理
○森本 龍輝（津久見市 土木管理課（当時）、津久見市 まちづくり課（現在））／用地交渉、予算管理、橋梁設計業務監理
○池田 隆太郎（福岡大学 景観まちづくり研究室 助手）／基本設計·詳細設計監修補助
○原田 麻里（福岡大学 景観まちづくり研究室 秘書兼スタッフ）／詳細設計監修補助
○松原 恭博（協同エンジニアリング 株式会社 技術第二部）／橋梁詳細設計
○三代 太一（東洋技術株式会社 水工部（当時）、九州建設コンサルタント 水工第二グループ（現在））／護岸詳細設計
○有門 亮（東洋技術株式会社 構造部）／橋梁詳細設計
○涌田 充裕（エイト日本技術開発 国土インフラ事業部 九州支社（当時）、エイト日本技術開発 橋梁事業部 九州支社（現在））／橋梁予備設計
○廣重 太一（株式会社 ヒロシゲ）／広場内ベンチ工事主担当
○伊東 忠文（大分県 建設業協会 津久見支部 支部長）／施工工事、調整業務主担当

《主な関係組織》

○津久見川PT(プロジェクトチーム)／事業計画構想立案、市民意見聴取

《設計期間》

2018年10月～2020年6月

《施工期間》

2020年9月～2023年8月

《事業費》

約50億円

《事業概要》

等級：二級河川
事業区間：1,750m
改修内容：河床掘削
　　　　　河道拡幅（引堤）
　　　　　橋梁架替（下岩屋橋（人道橋）、新港橋（道路橋））
　　　　　特殊堤（パラペット）の設置　
　　　　　残地広場整備

《事業者》

大分県 河川課
大分県 臼杵土木事務所
津久見市 土木管理課、まちづくり課

《設計者》

協同エンジニアリング 株式会社
東洋技術 株式会社
株式会社 エイト日本技術開発
＜設計協力者＞
福岡大学 景観まちづくり研究室

《施工者》

協和産業 株式会社
津久見建設 株式会社
株式会社 東和建設
小代築炉工業 株式会社
株式会社 大鐵
株式会社 臼杵造船所
＜施工協力者＞
昭和鉄工 株式会社

講評

　市街地を貫く背骨が生き返った、という感がある。整備前にはコンクリート擁壁の護岸で市民の生活から隔てられがちだった津久見川は、明るく清潔感のある川辺の空間へと再生が果たされた。激特事業の時間制約の中で、関係者と調整し、市民の声を集め、まちづくり計画をも連動させてとりまとめられている点は見事である。重厚な石積護岸にシャープな印象の橋を組合せた、一貫したイメージの基軸があり、ここに人々の利用のための仕組みが埋め込まれている。柵を省いたことや、人道橋周辺で滞在空間と水辺に降りる経路を設けたこと等が自由な川への眺めとアクセスを、照明が夜の空間利用を許容していて心地よい。
　新設された水際のテラスに沿って河床侵食があるようで、親水を意図した地点の前面が整備の影響で深くなってしまっている点は課題であろう。パラペットの川表側に石を張った仕上げには、コンクリート面との取合い部の粗さも含めやや違和感が残った。（西山）

※掲載写真撮影者：左から6枚目がToLoLo studio