選考結果について

優秀賞

中之島通の歩行者空間化Pedestrianization of Nakanoshima-dori

大阪府大阪市北区中之島1丁目1−27
道路・公園

 本事業は大阪市中央公会堂などの大阪を代表する歴史的建造物や文化施設が隣接し、景観上重要な区域にある中之島通において、交通安全性・歩行者の回遊性・大阪都心の魅力向上を図ることを目的に、歩行者空間化を行ったものである。車中心の空間から人中心の空間に転換し、世界に誇る「水都大阪」にふさわしい新たな歩行者主体の公共空間を創出することが目指された。また、中之島通(公会堂周辺)と中央公会堂前広場は、公会堂を引き立て、「文化・芸術の交流の場」としてふさわしいシンボリックな広場に再編され、中之島の新たな日常の風景を生み出した。
 本事業の契機になったのが、「こども本の森 中之島」の開館である。交通安全性の確保が求められたなかで、「中之島公園再整備基本計画」に基づき、中之島通は景観軸の見通しの重要性と、並木のビスタによる公会堂のシンボル性を重視し、既存の公園との一体性も考慮し、その景観価値の最大化が図られた。また、整備の空間利活用を想定し、新たな交流・日常の舞台となる「人のための広場」となるように整備された。
 公会堂前広場の整備にあたっては、柔軟な利活用を可能にするための必要面積の確保と、自動車と歩行者の動線への配慮、そして広場の空間の質を考慮して、道路の幅員と線形の変更を行った。また、日祝日の自動車通行止め時に、道路を含めた広場・公園の一体利用を想定して整備された。
 本事業の実現においては多くの課題に直面した。周辺の交通問題解決のための交通シミュレーション、社会実験による利活用の検証を重ね、周辺地域と丹念に合意形成を図りながら事業が進められた。また、整備前から、利活用社会実験やエリアマネジメントの取り組みを進め、整備直後からさまざまな利活用やイベントが実施され、市民のハレの場、憩いの場として定着した。

《主な関係者》
○山口 敬太(京都大学大学院 准教授)/デザイン監修・管理支援
○嘉名 光市(大阪公立大学大学院 教授)/デザイン監修
○小野寺 康(小野寺康都市設計事務所)/デザイン監修
○鎌木 隆太(株式会社 日本インシーク)/中之島通の計画・調査・設計担当
○今西 実(株式会社 日本インシーク)/中之島通の設計担当
○河本 一典(株式会社 日本インシーク)/中之島通の計画・調査担当
○岡田 哲也(中央復建コンサルタンツ 株式会社)/公会堂前広場・道路の調査・交通計画担当
○梶川 遥奈(中央復建コンサルタンツ 株式会社)/公会堂前広場・道路の設計担当
○山本 琢人(中央復建コンサルタンツ 株式会社)/公会堂前道路・広場の管理・活用計画担当
《主な関係組織》
○株式会社 日本インシーク/中之島通の計画・調査・設計・合意形成支援
○中央復建コンサルタンツ 株式会社/公会堂前広場の計画・調査・設計・合意形成支援
○中之島歩行者空間デザイン検討会議/デザイン監修
○京都大学大学院 景観設計学研究室/景観検討
《設計期間》
2018年9月~2022年3月
《施工期間》
第1期整備 2020年2月~2021年4月
第2期整備 2022年9月~2024年2月
《事業費》
1,120,000,000円
《事業概要》
面積:1.0ha
立地環境:大阪市北区中之島公園周辺地区
主要施設(主要事業):
中之島通:第1期工事
中央公会堂前道路・広場:第2期工事
中之島公園改修:第2期工事

■中之島通:第1期工事
総面積:0.4ha
擬石平板・自然石舗装、照明施設、植栽、サイン

■公会堂前広場・道路:第2期工事
総面積:0.4ha
擬石平板・自然石舗装、照明施設、植栽、ボラード

■中之島公園改修:第2期工事
総面積:0.2ha
ベンチ、植栽、照明施設
《事業者》
大阪市 建設局
《設計者》
株式会社 日本インシーク
中央復建コンサルタンツ 株式会社
<設計協力者>
中之島歩行者空間デザイン検討会議
京都大学大学院 工学研究科 景観設計学研究室
《施工者》
株式会社 高山組
株式会社 三輪建設
<施工協力者>
太平洋プレコン 株式会社

講評

 車道が廃止され、中之島公会堂と一体となった歩行者空間化されることにより、従前と全く異なる質の公共空間が創出されている。もともとこうだったのではないかと感じられるほど、公会堂に向かうアプローチとして自然な一体感である。
 歩行者空間に対して公会堂正面の軸がずれているため、歩行者空間をケヤキ並木と側溝でヴィスタを形成しつつ、直交するボーダーでリズムを刻み、トーンを合わせた舗装が視線を連続させる。公会堂前で円弧を描く車道と少し角度が開く並木で軸のずれを感じさせず一体化させる。デザイナーの優れた力量が発揮された要素の配置・テクスチャによる巧みなデザインである。特に、歩行や滞留のアクティビティに応じた場所ごとの舗装割付が秀逸である。
 実現にあたっては、車道を歩行者空間化するために、社会実験による検証や多岐にわたる関係機関との協議を繰り返し、人中心のまちづくりへの転換の模範となる取り組みがされている。
 一方で、地下のバイク駐輪場アプローチや周辺に残る既存の公園のボキャブラリーとの整合性などは課題が残る。
 丁寧にデザインされた空間が今後も継続的な利活用により、大阪のシンボルとして育っていくことを期待する。(太田)

 土地に刻まれた軸線を再び印象付けるようなダイナミックな計画と細部にわたり配慮がなされた秀逸なプロジェクトであった。エリアを人々が行き交う公園として生まれ変わらせた事業であったことも、各地で取り組まれている公共の場づくりの好事例になるものである。
 大阪市中央公会堂前から難波橋まで整備された軸線は、東洋陶磁美術館、こども本の森、飲食店、地下鉄出入口、地下駐車場アプローチといった複数の施設をつなぐように伸びている。一方で公会堂と軸は、傾きが異なった構成となっている。その理由は、公会堂の前に存在した蔵屋敷や豊国神社に起因している。土地の文脈の中で生まれた軸のずれを受け入れながら、並木、舗装、ファニチャー等で規律を与え、一体感のある空間性を獲得している。本件のように密度が高く、未来の人々の資産となりえる公共空間を生み出すためには、十分な対話の時間が必要であることも発注者や市民に理解が広がることを願っている。
 優秀賞にとどまった理由は、土佐堀川との関係性の希薄さと滞留空間の不足である。川を含んだ回遊性と共に新たな文化や交流を生み出すような、さらなる継続的な取り組みがなされることを期待する。(石井)